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気の持ち方

 外界まで三人を運ぶと、結界は自然消滅した。


「スザクは!?」

「分かんないよ! 探すしかないでしょ!」


 アヤカの問いかけにアリスがそう答えると、三人はそれぞれ周囲を見回し、スザクを探し始める。

 まず、三人の目に入ったのは遺跡に入る前とはかなり変わった風景だった。

 本来の森は完全になくなっており、スザクが戦闘で出した名残だと三人が理解するには時間はかからなかった。


 変化した光景に対しての感想を誰一人言わず、三人は探し続ける。

 アヤカに至っては鷹の目をも発動させていた。

 しかし、どこにもスザクの姿は見つからない。それどころか、崩れ落ちた遺跡の残骸から誰かが這い出てくるような気配すらなかった。


「まさか……スザクさんはぁ……」


 フランは泣きそうになりながら、二人に尋ねる。


「そんなわけないだろう! だいたい、私たちの想像以上の力を持ったスザクが簡単に倒されるわけがない!」

「そうだよ! そんなことありえない! だって、百匹近い魔物も余裕で倒してきて、そのまま魔王との戦闘にも入れるような奴なんだよ!? あんな爆発で倒されるはずがないでしょ!」


 フランの泣き言に対し、アリスとアヤカは叱り付ける。「そんなことを言っている暇があったら、スザクを探せ」と言わんばかりに。

 その時、近くで瓦礫が崩れる音が聞こえたため、三人はそちらに視線を向ける。

 まだ瓦礫に埋まっている可能性もあったからこそ、ちょっとした音にでも敏感に反応するようになっていたのだ。

 しかし、そこには三人の予想とは違うものが姿を現していた。


「な……んだとっ!」

「う、嘘……っ!?」

「自爆したはずじゃあ……」


 三人は思わず、驚きの声を漏らす。

 そこにあったのは宙に浮く魔王の頭だった。いや、もはやパズルピースのような角が砂の部分から露出しており、魔王である一部が姿を現し、浮いていると表現してもおかしくない状態。

 先ほどの自爆で大量の魔力を消費し、そのせいで身体を形成するだけの魔力がなくなっていたのだ。


「くっくっく、勇者が単純で助かった。あのままではどっちみち逃げ切ることも出来なかっただろうから、倒すつもりで挑んで正解だったか」


 ここで三人は、会話すらもスザクを騙す手段に過ぎなかったということに気付く。

 スザク自身、油断をしていたわけではなかった。そのことは見ていた三人も分かっていたし、魔王も知っていただろう。

 それでも、もし唯一油断してしまったタイミングがあるとすれば、自爆する前の会話の時のみ。まるでスザクが魔王に話しかけることが分かっていたかのような、奇跡に近い可能性を利用して自爆してみせたのだ。

 スザクの警戒をも出し抜き、自爆した事を考えれば、勝敗を決めたのは気の持ち方の差だけだった。


 そこまでして諦めない気持ちを持ち続けている魔王に対し、三人は思わず敬意を示してしまいそうになる。

 しかし、三人も今までと違い、絶望という二文字は浮かんでいなかった。

 今までならば、魔王がまだ死んでいなかったことに対して絶望するはずだったが、魔王の行動を見て、諦めないことの重要性に気付いた三人の次の行動はすでに決まっていたからである。


「じゃあ、弔い合戦しても何の問題もないわけだね」

「ですねぇ。現在いまの魔王さんなら、ワタシたちでも倒せそうですしぃ……」

「……ふっ、まさかこのタイミングでスザクの教えが早速活用されるとはな」


 アリスは呪文を唱え始め、フランは治癒したばかりの腕を切りつけ、アヤカは結界が一緒に運んでくれた刀の柄を掴む。

 柄を掴むと先ほどと同じようにアヤカの腕に向かって触手が伸びようとするが、それを手首辺りで触手の動きを止めて制御する。そのことを知らせるように、刀身が黒から白へと変化した。

 ちゃんとスザクの言いつけを守り、『敵を討つ』よりも『スザクに代わって世界を守る』という意思を強く持たせた結果である。


「やめておけ。万全のお前たちでもオレの全力の結界は破れない。というよりも今度は本当に逃げさせてもらう」


 そう言って、魔王は青白く光る結界を展開した。

 三人はそれを合図に攻撃をしかける。

 アリスは結界を張るであろうことは分かっていたため、スピードと貫通力を備える電撃のビームを打ち込む。

 フランは呼び出した魔物を魔王の逃げ道を塞ぐように左右後方から攻める。

 そして、アヤカは二人の穴を埋めるように上空から斬りかかる。

 結界に全部の攻撃がヒットすると、結界はガラス音を立てて、あっさり砕け散る。


「な……んだとっ!?」


 魔王は初めて驚きの声を漏らした。

 結界がいとも簡単に壊されると思っていなかったからだ。全力で結界を張るとは言ったものの、それでも魔力の消費を抑えたいという本能が働いた。だからこそ、スザクが来る前の三人の実力を計算して結界を張り、攻撃を防ぎながら逃げようと考えていたからである。

 しかし、その結界がいとも簡単に壊された。

 ということは、スザクが来る前よりも三人の力量が増していることを表している。

 結界を破壊した時の反動で飛ばされたアヤカは姿勢を制御しながら、地面に着地し、


「ちっ、結界を破壊することで精一杯だったか」


 少しだけ悔しそうに呟いて、立ち上がる。


「まぁ、でも全力の結界を破壊できたんだし、次はいけるね」

「サクッと殺っちゃいましょうよぉ」


 アリスとフランもノリノリでそう呟く。

 いきなり強くなった三人のきっかけが分からない魔王にとって、それは初めて味わう恐怖でしかなかった。すでに魔力も尽き掛け、戦闘する気力も残っていない状態で取れる選択肢は『全力で逃げる』のみ。

 隙を突こう様子を伺っていると、魔王の一部を正確に貫くように背後からの一撃が突き刺さる。

 そして、その攻撃をした者の不満の声。


「俺の獲物まで取るってどういうことだよ。少しは遠慮しろ」


 それはスザクだった。

 ただ、先ほどまでとは違い、翼だけではなく、神々しいと表現した方が言いように身体が光り、頭には天使の輪らしきもの。目はさっきまでのような黒ではなく、全てを見通すようなスカイブルーへと変化していた。

 魔王の残されていた頭の砂も瓦礫の残骸に埋もれ、残ったのは剣で突き刺されている一部のみとなる。


「コ、コノ……チ、チカラ……ハ……」


 魔王はこの力を知っていた。

 聖気というレベルではなく、すでに人間の域を超えた力であり、その力の名は――。


「余計なことを言う必要はないだろうが。ったく、最期の最期で余計な事しやがって……。さすがは魔王。強かったぜ」


 最期まで言わせるつもりもないスザクは魔王から剣を抜くと、そのまま適当に細切れにした。

 同時にスザクはその力を解き、元の姿へと戻る。

 これで決着が着いたことを三人に教えるように。


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