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依頼内容

 スザクが防具を着け終わると三人は町へと繰り出した。

 拠点としているこの宿屋の主人には、先ほどスザクが制裁を受けようとしている最中にアヤカが話を付けてくれたらしく、「いってらっしゃい。気をつけてなー」と外に向かう三人の背中に明るい声が届けられた。


「それで、今日は何の依頼を受けたんですかぁ?」


 外に出るなり、フランがアリスに尋ねた。

 アリスが「依頼を受けた」と言ってから、今まで誰も質問しなかった話である。

 スザク自身、それまでの出来事の内容が濃すぎて、聞いた気になっていたほどだった。 


「ゴーレム退治。あ、ちなみにその洞窟にあるお宝を見つけたら持って帰ってもいいだって。だから、この依頼を受けたの!」

「ゴーレム退治か。私の剣のサビにしてやろう」


 ニヤリと少しだけ黒いオーラを出しながら笑うアヤカ。


「ゴーレムですかぁー。ワタシは死霊集めもかねて良いですかぁ?」

「いいよー。私とアヤカで倒すからさ」

「ありがとうございますぅ」


 フランはアリスへと頭を下げた。

 そして、三人の視線はスザクへと向けられる。


「何だよ?」

「やる気ある?」

「やる気ありますか?」

「やる気というものが息してるか?」


 三人がそれぞれに尋ねてくる。

 アリスとフランはまだ優しい聞き方だとスザクは思った。アヤカの質問はもうやる気が存在していないような言い方。完全に見下しているのだろう。

 スザクはため息を吐いて、


「あのなー、俺を何だと思ってるんだ? 勇者だぞ、勇者。やる気なんてないに決まってる」


 馬鹿なのか、と尋ねたくなるほど冷たい視線を返す。

 しかし、スザクに返ってきたのは言葉ではなく、スザク以上に冷たい視線だった。

 分かりきっていたような反応にスザクはちょっとだけ寂しくなる。


「聞いた私が馬鹿だったよ」

「聞いた私が馬鹿だったようだな」


 アリスとアヤカがそう言う中、


「ワタシには分かってましたよぉ」


 フランは最初から分かりきっていたように返事。


「だいたいさ、なんでこんな討伐隊みたいな真似をしなくちゃいけないんだよ」

「魔王がまだ出てないからでしょ? これでも昔よりは楽になってるんだから感謝しなさいよ」

「そうだぞ、昔はギルドまで出向かないといけなかったんだからな」


 アリスの言葉にアヤカが便乗し、


「ですねぇ。もし、そうなってたらワタシはお留守番してましたよぉ」


 フランも二人に賛同した。


「くそっ、こんなところで短所が出やがって」


 スザクは苦々しく呟くと、


「スザクの長所の方が短所でしょ」

「スザクの方のが短所だ」

「スザクさんの方が短所ですぅ」


 即座に三人のツッコミが入った。

 言わずもがな、三人の言っている事はゲームの事である。

 今から数年前に空気中に散布している魔力を用いて、コミュニティと呼ばれる異空間に精神体を送り込み、情報などを収集できる『魔力電通網』と呼ばれるものが開発された。そのおかげで、ギルドなど所属せずに依頼を受けられるようになったのである。近場だろうが遠かろうが、そこに存在する掲示板に依頼を張れば、依頼主の希望に沿った形で依頼を応えてくれる受注者が現れ、解決してくれる手軽さが好評になり、今では当たり前のように利用されている。

 スザクがしているゲームもそれを利用して作られている。

 だからこそ、三人は短所と言ったのだ。


「どこがだよ。俺みたいに青春を遅れなかった奴には最高のツールだろ」

「…………今、何歳と思ってるのよ」

「え、十七」

「今、青春真っ最中じゃない。それに女性三人に囲まれて最高でしょ?」


 アリスの的確なツッコミに、スザクは改めて三人を見つめる。

 アリスとフランはともかくとして、アヤカは興味がなさそうだった。というか、そういう恋愛意識というものが希薄なのだろう。二人に至ってはそうでもなさそうだが、スザクはこんな状態を認めたくないのだ。


「いや、ないな。仲間にそんな意識を持ちたくない。何よりも彼女にするのなら、優しい女の子がいい」

「幻想はほどほどにして」

「夢は夢の世界で見てください」

「生まれ直してから願え」


 三人は言葉を用意していたように即答。

 迷いのない言葉はこの言葉のことを言うのだろう、と実感できるほどのスピードだった。


「ま、でも便利になったのは同意するか。昔だったら、もうちょっと大きな町に行かないといけなかったからな」


 スザクは少しだけトーンを下げて呟く。

 拠点としているこの町が別に田舎というわけでない。田舎でも都会でもないその中間地点と呼べるような中途半端な町なのである。だから武器や防具、食料などで不自由する事もないが、それなりというものしかない。この町に住んでいる人はそれが当たり前になっているので、ちょっとだけスザクは気を使って小声で話したのだ。


「そうだね。そのうち移動しないといけなくなるけど、その時はその時で考えればいいから」

「だな。長旅になるとフランが倒れる可能性があるし」

「も、申し訳ないですぅ」


 フランが本当に申し訳なさそうに頭を下げる。下手をすれば土下座までしてしまいそうなほどに。それぐらい自分の体力の無さを自覚していた。


「しょうがないだろうがよ。俺たちと違って肉体派じゃないんだから」

「それでも、もう少し体力をつけてもらいたいものなんだがな」


 アヤカの追撃は続く。

 というか、目が鍛えたいと語って――いや、そう言っているのを直接スザクは聞いた事がある。

 家庭的な問題がここで浮き彫りになったのだ。

 フランは子供の頃から僧侶が主として鍛えられているため、どうしても運動するよりは机の上や精神面の修行が多くとられていた。それに比べてアリスは、スザクたちと同じで外での肉体的修行も平行して取られていたおかげで、体力に関しての問題は少ない。


 こればかりはどうしようもないことだと分かっているのに、アヤカはそういうことをあっさりと言ってしまう。

 だからこそスザクは、三次元りあるなんぞクソ食らえ、と思ってしまうのだ。

 昔は出会いだけで気にしなかったのかもしれないが、昔の縁で振りまわれる自分たちの都合も考えろ、と先祖たちに言いたいほどに。


「まぁまぁ、二人とも仲良くしようよ。お互いがそれなりに長所短所もあるんだし」

「そうだな、それが一番いい」

「……すまない」

「大丈夫ですよぅ。ワタシも悪いですからぁ……」


 パーティを結成してから何度繰り返されたか分からないこの会話を行い、事態は収束する。仲が悪いわけではないので、すぐに納まるのが唯一の救いなのかもしれない。


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