エピローグ(3)
そのレオスの残念そうな表情を見て、朱雀は思い出したことがあった。
それはレオスがやって来て会話が途切れさせられたが、ヤイバが何かを言いかけていたことである。
ヤイバの場合、残念というよりは不安そうな顔だった。それだけ深刻なことを言おうとしていたらしい。
「ヤイバよ、さっき何の話をしようとしていたんだ? レオスが乱入してくる前の話になるが……」
「乱入って、おい」
「良いから黙ってろ」
朱雀の冷たい一言にレオスは場の空気がガラッと変わったことを察したのか、口を閉ざす。
一瞬、ヤイバはレオスを見て、申し訳ないという雰囲気を出しながら、
「あのさ、魔王が復活したって本当なのかなって思ってさ
と不安そうに話した。
「う、うそっ!? 魔王って復活したのか!? そういや、いつかは復活するって話をばあちゃんから聞かされてたような……」
「本当かどうかは分からないんだけどさ。あくまで風の噂ってやつで耳に入っちゃったから。運営もその情報を掴んでないのか、このゲームに関しての今後について情報も提示されてないから不安になってさ。悪い、レオス。せっかく告白されて、良い気分だったってのに……」
「気にするなよ! そんな状況じゃ、告白の返事しても気分良く付き合えなかったって! い、いや、そんなことより現実が大事になったら、そんなことしてる場合じゃない!」
頭を下げるヤイバに、慌てた様子でレオスは宥め始める。
さすがにそれだけ大切な情報を持ってきてくれたヤイバに対し、さすがのレオスもその問題を無碍に出来なかったらしい。
その言葉を受け、頭を上げるヤイバは朱雀へと顔を向ける。まるで意見を求めるかのように。
それはレオスも同じだった。
魔王が復活していることを知っている朱雀は、その情報が漏れたことに驚いてしまったが、その時用に答えを用意していたので特に問題はなかった。ただ、それらしく答えを返す演技をしなければならなかったが。
「――気にする必要はないだろう」
「え?」
「おいおい、魔王の復活だぞ!」
朱雀の返答に驚いた返事を返す二人に、
「こら、最後まで聞け」
と言って黙らせる。
「魔王が復活したって事は、絵本のように魔王を倒してくれる勇者の子孫もどこかに存在しているってことだろう? だったら、その勇者に任せておけばいいだけの話だ。そもそも、その情報が確定されたわけでもない。運営からの知らせもないんだから、気にするだけの無駄だ。普通に生活を送ることに越した事はない」
「お、おう。その通りだな。つまり、運営からの知らせが出るまでは今まで通りでいいんだよな?」
「その通りだ。それにお前らの大切な人に心配をかけさせたくないだろう? だから、この話は俺たちだけの秘密だ。いいな?」
レオスは朱雀の言葉を聞いて安心したのか、すぐに頷いた。
ヤイバも同じように安心したらしく、安心した表情を浮かべている。
「朱雀の意見を聞いてよかった。ごめん、心配かけて」
「気にするな。俺は俺の意見を言ったに過ぎないからな」
「サンキュ。助かる」
会話の区切りとしては丁度いいタイミングで、朱雀の耳にある声が入ってくる。
それは現実に戻って来いという知らせだった。
「すまない、時間だから落ちる。またな」
「おう、またな」
「またー」
二人の返事を聞いて、朱雀はログアウトした。
「前から思ってたんだけどさ、朱雀っていつか世界で有名になりそうな気がするよな」
「ああ、レオスも? 俺もだよ。なんでかな?」
「さあ? 朱雀みたいに分析力高くないから分かんないけどな」
と残された二人は苦笑しながら、朱雀のことについて話し始めるのだった。




