三人対ゴーレム(3)
フランは再び自分の腕を切り、流れ出た血を魔物の口に垂らす。
すると、その魔物はフランからの追加魔力の効果で身体が大きくなり、最終的には人間サイズの大きさになった。
アリスは呪文を唱え、先ほどアヤカを救うために使用したときと同じ魔法を周囲に展開させて、石での射撃攻撃に対しての迎撃に備える。
「準備は出来たか?」
「はい、ばっちりですぅ!」
「私もオッケー!」
二人の返事を聞いたアヤカは、
「よし、私も少しだけ前に出る。アリス、頼んだぞ!」
それだけ言って、二人の返事は聞かず飛び出す。
アヤカが飛び出た目的は石の迎撃目標を増やすため。それだけで魔物の生存率を少しでも上げることが出来るからだ。
案の定、ゴーレムの石の射撃が始まるがアヤカは前回の接近と同じようにかわす。
アリスはそれに合わせて、炎の弾丸を撃ち込む。ゴーレムの体から離れると効果がなくなるのか、あっさりと砕け散る。が、すぐに破片が集合して元の大きさに戻ってから引き戻されてしまう。
「っ! そんなに甘くないよね!」
体積が減らせると思っていたアリスにとって、それが気に食わなくて思わず舌打ちした。
フランは二人の様子を見ながら、タイミングを計る。最初から全速力で全力の体当たりを食らわせるために。
二人はフランの考えが分かっていたため、なるべく同じ感覚でゴーレムの下へと通じる一直線の道を作っていた。
そして、感覚を掴む事ができたフランが、
「いけぇ!」
指を指し示すと共に指示を出す。
その指示に従うように魔物はその道を全力で駆ける。腐敗した身体がそのスピードの付いていけないのか、身体の組織をボロボロに崩しながらもゴーレムへと到達。そして全力の頭突きを繰り出すと、その勢いからかゴーレムはほんの少しだけ後ろに下がるも、さっきと同じように魔物は弾け飛んだ。
「もういいですよぉ!」
その声にアヤカは二人の位置へ戻り、アリスも攻撃を止めて、フランに話しかける。
「何か分かったの?」
「はい、おかげさまで分かりましたよぉ」
「よ、よくやったぞ」
アヤカもさすがに道中から続く能力の連続使用と今までの回避の疲れが少し出たのか、息を乱していた。
「はい! アヤカさんは少しだけ休んでてください。あとはワタシがなんとかしますぅ!」
「何とかするのは良いけど、仕組みは?」
「あ、言うの忘れましたぁ。あれは無効化じゃなくて吸収するタイプですぅ。先ほどの魔物に魔力を追加して、さっきの消滅時間との誤差を比べてみたら、今回の方が少しですけど持ちましたぁ」
「それさえ分かればこっちのものだね! 私も手伝うよ!」
俄然やる気を出したアリスがそう言って、呪文を唱えようとするがフランによって止められる。
「え?」
「アリスさんは帰りの護衛をしてもらいたいので、今回は引いてください。二人でやった方がいいかも知れないですけど、ワタシでは周囲のカバーがしづらいのでぇ」
「そうだな。来る時に見せた空間も全方位は無理だろう。召還する魔物も自分より強い敵に当たったら消滅するし、再び召還するのに時間もかかる。それだったら、全方位を攻撃できる魔法を持っているアリスが残るのが良いだろう。呪文を唱えるぐらいの時間は私の能力で作れるからな」
アヤカもフランの考えに賛同し、アリスに説明。
アリスも二人にそこまで言われると、頷くことしか出来ず、呪文を唱えるのを止めて様子を見守る事にした。あくまでも危なくなったら、攻撃に参加出来るように緊張を解かないようにして。
「アヤカさん、もしゴーレムの魔力吸収の限界が来て、崩壊の兆候が見えたらトドメさせちゃってください。ワタシでは一撃には欠けますからぁ」
「ああ、任せろ」
「じゃあ、それまでは体力の回復に努めておいてくださいねぇ!」
フランはそう言って、今度は今まで以上に手首を思いっきり切り裂く。少しだけその痛みに顔を歪めながら、床にぼたぼたと盛大に血を流れさせる。
