表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/25

【TS】 ~ネカマプレイのその先に~

※今回は、【TS】(トランスセクシャル=性転換、異性変身譚)についての話になります。

 興味の無い方、苦手な方は読み飛ばしを推奨いたします。



 「チート転生して俺TUEEEE!」と同様、「TS転生してわしKAWAEEEE!」もまた、ストレートな変身願望の一環として一定の人気を得ている昨今皆様いかがお過ごしでしょうか。


 そんな訳でお待たせしました(そうでもない?)。今回は【TS】の話です。

 正直かなりニッチな趣向ですので、興味の無い方や苦手な方はサクっと読み飛ばしをお勧めいたします。


 また今回の記事では男性→女性の変化を主に想定しておりますが、逆パターンについても想像力と応用力で上手く切り抜けて下さい。



▼ネカマ・ネナベプレイの考察


 まず、ゲーム的に一番身近な【TS】素材としては、MMO等で異性のキャラクターを操作していてそのままゲームの中に捕らわれてしまうパターンでしょうか。

 厳密には単なる異性キャラでのプレイはネカマ・ネナベプレイとは違うのですが、対応する単語が無いのでそのように呼称する場合も多いですね。


 で、異性キャラでプレイする人全員がいわゆる特殊な趣味趣向の持ち主ではなく、理由や背景にも以下のものを中心に幾らかパターンがありますので、誤解の無きようお願いしたいところです。


 1.自己投影型

 これは、自分自身(プレイヤー)とゲームの(キャラクター)をある程度重ねるタイプです。

 小説風に言うと、「ゲームの主人公の一人称視点で楽しむタイプ」のプレイヤーさんとでも言いましょうか。

 それで例えば「戦士になった自分」「魔法使いになった自分」を想像して感情移入するプレイスタイルで、その中のバリエーションの一つに「異性になった自分」がある感じでしょうか。

 位置づけとしてはゲームキャラ=自分自身の分身という認識ですので、キャラ作りとか演技とかはあまり考えず、言動も素の自分に近いことが多いと思われます。


 2.観賞型、俯観型

 こちらは自己投影型との対比となるプレイスタイルで、プレイヤーとキャラクターを分離して考える、いわゆる「三人称視点で楽しむタイプ」です。

 ゲーム中に一番よく目にするキャラクターが自分の作ったキャラになりますので、観賞用として魅力的な異性にデザインするということですね。モンハンでも麒麟装備のためだけに女性キャラを選んだプレイヤーさんが意外と居たのも記憶に新しいです。

 大抵の場合、プレイヤー自身とは切り離しあくまで他人として設計したヒロインやヒーローの扱いですので、自分とはかけ離れた性格設定にすることも多々有り、演技とかロールプレイにも力を入れるケースが多いと思われます。


 3.真ネカマ型

 従来の意味でのネカマ、つまり周囲からチヤホヤされたり利益を得たり、または愉快犯的に周囲をからかって遊んだりすることを狙って女性キャラを演じるタイプです。

 このタイプはプレイヤー自身もまた女性であることを明示或いは暗示することで正体を偽ろうとする場合が多いです。

 小説の舞台になるネットゲームで異性キャラを作るのが一般的かどうか、或いはVR物の作品だと技術的・法律的に異性キャラが作れない作りになっていたりするかどうか、その辺りの事情次第で女性キャラの希少価値が変わってきます。

 例えば本来性別詐称NGのゲームで全プレイヤー中95%が男性だったりした場合、ゲームに理解のある可愛い女性キャラは引く手あまたになりそうですので、そういう舞台ではビジネスチャンスになります。


 4.データ重視型

 ゲームによっては、男性キャラと女性キャラでデータが違うものがあります。

 例えば、ドラクエの「誘惑の剣」「天使のレオタード」のような女性専用装備をどうしても使いたいとか。

 ソードワールドのシャーマンみたいに男性と女性で使えるスキルが異なるとか。

 男性と女性で能力値が異なって、戦士系なら男性が魔法系なら女性が強い等、得手不得手がはっきり分かれるとか。

 男性専用や女性専用の種族や職業(クラス)があるとか。

 そのようなシステムで、自分の作りたいキャラ像がどうしても異性でないと作れないということも物語的にはありそうです。


 5.その他

 上記以外にも物語の導入は無限の広がりを見せます。

 例えば男子ばかりのプレイグループで華が無いから、新しいゲームを始めるごとに持ち回りで誰かが女性キャラを作ることにしているとか。

 既存の作品だと、VRの認識装置の誤動作で異性のキャラが作られてしまったとか。

 サイコロ振ってランダムにキャラメイクしてみたら異性になったとか。


 MMO小説に使えそうな導入だけでも、これだけのパターンが考えられます。

 主人公の反応別で分けると、1.と3.だとTSをポジティブに考えそうですね。せっかくなので異性ライフを楽しんでみようか、みたいに。

 で、2.と4.だとまず戸惑いとか拒否反応を示すでしょうか。ただMMOで定番のデスゲーム化したことと比べるとTS程度は些細な問題と感じるかも知れませんし、デスゲーム化よりもTSの方を大問題に感じるかも知れません。この辺りの反応の違いでも作品のカラーや主人公の性格を表現できそうです。



