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陰(キャ)騎士と兎の少女  作者: 羊の迷宮
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第一話③

水瓶の月○●日 前も見えないような濃い霧に覆われています

孤児院にて


ここで住まわせてもらって二週間経ちました。

初めは、とても怖かったけどクレアさんも他の子たちもみんな良い人たちみたいです。

ナナシ様が日記を書いていると聞いて、私も書きたいと思いクレアさんに頼んで一冊のノートを譲っていただきました。

後から友達に値段を聞いて返却に行きましたが、クレアさんはプレゼントだと言ってもう一度私にくださいました。お礼を言ったら、ナナシ様の事をよろしくと言われました。

ナナシ様、私を救ってくださった方は冒険者の様です。時折朝早くに仕事に行かれて、夜遅くか翌日かに帰ってきます。

もっとお話しをしたいのですが、私と話をしていてもあまり楽しそうじゃなくてどうしようか悩んでしまいます。助けてくださったことにお礼を言っても、拒絶されてしまいます。

でもこの前、冒険のお土産として小さな花を採ってきてくださいました。クレアさんに頼んでしおりにしてもらいました。

今日はもう少しお話がしたいな。


………


同日

孤児院外れの小屋にて


午後、ナナシ様と一緒にリビングで読書をしていたらお客様がいらっしゃいました。

フードをかぶった小柄な狩人の女性と、キラキラの鎧を着た剣士の男性です。お二人はナナシ様の同業者の様です。突然の来客にナナシ様も驚いており、何やら仕事に関して難しいお話をしていました。

ここに来てからナナシ様のお友達が来たのは初めてだったので色々とナナシ様についてお聞きしました。

「「友達じゃない(わ)。」」

「えっ…。」

「………。」

予想外の言葉に思わず絶句していると、女性の方が話を続けました。

「私たちはただの同業者、時々仕事で組むけど友達じゃないわよ。」

「そうなんですか?」

「………。」

恐る恐るナナシ様に尋ねても、お茶を啜るだけで返事はありませんでした。

「仲が悪いわけじゃないぜ?腕は立つし、背中は預けられるがね。でも付き合い悪いんだよ、こいつ。仕事終わったらさっさと帰っちまうし、ノリも悪いしよ。」

「…仕事中に余計なことをべらべらしゃべる気がないだけだ。」

「おいおい、組んでる相手との会話を余計ってのはないだろうよ。気を利かせて話を振ってやった時は愛想笑いぐらいしろよな。」

「………。」

「まぁ、こいつがしゃべり過ぎなのは同意ね。」

「あいたたたーっ!味方と思ってたのに誤射されたよ!気をつけろよ、お嬢ちゃん。こいつは戦闘中も平気で人を背中から撃って来るんだぜ!」

「…でも決して誤射はしないな。」

「えぇ、意図的以外にはね。」

「あれぇ?いつの間にか2対1?ちょっとそりゃないだろぉ?」

剣士の方の大げさなリアクションにくすっと笑ってしまいます。

「んー、しかしまぁ。最近は特に帰りが早いと思ったらそういうことかぁ、こんなかわいい子がいりゃそりゃ早く帰りたくなるよな?こいつはどうだ?優しくしてもらってる?」

「あひぇ?」

いきなり話を振られて思わず変な声を出してしまいました。

「………。」

「クレアさんには手を出さないくせに、こういう娘が好みなのか、お前?」

「…メイプルは他の子供たちと一緒だ。そういうんじゃない。」

「でもクレアはあんたの奴隷だって言ってたわよ。」

「………。」

「うわぁ、お前それは流石の俺も引くわ。クレアさんには手を出さないくせに。」

「何で2回言った。」

「こいつはクレアが目当てだからよ。」

「あぁ…。」

「ちょっとー!純情な男心をサラッとばらすのやめてくれない?傷ついちゃうよ!?」

あの、本当にお友達ではないんですか?