それは、昨日スザクが見た血の水溜りよりもさらに大きなもの。
その中から、いくつもの動物や虫などの魔物が召還されていく。
「――突撃」
フランは召還し終わっていないというのに召還した魔物に命令した。
その命令に従い、魔物たちはゴーレムに向かって、正面と左右から突撃をかける。それはこれから出てくる魔物たちも同じで、出てくるとすぐにゴーレムに向かって突撃を開始。
ゴーレムもそれに負けないように石で迎撃しつつ、腕の攻撃に範囲に入ったら直接攻撃をしかける。
「大丈夫か、フラン」
さすがに遠慮なく召還するフランに対して、アヤカも気遣いの言葉をかける。今までこれほどの連続召還など見た事がなかったからだ。
「大丈夫ですよぅ。たまにはワタシだって良いとこ見せない、とぉ…っ!」
平気そうに言っているが、フランは身体から大量の汗を噴き出していた。突撃だけのシンプルな命令の使役だったが、量が多いせいで精神的に負担がかかっているのだ。
「そうか、すまない。頑張ってくれ」
「はいですぅ」
「終わったら、スザクに褒めてもらわないとね」
アリスも魔法使いゆえにその辛さは分かる。だからこそ、気力を持たせるような発言をすることしか出来なかった。本当は手伝いたかったが、フランの頑張りを無駄にしないためにも歯を食いしばり、必死に耐える。
「――ですねぇ。もうちょっとだけ頑張らせてもらいますぅ!!」
ちょっとだけ嬉しそうに言うと、血の水溜りから先ほどの以上のスピードで召還と突撃を繰り返し、ゴーレムは魔物よって姿が見えなくなるぐらい埋め尽くされる。
アヤカも鷹の目でゴーレムの様子をしっかりと見ていた。ゴーレムの上からの様子だったため、身体の崩壊を確認するには少しだけ位置的に辛いものがある。が、フランの頑張りを無駄にしないためには無理をする必要があったのだ。
しかし、そのチャンスは訪れる。
いや、フランの様子を見て、アヤカは少しだけタイミングを早めた。
「フランもいいぞ。アリス、最後の一撃は任せる!」
「え、あっ……うん!」
アヤカとアリスはゴーレムに向かい、全力で駆ける。
アヤカは剣に気を送って、剣の威力を強化。
アリスも同じように呪文を唱え、手甲に振動の魔法をかけた。
「あと……はぁ……おねがい、しますぅ」
フランはその場に力なく、その場に倒れ込む。
二人にはその音が聞こえたが振り返ることさえもしなかった。いや、出来なかった。少しでも振り返り、フランの様子を気にする事で隙を作ってしまうことが嫌だったからである。下手に負傷して攻撃に失敗してしまえば、フランの頑張りを無駄にしてしまうことが一番怖かったから。
「うぉぉおおお!」
アヤカは間合いまで近づくと渾身の一撃を、そのゴーレムに向けて振り抜く。魔物の突撃と吸収の限界を超えた体は容易く切り裂かれるが、肝心の魔法球には弾かれる。
それほどまでに強固だったのだ。
アヤカは弾かれた反動により、バランスを崩しながら、
「アリス、あとは頼んだぞ!」
と叫んだ。
「任せて!」
アリスは二人の意思を引き継ぐように拳を魔法球に撃ち付ける。
鈍い接触音が響き渡るが魔法球は砕けなかった。それどころか、吸収した魔力を使い、小さな結界を発動させていた。
「ふ ざ け る な !!」
アリスはその光景に絶望はしなかった。いや、そんな感情を持つ余裕がなかったといった方が正しい。
二人のためにも絶対にこいつを割る。
それだけの意思でアリスは拳を振るった。
乱打。
すると、結界にヒビが入った。
だったら、と次は呪文を唱えて、打ち付けるスピードを加速させてまで乱打。
何十発、何百発の拳を打ち込んだのか、アリスにも分からないほど打ち込んだ結果――魔法球は砕ける。
砕けたと分かっても加速した腕を自分の意思ですぐに止める事が出来なかったアリスは、そのまま拳を振るい続けることとなった。
最終的に魔法球は球の形を消し、粉となって姿を消した。




