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オマツリ奇譚  作者: 炬燵布団
第一章 九尾の少女
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閑話 造られた妖怪のお話

 少しだけ昔の話をするとしようかの。


 昔々、あるところに一人の退魔師がおった。そやつは腕がたつ上に魑魅魍魎から人々を守る退魔の務めに強い情熱と誇りを持っておった。

 じゃが、いくら強い心を持っておったとしても常に務めが上手くいくとは限らぬ。救えぬ者もおるし、仲間も死ぬ。どう足掻いても手の平から零れ落ちていく者達をそやつは受け入れることができなかった。


 皆を、人を守るためにもっと強い力を。


 そう思い、そやつは修行を重ねた。血の滲むような努力をな。だが、いくら努力を重ねても、できんものはできんし、守れんもんは守れん。まぁ越えられん壁というものはあるもんじゃ。

 それを受け入れることができなかったそやつはどんどん歪んでいった。修行は外法じみたものに変わっていき、妖怪や怨霊と戦うその姿もはまるで力の足らぬ己に対する鬱憤をぶつけるようであったという。

 そんな鬼気迫るそやつの姿を周りの皆は黙って見てる事しかできんかった。


 そして遂にそやつはより強い力を得るために一つの呪法に目を付けた。

 

 蠱毒じゃ。


 一つの壺の中に百種の毒虫を喰い合わせ、生き残った一匹を呪詛に用いる呪法。

 だが、そやつは毒虫を使わなかった。使ったのは妖怪じゃよ。こともあろうにそやつは百の妖怪達を捕え、一つの壺に押し込めて殺し合わせたのじゃ。


 最強の式神を手に入れるためにの。


 じゃが、結果的にそれは失敗した、いや、ある意味成功したといった方がいいかもしれんの。蠱毒によって生まれたソレは既に妖怪とすら言っていいかわからぬものじゃった。殺し合いによって生き残った一体か、百の妖怪達が喰らい合い混じり合い生まれた集合体なのか、詳しい事はわからん。わかっておるのはソレは一瞬で自分達を壺に閉じ込め生み出した退魔師を殺してしまったことだけじゃ。


 そこで終わっておれば力に憑りつかれた哀れな退魔師の末路の話で終わったのかもしれんの。


 じゃが、話はそこで終わらんかった。退魔師を殺したソレは今度はその息子に憑り憑きおったんじゃよ。これが本当の全ての始まりじゃった。

 ソレは病のように憑り憑いた人間の体をゆっくりと病のように蝕み喰らう。憑かれた者は長くとも三十前後、早ければ二十になる前には早世してしまうのじゃ。

 しかも、ソレはその憑いた対象が死ねば、今度はその娘に。その娘が死ねば、今度はその姉妹に。そうやってソレは世代ごとに一族の人間に今日まで憑り殺してきたのじゃ。


 「呪天」、「黒渦」、「廃鬼王」、……そして「空亡」。そやつは世代ごとに色んな名で呼ばれておる。今、お主の中で眠っておるのがそれじゃよ。……一部の退魔師達はお主らの事を『紛い者』と呼び忌み嫌っておる。まあ、彼らからすれば半妖以上の成り損ないという事じゃろうの。あくまで憑り憑かれている故に、ソレが表に出てこぬ限り妖力の探知もしにくいしの。


 今は先代のおかげかお主の体の中で眠っておるようじゃが、いつか目覚めるようなことがあれば、今までの者達と同じようにお主の体を喰らい始めるじゃろうよ。


 じゃがの、憑かれた人間の末路は皆短命といえど、人によって様々なのじゃよ。

 内側から食い殺された者もいれば、最後まで共生して天寿を全うした者もおる。


 これはその中の一人であるワシの姉……すなわち先代が言っていた事じゃが、考え方を変えてソレとどう寄り添い向き合うかが大切らしい。簡単に言うなら受け入れろっていう話じゃな。


 カカッ、それが一番難しいだろうがっと言いたい顔じゃなあ。そうじゃのう。確かにその通りじゃ。誰が好んで己の身の内に巣食う怪物を受け入られようか。じゃが、姉はそれを最後まで実践しておったよ。そして最期まで後悔はしておらんかった。むしろ身の内のそやつらに『救ってやれずにすまない』と謝っておった。最後までワシはあの人のそんな生き方が理解できんかった。


 その一方でワシはな。あの人の……姉者の生き方をとても美しいと感じたんじゃ。


 そして、そんな生き方をお前にもしてほしいとのう。


 独りよがりだとは思うとるよ。でもな、お前ならできるかもしれんのじゃ。姉者と同じ境遇のお前ならな。それに心残りこそ残してはいたが、姉者はそれでも笑っておったんじゃ。笑って逝ったんじゃよ。


 どんな辛い人生を歩んできたとしても、どんな不幸な目にあったとしても、そんな生き方ができるのなら、とても幸福なことだと思うのじゃ。

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