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本来の日常(2)

 それから四人は着替え始めるが、三人は普通に部屋で着替えているにも関わらず、スザクだけさっきまでアヤカが使っていた脱衣所を使わされている。まだ濡れている箇所もあるので着替えるだけでも慎重になってしまう。


「だから、女のいるパーティは反対だったんだよな。しかも、男が俺だけってどういうことだよ」


 スザクは愚痴を溢しながらも服を着替え始めた。

 文句を言ったところで、フランを除く二人によって無言の圧力をかけられるからだ。それすらも無視して外で着替えようとすれば、アリスとアヤカによる実力行使による排除が始まってしまう。怖くはないが、無駄な戦闘はなるべく避けたいスザクにとって、素直にここに移動する事が唯一の救いだった。

 そんなスザクの気持ちを分かっているアヤカが、


「私の残り香が嗅げて嬉しいだろう?」


 とスザクにからいかいの言葉をかけた。


「ふざけたこと言うな。前にそれで『嬉しい』とかふざけてみたら、ボコボコにされた記憶が鮮明として蘇るっての」

「そうだったか? うむ、すまん。忘れた」

「される側ってそう言えるから楽だよな。っていうか、ここで着替えさせるなら、床を濡らさないように使えよ。俺が困るんだから」

「すまんすまん。仕方ないだろう。それぐらいのことまで几帳面にしていたら、私は潔癖症になってしまう」

「はいはい。んでさ、全員が着替え終わってるなら外で防具ぐらいはつけたいんだけど?」


 寝間着から服に着替えるぐらいなら問題なく出来るが、さすがに防具をつけるとなると着替えにくいので、スザクはアヤカにそう尋ねた。

 しばらの沈黙が訪れた後、アヤカの返事。


「あー、大丈夫だな。後はアリスが手甲を着けるだけだから」

「分かった」


 アヤカの返事を確認し、ドアを開ける準備していたスザクは、躊躇うことなくドアを開けた。


「え!? ちょっ、まだなの分かってるでしょっ!?」


 その直後、アリスの驚きの声が部屋に響き渡る。

 スザクもその声に嫌な予感がして、慌ててドアを閉めようとした。がすでに遅く、外の景色がスザクの目に入る。

 そこには女性物の下着はまだ床にばら撒かれていた。着替えようとしてバックから出したものをまだ片付けきれていなかったらしい。

 近くにあったクマさんパンツがスザクに微笑みかけているようだった。


「得したな」

「アヤカ、嵌めたな?」

「男の欲求というものを少しだけ解消してやろうと思ってな」

「解消というか無駄に溜まるだけのような気がする」

「だ、駄目って言ったのに……」


 アヤカの思惑とは別にクマさんパンツの持ち主であるアリスが静かに怒っていた。怒らせる原因を作ったであろうアヤカにその怒りを向ける様子はなく、不慮の事故で見てしまったスザクに怒りが向いている。

 理不尽すぎる。

 それがスザクの感想だった。


「落ち着け。この件に関しては私も悪かったのだから、スザクをそう攻めてやるな」

「そ、そうだね。でも……この恥ずかしさを誰にぶつけたらいいと思う?」

「私が見てない範囲でなら良しとしよう」

「よかったー。これで私のストレスも発散できるね♪」

「おい! 最後まで責任を取れよ!」


 アヤカはスザクのツッコミに対し、反応することなく外に出て行く。準備が整い、この場にいる意味がなくなったからだろう。そして、アリスの怒りを発散させるチャンスを作るために。


