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道中で……

「なぁ、休憩しようぜ」


 スザクは三人に向かって提案すると、フランは疲れきった表情を、アリスとアヤカは「またか」と冷たい視線が返って来る。

 二人にはスザクの意図が分かっているからこんな視線が戻ってくるのだ。もちろん、その理由はゲームがしたいからである。

 すでに半日経ち、空には夕日が見えているが、道中にスザクが何回かそう呟くもゲームをするまでの時間を与えなかった。フランの身体を休めるために休憩をちょっと取った程度。「そろそろ言い出すだろう」と分かっていた二人にとって、その言葉はすでに面倒なレベルに入っていた。


「フランだって疲れてるしさ」

「ワ、ワタシは大丈夫ですよぉ」


 フランは無理して歩みを進める。

 スザクの考えが分かっているので、二人に迷惑をかけないようにそう言っているのだ。


「無理は良くないぞ?」

「だ、大丈夫ですぅ」

「そう言うなって。かなり限界みたいじゃないか」

「限界を迎えてないスザクが言うな。お前はもうちょっと無理しろ」


 冷たくアヤカが突っかかってくる。


「冷たいなー」

「お前の休みたい理由の方が冷たいだろう」

「そうか? ちょっとした休憩時間に暇つぶしをするって重要じゃね?」

「重要じゃないな。そんなに暇なら――私と組み手でもするか?」


 本気の目でアヤカはスザクに問いかけるが、スザクは即座に首を横に振る。

 組み手とは言うものの、真剣勝負に近いものであり、どちらかが「参った」というまで延々と続く組み手なのだ。一回だけゲームを買う前に試しにやってみたのだが、地獄に近いものだった。

 理由は一つ――アヤカが「参った」と言わないから。

 飽きてしまったという理由でスザクは根を上げてみたが、即座にバレてしまい、そのままぶっ倒れるまで続いた。正直、あの時の勝敗は分からないぐらい、お互いが疲弊し、アヤカよりスザクの方が目を覚ますのが早かったという違いぐらいしかなかったからだ。


