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オマツリ奇譚  作者: 炬燵布団
第一章 九尾の少女
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第二十五話 ただいま

「おはようシズクちゃん!」

「おはようございます」


「二人ともおはようございます」


 今日の朝食の当番だった私は支度をして、起きてきた湯那ちゃんと涼太君を迎えました。

 ちなみに源治さんは私よりも早く起きて庭で準備体操をしています。そろそろ拓郎君も起こした方がいいでしょうか?


「そんな兄ちゃんに気を使わなくってもいいって!」

「むしろ今日も休ませた方がいいかもね。前の騒ぎの時の後遺症とか残ってるかもしれないし」


 ……そうですね。確かに拓郎君には今日も休んでもらった方がいいかもしれません。


 涼太君の言葉に私はあの夜のその後の顛末を思い出しました。拓郎君を元に戻すことができたのは良かったのですが、そのまま拓郎君は意識を失って倒れ込んでしまいました。

 それは身の内の妖怪の力を使い過ぎた代償であり、呪いというよりも契約と言っていい類で、生半可なものよりも、はるかに強力であるそうです。


 病院はもちろん退魔師や祓い屋でもでもどうすることができないので自力による回復を待つしかないそうで、高熱を出してうなされる拓郎君の姿を見て私は歯がゆい思いをしました。


 ですがそれでも一緒に看病をしてくれた明日香さんは何もできない私を尻目に薬草を煎じて飲ませたり、祈祷を捧げるなどの処置をしてくれました。それが功を奏したのかその二日後、拓郎君は目を覚ましました。

 本当に良かったのですが、結局私は何もできなかったのでなんだか複雑です。その旨を明日香さんに直接言ったら、思い切りデコピンされました。


「アイツをこっち側に引き戻した一番の功労者が何を言ってんのよ」


 他の方々に話してたような敬語ではないおそらく彼女の素であろう蓮っ葉な口調で言われました。それでも悔しい事に代わりはありません。元はと言えば私が全ての元凶だった訳ですし。

 しかも余談ですが、この方、拓郎君と幼馴染で実は隣のクラスだというじゃないですか。何なんでしょうね、このモヤモヤ。


「アンタの中のそいつらは緋暮さんのおかげで一時的に大人しくなっただけなんだからね。せいぜい油断しない事ね」


 その日の夜、意識があるのかないのかわからない拓郎君にそう言い残して、明日香さんは家に帰っていきました。ついでにそれと入れ替わるように源治さんが意気揚々と帰ってきたのです。


 帰ってきて早々寝込んでいた拓郎君の姿を見て爆笑した源治さんを、冷奈さんは正座させお説教しました。これは源治さんが悪いですね。

 源治さんも源治さんで私達の知らない場所で頑張ってくれていたのは知っていましたが、お土産の温泉まんじゅうの箱を見て拓郎君ともどもイラッときました。


 というか、拓郎君の方はぶちきれて全体重をかけたドロップキックを喰らわせていました。

 

 私としても温泉で遊んでる暇があったらさっさと戻ってきて欲しかったです。

 そもそも古傷が元で引退していたんじゃなかったんですか? そう聞いたらドヤ顔で『古傷は痛むが戦えないとは言ってない』と負け惜しみのような事を抜かしてきやがりました。やっぱ私もドロップキックをお見舞いしたかったです。


 それと退魔師の人達の話ですが、あの人達はあの人達で私を監視するという名目ででこの街にしばらく滞在するそうです。

 正直、私個人としてもあの人たちに対して色々と思う所がないわけではないですが、ここはグッと堪える事にします。ええ、我慢しますよ。あの人達が居を構える事になった事務所を調べて無言電話をかけてやろうだなんて思ってないですよ。階段口に犬のフンの設置だなんて企んでないですよ。……そんな悪ガキじみた事考えてないですよ? ……いやマジで、HAHAHA!


 私達は拓郎君に書き置きとラップをした朝食を残して三人で学校に向かいます。


 途中の分かれ道で小学校へ向かう湯那ちゃんたちと分かれます。振り返ってみると湯那ちゃんが思いきり元気よく手を振ってくれました。

 結局二人は私について何も聞いてきませんでした。こちらから何かを言おうとしても涼太君に口を塞がれてしまいます。


 これは気を使ってくれているのでしょうか?


