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エピローグ(1)

 二月十四日。

 その日はバレンタインのイベントの日。

 スザクは三人の許可を貰い、ゲームの中にログインしていた。というか、拒否されたとしても、スザクは無理矢理にでもログインするつもりだったのは言うまでもない。

 なぜなら、朱雀が立てた企画があるからだ。企画者として、その企画の顛末を最後まで見届けることが一番重要な仕事であり、それを見逃す者は責任者には向いていない、というのが朱雀の理念だったりする。

 朱雀は教室の窓際で外をぼんやりと眺めていると、その企画の被害者であるヤイバが隣にやって来て、気だるそうにため息を吐いた。


「ったく、また巻き込みやがって」

「そう言うな。今回は緩かっただろう?」

「そういう問題じゃないっての。どうすんだよ、このチョコは……」


 ヤイバの机に置いてある五個ほどあるチョコを見て、げっそりとした表情を浮かべるヤイバ。そのチョコを見るだけで胸焼けをしそうだ、という視線が朱雀へ向けられるが、朱雀は無視を決め込む。

 ヤイバへの被害は量ではなく質。

 五個だからと言って侮れないほど、立派なチョコが作られている。


 その中でも一番目を惹かれるのが優勝者であるミユのチョコだ。

 チョコと呼ぶにはもったいない程の立派なお城が形成されている。これを一日で全部食おうものなら、鼻の粘膜が弱い人は鼻血で出血多量にでもなるんじゃないか、と思ってしまうレベル。

 似たような感じの物が他に四個あるのだから、さすがに食うにはキツいことは間違いない。


「こんなの一日一個なんて食えるはずがない」

「そうだな。素直に分けて食ったほうが得策だろう」

「食うの手伝えよ」

「はっはっは、それは往生際が悪いというものではないか? 確かに企画として、俺たちが提案したものではあるが、送り主がやる気をだしたのはヤイバ、お前だからだ。俺やレオスだと、こんな風な立派なものは貰えないと思うぞ?」


「そ、それはそうだけどさー」

「だから、お前が全部食うしかないな。なーに、ミユだってヤイバが何個か貰う事はちゃんと知ってるんだから、鼻血を出して倒れたとしても治療はしてくれるだろう」

「迷惑をかけてるだけの気がするんだけど……?」

「そうか? 迷惑ではないと思うがな、ミユのことだから。というよりは食う順番の方が問題だろうな」

「え?」


「あえて尋ねるが、好物は先に食う派か?」

「あー、最後かなー? 特に気にした記憶はないんだけど……。揚げの件があるから断言できるものではないけどさ」

「じゃあ聞こう。ミユのチョコは何番目に食うつもりだ?」

「あ、そういうことか」


 朱雀の意図が分かったヤイバは再びミユが作ったチョコを見る。そして、生唾をゴクリと飲み込む。

 頭の中で食う順番を考えているのだろう。


「は、はは……っ、最初に食うしかないよな……」

「頑張れ」

「他人事みたいに言いやがって。っていうか、ご褒美が俺からのキスってどういうことだよ! そっちの問題もあった!」


 改めて思い出したようにヤイバが不満を現す軽めのパンチを繰り出すが、朱雀はそれをあっさりと受け止める。


「この企画で金の目の物はさすがに……と思った結果だ。仕方ない」

「いやいやいや、仕方ないとかいう問題じゃないからな!?」

「そっちも頑張れ。なんなら、そのお膳立てぐらいは協力してやるぞ?」


 ヤイバは考え込むように目線を上へと向ける。

 朱雀に手伝ってもらえるメリットとデメリットを考えているのは明白だった。

 しばらく考え込んだヤイバの結論は、


「やっぱりやめとく」


 という当たり前の回答。

 朱雀の予想通りの回答だからこそ驚きは何一つなかったが、それでも理由は聞かずには要られなかった。


「ほう、その理由は?」

「まー、二つほど思いついたけど、朱雀たちにそのお膳立てを頼ったら、何か最悪な展開を向かえそうだという直感を感じた」

「心外だな、レオスは知らんが俺は真面目に手伝うぞ?」

「その真面目が一番当てにならないんだけどさ」

「……まぁいい。それでもう一つは?」

「手伝ってもらったら、ミユに悪いってことかな? つい最近、怒らしたばっかりだからこそ、自分の手でなんとかしないといけない気がする。それだけだよ」


 ヤイバは少しだけ恥ずかしそうに前髪をかき上げながら、恥ずかしそうに答えた。

 その答えはスザクにとって、十分な答えだったのは言うまでもない。

 前回のログイン時に、偶然とはいえミユを傷つけてしまった。だから、それを忘れるぐらいの良い思い出を作ってあげたかったのだ。それを踏まえて、ミユの意欲が湧き、頑張れそうな簡単な企画を立てた。もちろん、お礼はヤイバにさせるとしても、キスなど簡単に出来るものでもない。だからこそ、最初から真面目に手伝うつもりだったのだが、悪い予想のおかげで、ヤイバ自身がこんな風にやる気を出してくれるという結果は朱雀にとって嬉しい誤算だった。


「そうか、そう言うなら頑張れ。何かあったら言え。手伝ってやるからな。友達割引で」

「何かあったらな。っていうか、金を取るのかよ!」

「冗談だ。俺から言い出したことでもあるから、無料でしてやろう」

「はいはい。当てにしないから安心しろ。そういや、レオスは? なんか今日は顔を見てないんだけど」

「足止めを食らってるんだろう」

「……あー、俺より酷い企画のせいだな」

「案外そうでもないんだがな」


 朱雀の企画をちゃんと読んでいたヤイバは、そのことに関してほんの少しだけ不満そうな顔を浮かべる。

 が、朱雀は意に介さなかった。

 冷静に考えればお返しの出費は多いかもしれないが、レオスにとって今回は間違いなく幸せな結果だからである。そもそも、すでに企画は実行中であり、今更変更も削除も出来ない。というよりは、最初からそんなことをするつもりもないのだから、ヤイバがなんと言おうと進行する以外の選択肢しか残されていない。


「ふーん。朱雀がそう言うなら、そうなのかも知れないけど……そういや、魔王が――」


 と、ヤイバが話題を変えようとした時、噂の張本人であるレオスが鼻歌なんぞを歌いながら嬉しそうに教室に入ってきた。


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