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魔王との会話(1)

 アヤカはゆっくりと立ち上がると、


「貴様、いったい何者だ!」


 睨みつけながら怒鳴りつける。

 それにつられるようにアリスとフランも、ふら付く身体を壁にもたれるようにしながらゆっくりと立ち上がる。


「そんな体力のない状態で頑張るんだな。さすがは勇者の仲間たちってところか」


 馬鹿にした笑いと共にわざと呆れているかのように両手を顔近くまであげて、首を左右に振る。

 そのわざとらしい行動にアヤカは頭に血が上り、


「ほう、こんな状態でも貴様に勝てることぐらい証明してやるぞ?」


 そのまま剣を抜き、一歩前に出る。


「ちょっ、アヤカ! あいつは万全の状態でも勝てるような相手じゃないでしょ!」

「気にするな、絶対に倒す」

「待ってください!」


 フランが壁に軽く体当たりして生まれた反動を利用し、アヤカの腕に抱きつき、身体を使って動きを止める。

 さすがのアヤカもかなり参っているフランを無理矢理払う事は出来ず、仕方なくといった感じで動きを止めるが、ずっと相手を睨みつけていた。


「剣士は単純みたいだが、二人は冷静のままか。ま、それが勇者の仲間としてはいいチームワークを発揮していると言えよう。だが、本気を出す必要もないな。こんなゴーレムごときで苦戦してるんだから」


 それは残骸である石を軽く蹴りながら、さらに挑発。

 同時に言葉通りの殺気からくる重圧がなくなり、三人の身体は一気に軽くなる。


「きさ――」

「アヤカ!」

「邪魔するな。馬鹿にしたあいつだけは――」

「そんなことより確認したい事があるの。馬鹿にしてるのは分かってるけど、それよりももっと大事な事があるでしょ?


 アリスはアヤカを無理矢理黙らせると、一旦間を開けて、


なんで私たちが『勇者の仲間』だって知ってるの?」


 それに向かって質問した。

 そのことがずっと気になっていたからだ。依頼を受ける上で勇者と名乗ったことが一度もない。それなのに、そのことを知っている相手が気になってしまった。

 そもそも、こんな風に残骸を利用して姿を造る魔法をアリスは知らない。魔法としてないわけではないけれど、少なくとも近くに術者がいて成り立つ魔法ばかり。なのに、今まで人の気配は一切感じず、さっきの殺気も直接感じられた。どう考えても、人間が使えるキャパシティを超えているのだ。


 アヤカもアリスの質問を耳にし、ハッとした様子でそれを見つめる。

 フランはアリスと同じ考えに至ってたらしく、ホッとした息を吐くとアヤカの腕から離れる。しかし、自力で立ち上がるまでの力は未だ回復していないらしく、その場に座り込んでしまう。


「『なんで知ってるか?』か。なんでだと思う?」

「試さなくていいよ。そんなことが分かっている相手なんて少ないから。けど、最悪な展開は否定したいだけ」

「それが正解だとしたら?」

「……っ!?」


 アリスは苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。

 相手からの意味深の発言にアヤカとフランも同じように悟ったらしく、今まで以上に張り詰めた空気になった。


「全員、気が付いたようだな。改めて挨拶しよう。オレの名前は……いや、『魔王』で十分かな? そう、勇者が倒さないといけない敵という奴だ」


 馬鹿にしたような口調は変わらず、紳士的な態度で頭を下げて、自己紹介をする魔王。


「なんで、このタイミングで復活したの?」


 そんな魔王の自己紹介を受け流し、アリスは質問を繰り出す。


「何をそんなに怯えてるんだ?」

「うるさい」

「そんなに怯える必要もないだろうに。そんなに嫌な想像をしたくないのか?」

「うるさい!」


 アリスは怒鳴った。

 魔王の挑発が正解を示すかのように。


「どうしたんだ、アリス?」

「え? あ、あの……意味が分からないですぅ!」


 アヤカとフランはアリスの言いたいことに気付いていないらしく、二人の会話だけを聞いて、何かの疑問を抱いてしまっていた。

 だからこそ、アリスは口にするつもりはなかったのだ。最悪な展開で、最悪な予想だからこそ、二人には伝えたくなかった。

 しかし、魔王はアリスの気持ちを見透かすように、


「その通りだ」


 と最高の笑みを浮かべ、口を歪めて続ける。


「オレの最後の一部を封印してあったゴーレムを倒してくれてありがとう。お前たちのおかげで安心して、世界征服が出来る」


 三人は一瞬にして絶望した。

 青ざめるという言葉では足りないほどのショックを受けて、全員がその場にへなへなと座り込んだ。


「オレもこんな風な展開になるとは思わなかったんだ。あくまで腹心に、『このゴーレムを倒せる奴を探して来い』と言ったまでに過ぎない。それをお前ら、勇者が破壊してくれたんだ。さすがは勇者御一行様と言ったところだな。困っている人を助ける正義の味方だけの事はある。なんていったって、敵であるオレまで助けてくれたんだからな」


 嘲笑しながらの拍手。

 三人は反論なんて出来るはずがなかった。その通りだったからである。人助けをするつもりで受けた依頼が、まさかこんな形で世界に不幸を呼ぶとは思ってもいなかったからだった。

 しかし、その中でフランがすぐに持ち直し、一体の魔物を召還して魔王にぶつける。

 が、それは手を払うかのような素振りで消される。


「ほう、僧侶の子孫。二人は絶望してるっていうのにやる気があるじゃないか」

「べ、別にやる気があるわけじゃないんですよぉ? 本音を言ったら、魔王さんが怖いですしぃ」

「そんな状態でよく攻撃をしようと思ったな」


 フランはアリスとアヤカを順番に見つめて、


「だって、魔王さんを倒すのが仕事なんですから。だったら、こんなチャンス、二度とないじゃないですかぁ」


 二人を元気付けるように言い切る。

 魔王もその発言に対し、少しだけ驚いた表情を浮かべた。


「ほう、面白い事を言うな。だが、残念だったな。オレの本体は別にいる。さっき言ったように、ここにいるのはオレの一部の存在だけだ。それでも今のお前たちぐらい簡単に倒せる力はあるのだがな」

「その一部でも倒したら、本体の力は減りますよねぇ?」

「――ふむ……それは正解だ、とだけ言っておこう。倒せるならいいんだけどな」


 その言葉に二人は絶望から抜け出せたらしく、再び立ち上がる。


「それだけ聞ければ十分だ。やる気が出た」

「フランさんの性格って追い詰められるとポジティブになるタイプ?」


 アヤカは再び魔王を睨みつけ、アリスは苦笑しながら問いかけた。

 フランはアリスの質問に対して、「えへへ」と力なく笑いながら、


「そうかもしれないですぅ」


 と同じように立ち上がる。


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