▼【TS】の物語軸


 いざ念願のTSをしたなら、それからはストーリーをどう膨らませていくべきでしょうか。

 私見ですが、TS物のストーリーやイベントには以下の3つの軸が存在すると勝手に分析しています。


 1.身体的TS

 身体的・外見的な変化を主軸としたものです。

 一番判り易いのは外見や服装ですね。TS前の面影がある場合もあれば、全く別人に変身してしまう場合もあります。

 あとは例えば腕力や体力が大幅に落ちたとか、背が低くなって高いところに手が届かないとか、身体的なアドバンテージを喪失したり獲得したりもありますね。

 それから大きな変化としては、ちょっと大人向けのえっちなシチュエーションに関わるあれこれでしょうか。このエッセイはR15タグをつけていない全年齢向けですので詳細は暗黙の了解でお願いします。


 2.精神的TS

 精神的・感情的な変化を主軸としたもので、この要素が入ると物語がかなりディープに――万人受けしない代わりに好きな人は熱心なファンになる傾向があります。

 例えば男性→女性のTSであれば感情的・共感的になったり涙もろくなったり、食べ物の好みや趣味が変わったり、書き手によってはそういった細かな変化を描写する場合があります。

 究極的には恋愛対象の変化、つまり元男性が身も心も女性になって男性に恋をする、という展開になることもあります。

 これは書き手の得手不得手、読み手の好き嫌い、共に大きく分かれるいわば劇薬です。TSジャンルの中でも特に地雷になり易い要素ですのでお取り扱いには十分ご注意されることをお勧めします。


 3.社会的TS

 社会的な立場や、社会として求められる役割の変化を主軸としたものです。

 例えば世界背景によっては女性の発言力が弱かったり、結婚して子供を産むのが一般的な社会通念だったり、男性であれば働いて家族を養うのが暗黙のうちに求められたり、とかでしょうか。

 あとは、性別特有の職業とかもありますね。メイドさんとか巫女さんとか踊り子さんとか。騎士団とか政府高官を男性専用にするような世界観もあるかも知れません。

 貴族の令嬢であれば、本人の意思を無視して政略結婚のカードに、という展開も定番でしょうか。


 物語やイベントは、これらの軸のどれかまたは複合で進めていくことになると思われます。

 例えば拙作の『レベル99女勇者~』は1.と3.の要素を交えて話を進めています。(詳細はネタバレになりますので伏せさせて頂きますが)

 恋愛して結婚して子供を産むような流れの作品なら、1.~3.全部の合わせ技になりますね。TSタグのついた作品は多数ありますがここまで挑戦的なものは滅多にお目にかかれないです。逆説的に、このテーマを書ききる作者さんは筆力があり考察・分析も十分ですのでとても読み応えのある作品が多いです。

 執筆の難易度も1.<3.<2.の順番で難しくなると思いますので、初心者の方は無理せず1.から少しずつ手を広げて行くのが良いのではと思います。



▼地雷注意報


 上の物語軸の話の続きになりますが、TSキャラに恋愛をさせると地雷になり易い傾向がありますのでご注意下さい。

 特に恋愛感情の描写や生々しい愛情表現が出てくると「こういう展開は苦手」と感想欄が荒れた、という事例を幾つも覚えてます。


 ここで重要になる命題が「心の性別は身体の性別に引っ張られるか?」です。TS業界では有名なテーマですが、それ故にTS作家さんも無意識に過程を飛ばして結論をぽーんと書いている事が多いように見受けられ、TSにあまり馴染みの無い読者さんが戸惑う事例もありそうです。


 例えば科学的・医学的に、男女では脳の構造そのものが違いますし、男性ホルモンや女性ホルモンも感情や欲求にある程度の影響を及ぼすことも長年の研究から知られています。

 従って、身体の性別が変われば心の性別にも影響するという主張には一定の説得力がある訳です。


 逆に、心の大部分は身体とは切り離された別の領域にあるいわゆる魂の存在を前提にした世界観だと、身体が変わっても自分の意識や感情は元のままという主張も同様に自然なものです。

