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野宿(1)

 目印となる大木の元に辿り着いてから、夜までの時間は一瞬のように過ぎた。

 野宿のために必要な枯れ木、食料集め、その他の作業に時間が少しだけかかったからである。本来、食料を集めなくても携帯食料などは町で売られているが、スザクたちは財布持ちのアヤカのせいで超と付くほどの貧乏生活を送っていた。しかし、使う所ではちゃんと使っているのでそこまで不自由ではない。あくまで、魔王討伐に備えての準備を今から準備をしているだけだからだ。

 四人は焚き火を囲むようにして座り、アリスが作っているスープが出来上がるのを待っていた。焚き火の周りの草は風系統の魔法で刈り、火事にならないようにしてある。


「夜が来るの早すぎ」

「我慢しろ。どうせ、あとは寝るだけだ」


 剣士だけにスザクの考えを読み、ばっさり斬り捨てるアヤカ。


「分かって言ってるだろ」

「分からない方が馬鹿だろ」

「どうせ、それだけしか考えてないでしょ?」


 アリスは鍋をオタマで混ぜながら、アヤカに加勢した。


「そんなにゲームがしたいんですかぁ?」

「したい。したくてたまらない。死にそう」


 フランの何気ない質問にスザクは即答した。必死アピール全開で。


「精神的に異常をきたしてますねぇ。帰ったら病院にでも入れますかぁ?」

「あー、一回見てもらった方がいいかも……」

「その間、依頼に取り組めないのがちょっと辛いかもしれんがスザクのためだ。我慢しよう」

「俺のやりたい気持ちはそんなに異常か?」


 スザクからしてみれば当たり前なので分からなかった。ゲームじゃなかったとしても、たぶん同じように趣味を見つけたら、それにハマることは間違いなかったからだ。こういった依頼を受けている限りは死ぬ可能性がゼロとは言えない。だから、今を必死に生きたいのである。悔いがないように。


「あ、もう良い頃合かな。んでさ、そのゲームの中でいったい何をしてるの?」


 アリスが出来上がったスープをお椀に注ぎ、三人にそれぞれ渡しながらスザクに尋ねる。


「ありがとう。ん、たいしたことはしてない。単純にイベント開いたり、馬鹿騒ぎをしてるだけ」

「ふーん。っていうかさ、現実に可愛い美少女が三人もいるのにゲームにハマる理由が分からないんだけど……」

「…………スープうまー」


 スザクはアリスの質問をスープと一緒に喉に流し込む。ぶっちゃけ、面倒な質問だったので答える気がなかったからだ。

 しかし、それが三人の機嫌を損ねるには十分なものだった。


「今のは間違いなくケンカを売ってきてたよな」

「いい度胸じゃん」

「ワタシも珍しく本気出しますぅ」


 三人とも持っていたお椀を地面に置いて立ち上がる。本気で怒っているような感じだったが、スザクは気にせずに食事を続けていた。そして、冷静に一言。


「食事ぐらいゆっくり食わせろ。そもそも、傷つけるような発言をしてきたのはアリスだろ?」


 しかし、三人はスザクの言葉さえも聞いていないかのように、それぞれが戦闘準備をし始める。アリスは手に魔法陣を、フランは包帯の上から持っていたナイフで勢い良く切り、アヤカは腰に差している剣を抜く。

 そして、それぞれに動き始める。

 アリスは、スザクに向かって雷の弾丸が放った。

 が、スザクは紙一重でかわし、髪の毛を擦れるぐらいはあったが直撃するものは一つもない。


 アヤカは二人から距離を取るように後ろへ飛ぶと、鍋に攻撃が当たらないように剣を振るい、真空刃を生み出す。気が練りこまれているため、スザクに向かって黄色く染まった軌跡が飛来。

 しかし、それもスザクは上に跳んでかわす。しかも、お椀に残っている中身をこぼさないように。

 スザクがかわしたことにより、後ろへと流れていった攻撃が木に当たり、倒れる音が深夜の夜に響き渡る。


 フランは腕を切ったことにより、地面に出来た血の水溜りから数体の犬を召還した。その犬は全部腐敗しており、目玉が垂れかけていたり、臓物を地面に引きずらせているものもいる。

 その犬たちがスザクに向かって飛びかかろうとするも、スザクは器用に身体を捻りつつかわして着地。身体を捻った際に空中に飛び散ってしまったスープの中身を、着地と同時にお椀を持った手を素早く動かし、再びお椀の中に回収する。

 そして、何事もなかったように口の中に運ぶが、


「うわっ、ぬる……」


 苦い顔をしてため息を溢す。

 三人も再び元の位置に座り、スザクと同じで何事もなかったかのように食事をし始めた。先ほどまでのケンカのような雰囲気は完全に息をしていない。


「もうちょっと言葉のキャッチボールはしっかりしようぜ? つか、今の八つ当たりもあったろ?」

「しょうがないじゃん。時間がなかったんだしさ」


 八つ当たりの部分は見事にスルーするアリス。


「そうかもしれないけど、当たったら嫌だろ」


 スザクは改めて後ろを見つめる。

 その後ろにはすでに跡形もないけれど、魔物が来ていたような足跡が焚き火で照らされるギリギリの位置にあった。三人はそのことに気付いたから、スザク(の背後)に向かって攻撃したのである。


「やる気のないスザクの代わりに殺ってやったんだ。感謝される筋合いはあっても文句を言われる筋合いは一切ないな」

「……俺の座る位置を決めていたアヤカがそれを言うか?」

「なーに、私たちが助けやすいじゃないか。そもそも勇者は囮にしやすい立場でもあるだろう?」


 アヤカは悪気を感じてない様子で笑う。

 その言葉に少しだけスザクは少しだけ納得してしまった。


「それでもワタシたちの攻撃をよくかわせましたねぇ。アイコンタクトで『本気で殺れ』ってアヤカさんから来たんですけどぉ……」

「あーあ、言っちゃったー」


 フランの何気ないネタばらしにアリスが頭を抱える。本来はそれを言うつもりはなかったらしい。

 しかし、アヤカが即座にそれをフォローした。


「ま、気にする事はあるまい」

「おい、聞き捨てならないんだが?」

「気にするな」

「お前が気にする必要はなくても、俺が気にするんだよ!」

「男は器が大きい方が好まれやすいぞ」


 アヤカには当たり前のように謝るつもりがないらしい。

 スザクもそのことが分かっているので、諦めのため息を漏らす事しか出来ず、食欲もなくなってしまった。こんな調子だからこそ、スザクがゲームに逃げたくなるということを三人は分かっていないのだ。


「そういえばフランさん、死霊集めするって言ってなかったっけ?」


 アリスが思い出したようにフランに尋ねると、「あー!!」と叫ぶ。どうやら忘れていたらしく、しょんぼりと落ち込んだ。

 魔物は倒してもほんの少しの間は遺体が残るが、何もしないままでいると塵と化し、そのまま地面に帰ってしまう。そのため、倒したらなるべくその措置を早くしないといけないのだ。


「もうさすがに遅いですぅ。ワタシが呼んだ犬も消えちゃいましたし……」

「ドンマイ。次から気をつけろよ」

「はいー」


 スザクの励ましを受け、フランはちょっとだけ元気を取り戻し、残っていたスープを全部飲み干した。


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