 そんな事を源治さんに聞いてみた所、『あの子らにそんな器用な真似はできんよ。おそらく向こうもお主の事情を受け入れる心の準備が必要なんじゃろうて。それができるまで待っててくれんかの』人はそう簡単にはわかりあえない。だけど頑張ればそれなりに話ができるようにはなるだろう、と源治さんは最後にそんな事を付け足しました。


 だとするなら私の前のの学校の人達。あの人達とも頑張れば仲良くできたのでしょうか? わかり合うことができたのでしょうか? いまさら無駄だとわかっているのにそんな事ばかり考えてしまいます。


 学校の教室に入ると、クラスの皆が快く迎え入れてくれました。正直またここに戻ってくれるとは思いませんでした。


「なんだよー。夜帳は今日も休みかよー」

「久しぶりにイジメてやろうと思ったのによぉ」

「……お前、いつも最後は反撃されてるだろうが」

「まあジャンケンでパシらせる時とか格好のカモだよな」

「アイツ、ジャンケンやたら弱いよな」


 クラスの男子の人たちの会話を聞いて拓郎さんも慕われているんだと再認識します。……慕われてるんですよね? これが男子のふれあいなんですよね? 信じています。


「おっはにゃあぁ! シズクちゃああん!」


 わひゃあああああ!? 後ろから胸をわしづかみにされて慌てて振り払います。後ろには頭の猫耳をピンと張り上げながら三華さんが驚愕の表情で打ち震えていました。


「すげえ。マジすげえ……。なんて質量、柔らかさ……! シズクちゃん、ほんとに学生にゃ?」

「ちょ……、やめ……、ひぁ!?」


 何の話をしているんですか、この人は。

 ちょっと指の位置が洒落にならない所まで這い寄ってきたので、いい加減一発殴ろうかと思っていると。その前に後ろから美羽さんがチョップを叩き込んでくれました。ナイスです。


 その後、美羽さんたちといくつか雑談をしたのですが、一時期、騒いでいた街の妖怪達はすっかり落ち着いたようです。元はといえば私が原因だったので良かったです。


「なんというか……。あの時はごめんね? 無駄に怖がらせちゃって……」

「いえ……そんな、元々美羽さんは私を心配してくれたんですし……」


「いやー実際美羽ちんの反応は過剰だったんじゃないかにゃ?」


 そこへ三華さんが復活しました。結構タフですこの人。


「そもそも美羽ちんは心配性にゃー。人間だっておめでたいことがあれば浮かれてお祭り騒ぎしたりするにゃあ。今回はそれが妖怪だったってことにゃ」

「そうね。緋暮さんの不安を煽ったのは悪かったと思ってるわ。……本当にごめんなさい」


 そう言って美羽さんはこちらに顔を向けて心の底から申し訳なさそうに頭を下げました。私はどう返していいかわからず狼狽えてしまいます。


「土下座するにゃ!」

「あんたには謝ってない!」


 もう一度、チョップを叩き込む綾瀬さん、すると今度は周りにいた男子たちが反応してきました。


「綾瀬が全裸土下座だと!?」「何!?」「それは真か?」「ちゃんと涙目だろうな?」「俺、委員長には逆に土下座したい。そんでそれを蔑んだ目で睨んで欲しいんだがなあ」


「反応するなバカ男子どもが! あと全裸のワードはどこからきた!?」


 好き勝手な事を言ってくる男子にブチ切れた美羽さんは特攻をかけて教室が喧騒に包まれます。このまま朝のホームルームまで続くんでしょうか? そんな事を考えていると廊下の方からドタドタと走る音が聞こえてきます。明らかに先生じゃありません。


「間に合ったあ! オイコラ、俺を置いて先に学校に行ってくるとはいい度胸だな、シズク!」


 引き戸を開けてその人は滑り込むように教室に入ると私に向かってずごい勢いでがなりたててきます。おかしいですね。むぅ、書き置きを残したはずですが見てないんでしょうか?


「『明日は学校行く』って言っただろうが!」

「大事をとって今日も安静にしてもらおうと思ったんですよ! そこまで怒ることないじゃないですか!」

「うるせえ! 朝飯もいつの間にか家に上がり込んだバカ狸が平らげてやがるし散々だわ!」

「それは私関係ないですよね?」


 それ完全に八つ当たりも入ってますよね? カチンときましたから私も言い返します。心配しているこっちの身にもなれっていうんです。前から拓郎君のこのデリカシーのなさはどうにかした方がいいと思っていました。いい機会ですからここは心を鬼にさせていただきます。


「なんだかあの二人完全に打ち解けてないかにゃ? いつのまにか名前呼びになってるし」

「一つ屋根の下で何かあったのかもな。……夜帳のヤツ、やっぱシメるか?」

「他のクラスからも援軍呼ぶぞ。昼休みは打ち合わせと準備に回せ。放課後に狩りを始めるぞ」

「「「了解」」」


「アンタら……」


 なんだかクラスのみんなが色々言ってますがよく聞こえません。私は今、目の前のお馬鹿さんを反省させることに私は忙しいのです。


 今日も大変な一日になりそうです。 ……ありがとうございます、拓郎君。


「あ? 何か言ったか?」


「なんでもないです!」

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