 TS以外で例えばロボとか動物に憑依するような物語だと、話の流れ的にも面倒臭さ回避のために本人の性格は元のまま変わらないことも多いですからね。


 それで、作者さん側が前者の立場で物語を書いているのに読者さん側が後者の立場で読んでいた場合、不幸な結果になり易いのかも知れません。

 まあ個人的な意見としては、作者さんはそこまで読者に媚びる必要は感じませんし、読者さんの側も作品が自分に合わないと感じたら黙って立ち去るのが賢明だと思います。

 そうは言いましても実際に感想欄が荒れる事例がある訳ですから、もし作者さんの側で対策を講じるとすれば、「精神的BL(ボーイズラブ)」「身体的GL(ガールズラブ)」のような魔除け的なタグを入れておくとか、前書きや後書き部分で作品中の恋愛感についてある程度持論を展開しておくとか、「濃い」恋愛描写に入る前に少しずつ心情描写や行動描写で今後の展開を示唆しておくとか、作品の「立ち位置」を前もって示しておくのは如何でしょうか。

 ちなみに、この点に関するスタンスの違いの根本原因は「科学的・医学的・哲学的考察の深さや方向性」ではなく「自分が好みの展開かどうか」であることがほとんどですので、感想欄での議論は不毛なものになりやすく、避けておいた方が無難でしょう。


 あと、TSした時の状況や設定によっても、精神的な変化の大小に影響します。

 例えばVRゲームのキャラクターの場合は基本的に電子データで、自分の本来の身体は自室にある訳ですから、仮初めの身体が精神的・感情的に及ぼす影響は全く無いか極めて小さいのが普通でしょう。

 逆に、例えば16歳の少年が事故死して異世界TS転生して17年経った場合、男性としての自我はだいぶ薄くなるかも知れません。

 この辺りは小説の設定に合わせて、不自然にならないように微調整されると良いと思われます。



▼ライト【TS】の落とし穴


 上記のヘビィなTSによる地雷問題と対極になるのですが……

 「なろう」内で人気が高く書籍化されるようなTS作品は総じてライト、つまり恋愛描写とか精神的変化みたいなテーマを極力取り扱わず、広い層の読者さんを獲得している傾向なんですよね。


 ただ、TSに伴う葛藤やら不便やら変化やらにあえて触れずにいると今度はTSした事の物語的な意義を問われることになります。

 要は、「主人公、男性のままでもやってること同じだよね?」とか「元々女性でも問題ないよね?」という感想がつくのです。特に異世界転生して冒険者になるような定番の展開だと顕著です。

 この辺り、TS展開主体で狭く深く攻めるか冒険展開主体で広く浅くポイントを取りに行くか難しい決断が求められると思います。


 個人的な考えですが、TSを主要テーマとして書くなら最適の舞台は現代学園物だと思います。

 主人公を取り巻く環境が今までと同じままなのでTS前と後の対比を表現し易く、話の焦点をそこに集中できるからです。

 詳しくは省略しますが、TS的にお約束のイベントも、異世界物より学園物の方がバリエーションが豊富です。


 それに対して異世界転生物の利点は、異世界冒険物として面白ければそちらの要素での人気を狙いやすいことでしょうか。

 実際のところ、日間ランキングで上位に上がってくるTS要素有りの作品は大抵、異世界冒険物としての比重が6~8ぐらいなのに対してTS物としてが2~4ぐらいの作りになっているように見えます。

 「異世界物が好きでTSにそれほど抵抗の無い」層を取り込むことを狙うなら、内容も異世界物の方に力を入れて、TS物としては大きな失点をしないように地雷に気をつけるぐらいに割り切っても良いでしょう。


 勿論、ポイントよりもご自分の書きたいTS物の表現を追い求める作者さんは尊敬しますし応援もしております。



▼紹介コーナー


『World's End Online』

(http://ncode.syosetu.com/n4227bh/)

 ネカマプレイ物では金字塔でしょうか。

 ネカマ物やTS物に関する考察と愛に溢れています。


『決戦世界のタリア』

(http://ncode.syosetu.com/n7517z/)

 MMOから異世界に取り込まれる系です。

 色んなタイプのネカマ、ネナベが活躍する作品です。但し長期更新停止中。


『滾れ! 群山学園TS部』

(http://ncode.syosetu.com/n1218cq/)

 TS物を愛する男子生徒達が熱く語り合うお話です。

 エッセイ的な側面があり、TS作品を読む際の副読本としてお勧めです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