「あの時の決着を付けたいと思っていたのだがな」

「いい。決着とか仲間内で決めるものじゃない」

「なーに、今回は暗殺能力もフルで使う予定だったんだぞ?」

「さらに地獄じゃないかよ」

「スザクみたいな、やる気のない奴に負けたくないからな」

「やる気出しても同じくせに……」

「まぁまぁ、アヤカも落ち着いて。スザクの思い通りになんてさせたくないけどさ」


 少しだけ遠くに見えている森の入り口らしき木の中で、一番大きな木を指差し、


「時間的に、今日はあそこにある大木のところで一泊しようよ。さすがに討伐前に疲労した状態で、戦闘なんてしたくないしね」


 とアリスが、スザクとアヤカの会話に割って入ってくる。

 スザクに気を使ったというよりもフランに気を使っているらしい。

 アリスの言葉を聞いたフランは少しだけ顔が明るくなる。スザクのやる気の問題で二人に気を使っていたのだが、やはり限界に近かったのは事実だったからだ。


「そうだな、アリスの言う通りに野宿するか。私が先行して様子を見てこよう」

「お願いね」


 アリスが言い切る前にアヤカが駆け出した。

 駆けているにも関わらず、この場に同化していくかのように気配がなくなっていく。最終的に存在までもがなくなってしまったかのように。


「相変わらず、あの能力はすごいよね。どうやってるんだろう」

「ワタシもああいう能力を身に付けたら、もっと役に立てたかもしれないですぅ」


 フランが羨ましそうに漏らすので、


「フランはフランで、職業的に役に立つ時が来るから心配しなくて良いと思うけどな」


 とスザクは言ってみたものの、慰めにもなっていないのは分かっていた。

 その理由は、ある程度の集団戦もアリスとアヤカが何とかしてしまうせいだ。一番の戦犯は広域魔法を使えるアリスのせいなのは確実。

 スザクのそんな気持ちが分かっているのか、それとも純粋にフォローの事が嬉しかったのか、フランは気にしていない様子でスザクへと笑顔を見せる。


「慰めありがとうございますぅ」

「おう」


 二人の会話を割り込むように、アリスがスザクへ質問。


「ねぇ、スザクもアヤカみたいな技使えたりするの?」

「使えないけど?」

「そっかー。勇者だから使えるのかと思った。勇者って結構便利なイメージあるからさ」

「勇者はそんな便利屋じゃない。教えてくれればやれないこともないだろうけど、魔法とは違ってあれは技能になるから、マスター出来るかも分からん」

「だよね」

「もしかしてワタシのネクロマンサーも教えれば使えるんですか?」


 次はフランが質問。


「いやー、それこそ分からない。魔法に近いけど、特殊系になるみたいだし……。それに覚える事の方が多そうで、俺のやる気が出ないだろうし――」


 どんな覚え方をするのか分からないけれど、スザクの頭の中では警報が思いっきり鳴っているので、遠慮以外の選択肢はなかった。しかし、それを素直に言うわけにはいかないので、


「っていうか、俺が覚えたらフランの仕事がなくなるから覚えるつもりはない。それはフランだけの能力だからな。回復魔法に関しては、人数が多い方が乱戦では役に立つだろうから覚えてはいるけど、基本的にはフランの仕事だぞ」


 と無理矢理納得させる。

 フランはそれだけで自分の存在価値が見出せたように、「えへへ」と嬉しそうに笑う。


「ありがとうございますぅ。それだけでワタシの存在価値が見出せた気がしましたぁ!」

「おう、それなら良かった」

「さすがスザク。勇者らしい仲間を気遣う発言が出来るじゃない」


 言葉とは裏腹にアリスの目はジト目だった。「上手く逃げたじゃない」と言葉で直接言えないため、目でスザクにそう物語っている。

 アリスにはスザクの本心がバレているということなのだ。


「そうでもないさ」


 スザクもそんな目で見るアリスに仕返しするべく、


「フラン、フラン。アリスが覚えたいって!」


 とアリスへと標的を向ける。


「え!?」

「そうなんですか!? 覚えたいなら教えますよ!」


 スザクがフォローした以上にフランが目を輝かせる。

 それとは反対にアリスがスザクを睨みつけてきた。巻き添えにされたことを恨むかのような視線。

 しかし、スザクは悪くない自信があった。あんな視線をしてきたのだから、アリスは覚えるつもりなのだ、と悪気のない勘違いをしても許されるはずなのだ。


「え、あ、あのね! わ、私は魔法使いとしていろいろ覚えてるから、これ以上覚えるのはいいかな。それにスザクが言ったようにフランさんの専門職業を盗ったら悪いよ」

「そうですか……。せっかく、人に教えれる機会があると思ったんですけどぉ」


 フランは本当に残念そうに語る。

 確かに魔法と比べれば、ネクロマンサーの技術を覚えたいという人は少ない。根暗過ぎて覚えるのが嫌なのだろう。

 それに比べて、魔法使いが人気なのは結構お手軽なところもあるからだ。さすがに初級魔法より上は結構大変だが、簡単なものは意外と子供でも容易に覚えられる。それに派手。軍配が魔法に上がるのが明白だった。

 その時、目の前にアヤカがいきなり現れる。


「何を話してるんだ?」

「アヤカさん! ネクロマンサーを学ん――」

「断る。面倒だから」

「はぅ!?」


 アヤカはばっさりとフランの提案を斬り捨てた。

 スザクでさえ遠慮してフォローしたというのに、そのフォローの言葉さえなく……。答えははっきりしているというのは良いことだが、さすがにこれはフランが可哀相になってしまった二人。


「そんなことはどうでもいい。周囲に怪しいものはなかったから問題ないはずだ。ほら、行くぞ」


 アヤカはショックを受けているフランは無視するように説明し、歩き出す。

 スザクとアリスもその傷口を広げる可能性があったので、フランに話しかけることが出来ず、四人はそのまま葬式をしているかのように無言で目的地まで歩くのだった。

 


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