決着、そして……
「お、終わった……」
アリスはその場に座り込んだ。魔力的な問題はたいしたことはなかったが、肉体的に無理をしてしまったため、疲労困憊してしまったからである。
それはフランとアヤカも同じだった。
しかし、その中でも比較的マシなアヤカが、アリスの腕を掴んで勢い良く立ち上がらせると、そのまま自分の肩にまわす。
「お疲れだったな。最後の最後を任せてすまなかった」
「ははっ、しょうがないよ。フランさんも限界みたいだったしね。だから、アヤカの判断は間違ってないと思うよ?」
「そう言ってもらえると私も助かる。それじゃ、フランのところに戻ろう」
アヤカは、アリスと一緒にフランの所へ向かって歩き始める。
フランも少しだけマシになったのか、身体を起き上がらせ、壁にもたれるようにして座り、
「お、おつかれさま……ですぅ……」
気だるそうに二人に言った。
「フランこそお疲れ様だろう」
「そうだよ、今回の一番の功労者はフランさんだからね」
アヤカがアリスをフランの隣に座らせ、アヤカも同じように座る。
しばらくは動きたくないという意志が三人から感じられるほどだった。
「ここまで疲労するってのも、今までなかったな」
「そうです、ねぇ……、スザクさんがいないのが原因でしょうか?」
「それは関係ないと思う――ううん、思いたいかな」
とアリスは漏らした。
戦闘には今まで参加してこなかったスザクが、もし今回の戦闘に参加して楽に終わった想像をすると、ちょっとだけショックを受けてしまうからだ。
「そうだな、フランの頑張りが無駄になってしまうぞ」
アヤカも同じ考えに至ったらしく、複雑そうな顔を浮かべている。
「そんなこと気にしてませんよぉ。ワタシたちは仲間なんですから、そんな些細な事で拗ねたりしません」
「意外と大人の発言するよね、フランさんは。なんだか私たちが子供みたいじゃん」
「あ、あのぉ……せめて、仲間ってところを受け取ってほしかったんですけどぉ……」
「ごめんごめん、分かってるよ。ちょっとだけ意地悪したくなっただけ」
「うぅ、酷いですぅ」
アリスの発言にフランは少しだけ落ち込んだ様子だったが、ゴーレム退治をした達成感が強いらしく、すぐに笑顔に戻る。
「ま、依頼達成だな。あとは報告だけだが、今は少し休憩しよう」
アヤカはそう言って、二人に提案すると、
「賛成」
「賛成しますぅ」
二人も即答した。
しかし、その直後の事だった。
三人に上から重圧がかかったのは。
「なっ!?」
「っ!!」
「うぅ……っ!!」
それぞれにうめき声を漏らして、その重圧に耐える。
まるで建物全体に重力系統の魔法がかかってしまったような感覚が身体を襲い、三人はそれに耐えようとだらだらと汗を流し始める。
その重力のような圧力はただの殺気。
しかし、三人はこれほどまでの殺気を今までに感じたこともなく、初めて感じる異常なほどの感覚に戸惑いを隠しきれなかった。
「ん、なんなんですかぁ!?」
フランは半狂乱してしまったかのように金切り声を上げて、その圧力から逃げたいかのように自分の腕を抱きしめる。
「落ち着け! ただの殺気だ!」
アヤカもフランについ怒鳴ってしまう。
本当は怒鳴るつもりはなかった。が、怒鳴ってしまったのはアヤカもこの殺気に怯えてしまっていたからだ。
「怒鳴ってもどうしようも出来ないよ! 疲労困憊してるせいで、余計に圧力を感じてるだけ!」
アリスもアヤカにそう注意する事しか出来なかった。
なぜなら、アリスも同じだったからだ。
いや、脳内では疲労困憊じゃなかったとしても、きっと片膝を付く自信があるほどだった。それほどの圧力を、今は疲労困憊も一つの原因として捉えることで、少しでも気持ちに余裕を持たせようとすることが唯一の抵抗だったのである。
「ご、ごめんなさいですぅ!」
フランはアリスの言葉を受け、その圧力に必死に抗い始める。ここまでの圧力は気のせいだと思い込むかのように。
「そ、そうだな。ふ、フラン、すまない。しかし、これは――」
アヤカはそう言って、殺気とは別に向けられている視線の方向を見つめる。その場所は先ほどゴーレムがいた場所。
アリスとフランもその場所を見つめると――そこに落ちていた魔法球の残骸である粉がキラキラと輝く人型を形成していた。
三人に見られている事を認識したそれは、まるで笑うかのように口の部分を歪める。
まるで三人の様子を見て、嘲笑うように。