「ま、待て! くっ……、フラン!」

「え、何ですかぁ?」

「俺を助けてくれ」

「え、あ……まだ、包帯巻き終わってないんですぅ」

「俺より包帯かよ!」


 壁に隠れて見えないフランは残酷にもスザクにそう言って、「んしょんしょ」と必死に巻くような声が漏れる。答えるまでもなくフランはスザクよりも包帯を取ったのだ。


「ふっふっふ、覚悟いい?」


 アリスは手をポキポキと鳴らす。

 今回は魔法を使わないらしい。


「待て待て! 魔法じゃなくて実力行使でやるつもりか!?」

「だって、魔法ばっかり使ってたら魔力が減るでしょ。それに今回は拳を使った方がすっきりしそうじゃない?」

「や、やめろって! まだ魔法の方が手加減してくれるだろ! せめて、魔法で頼むっ!」


 スザクがここまで怯える理由は、アリスがただの魔法使いではないからだ。

 こちらもフランと同じように魔法使いと拳闘家の修行を受けており、その先祖は元々勇者のパーティという事実まである。実力も今までの旅の中で折り紙付きなのはスザクが一番知っていた。あえて言うのなら、素質としては魔法使いの方が強い。が、それは今の状況では何の意味も持たない。


「これから出かけるんだし、手加減はしてあげる♪」

「絶対に嘘だ」

「えー、信用してくれないの?」

「信用できないレベルで顔が笑ってない」

「にっこりスマイルだよ? 今の私のスマイルを見たら、世界中の皆が微笑むよ?」

「だろうな。微笑むというより泣き叫――」


 言い終わる前にスザクの頭に拳が落ちた。

 しかし、スザクの頭にはそんなに痛みは走らない。子供だったら、もしかしたら泣くぐらいの痛さ。

 おそるおそるスザクが顔を上げると、


「アヤカが一番悪いのは分かってるから、これぐらいで許してあげる。そ、その……パンツ見たのだけ記憶から抹消して」


 恥ずかしそうに下着を回収し、背中を向けているアリスの姿がそこにはあった。


「それには少なくとも同意する」


 片付けるまでの間、スザクは再び脱衣所に引きこもる。

 そうすることしか出来なかったからだ。


「なんだ、鉄拳制裁にはならなかったのか」


 元凶であるアヤカが部屋に入ってきたらしく、つまらなさそうにぼやく。完全に他人事。むしろ、そうなることを望んでいるかのような発言だった。

 しかし、スザクは煽るようなことを言うつもりはなかった。言ってしまえば、アヤカがアリスに代わって制裁を起こし始めるから。

 スザクは気持ちを落ち着かせるように腕輪を撫でる。これがゲームに入るための必須アイテム。これに全てのデータが入っており、傷ぐらいならなんとかなるだろうが、全壊してしまうとセーブデータすらも飛んでしまうので、なんとしても死守しないといけないのだ。

 ここにはスザクの青春が全部詰まっているのだから。

 しばらくしてからスザクは再び同じ質問を外にいる三人にぶつける。


「もうそろそろ大丈夫か?」

「うん、いいよー」


 返事の主はアリスだった。


「本当かよ。さっきのこともあるから、ちゃんと確認しとけよ」

「んー、オッケー。本当に大丈夫!」


 アリスの迷いのない声を信用し、スザクは外に出る。

 他の三人は完全に準備できているのが確認できた。

 アリスは魔法使いの割には胸と腰、手、足に防具を着ける軽装備で腹は出している。防具的には魔法使いより拳闘家よりに近い。

 フランは逆に必要最低限の装備のみ。腕はいつも通りの包帯だけ。ネクロマンサーとして、どこにでも傷が付いて良いようにしているらしい。本人が言うには『死にたくても死ねない身体』になっているとのこと。そこまでの激しい戦闘はまだしたことがないので分からない。


 アヤカは剣士として一般的な防具を身に付けている。実はアヤカも剣士だけではなく、暗殺者としての能力を持っている。なので、本当に暗殺に走る時は防具を脱ぎ、軽装で行動するため、本当は防具なんて着けなくてもいいらしい。それでも防具を付ける理由は、女として必要最低限の身だしなみとのこと。スザクには全く意味が分からない理由である。

 ちなみに剣士も二人と同じように元勇者パーティの仲間。

 つくづく、先祖の仲間だからって女ばかり集めなくても良かったろうに、とスザクは思ってしまう。それだけの理由ではないことも分かっているのだが……。


「ほら、早く防具着けてよ。早く行かないと!」

「はいはい」


 スザクはアリスに急かされ、急いで防具を着け始める。


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