「「「違う。」」」

今度はナナシ様まではっきりと否定されてしまいました。

「ま、そろそろ帰るわね。仕事の話も終わったし。」

「…気をつけてな。」

「クレアさんも留守みたいだし俺もそうするわ。」

「………。」

「俺には何もなしかよ!」

「あ、お見送りします。」

「ありがとう、でもいいのよ。今度来る時なにかお土産でも買ってきてあげるわ。」

「いえ、そんなお気遣い。」

「いいのいいの、ナナシはどうせろくにアクセサリーも香水も買ってくれないでしょ?」

狩人の方はそういうと優しく頭を撫でてくださいました。その言葉を聞いたナナシ様がばつの悪そうにそっぽを向きました。

「あうっ、ありがとうございます。」

「………。」

「そういや近頃この辺りで人攫いが頻発してるってよ。気をつけろよ。」

「…そんなのここじゃ日常茶飯事じゃないか。」

「お前にじゃねーよ、この子に言ったの。メイプルちゃん!ナナシに襲われた時も大声出すんだぞ!」

「…いいからもう帰れ、お前。」

挨拶がすむと、お二人は霧の中に消えていきました。

「………。」

「お二人とも人のよさそうな方でしたね。」

「…あぁ。」

「よく一緒に冒険されるんですか?」

「んー…時々だな。俺は一人でやる時の方が多い。」

「そうですか…。」

「………明日。」

「?」

「いや、買い物でも行くか。」

「!…はい、ぜひ!」

ナナシ様は私の返事を聞くとくるっと身体を翻し、足早にお家へと戻っていきました。

私は慌てて後を追いながら、お買い物の事を考えながらその大きな背中を見つめていました。

明日が楽しみです。


本日の日記を終わります。


………


水瓶の月×△日 いつもより少しだけ薄い霧です

クレアさんの部屋にて


「ナナシさんの事?」

「はい、何でもいいんですけど、お聞きしたくて。」

ある日、クレアさんの部屋でお仕事を手伝いながら、思い切って尋ねました。

「本人からは、聞けてないみたいね。やっぱりまだ無口かしら?」

「いえ、ナナシ様もお答えしてくれるんですが、その…あまり、私とお話しするのが楽しくなさそうなので。」

「誰とでもそうよ、あの人は。人と話すのが苦手みたいね。だから、あなたに話し相手をお願いしたの。」

クレアさんは走らせていたペンを置くと両手を机の上で組んで微笑みます。

「はい…私も、ナナシ様の事をもっと知りたいのですけど、でも直接は聞きにくくて。」

「んー、私も彼についてはあまり詳しくないわね。それでもいいかしら?」

「はい、お願いします。」

…クレアさんによれば、ナナシ様はある日ふらっとこの街にやって来たようです。行く当ても身寄りもなさそうなあの人を、クレアさんは放っておけずに孤児院に匿い、以来こうして暮らしているらしいです。

「全身傷だらけだったわ、顔も今よりもさらにずっと暗くて…。」

「怖くは、なかったんですか?」

「それよりもかわいそうな人だって思いましたね。きっと私の前に現れたのは、神の采配に違いない、と。だから何も聞きませんでした。」

クレアさんは何事も無いようにさらっとそう告げ、また微笑みました。

なんて凄い人でしょうか…。私は思わず小さく感嘆の溜息を吐いていました。

「今では大分ましになりましたけど、当初は本当に人とのかかわりを避けていました。おそらく性格的なものと、環境によるものと…いくつか理由があると思いますけど。」

「そんな彼が自ら誰かを助けるなんてことは、ここに来て初めての事だったわ。」

クレアさんはそう優しく言いながら、私に微笑みかけてきました。

「同じように傷つき一人だったからか、他の理由なのかは、あの人にしかわからないけれど。だから、あなたにお願いしたいの。あの人を少しずつでいいから、理解してあげて?」

「っ…はい。」

クレアさんの話を聞いてナナシ様の事を思い、胸にこみ上げてくるものがありました。

あの方はきっと優しい方なんです。しばらく一緒に暮らしていてそれは良くわかりました。でもただ…人と触れ合うことが苦手で、怖いのだと、これまでのあの方の言動に合点がいきました。

それがなぜなのかはわかりませんが…でもきっと、私を助けてくださったあの人を助けたいと、改めてそう思ったのです。

「あの、それじゃあ一つ、お聞きしてもいいですか?」

「なにかしら?」


………


クレアさんから、ナナシ様についてもう一つお聞きしました。

これできっとナナシ様のお役に立てると思います。

明日が楽しみです。


本日の日記を終わります。

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