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遺跡攻略(2)

「相談に乗るのはいいんだけど、アヤカが考える女の子らしいって何なの?」

「あ、そうですねぇ。まずはそこから崩していかないと、アヤカさんが思う女の子らしさにならないと思いますぅ」


 アリスは背後に現れた少し大きめの蜘蛛に爆撃を食らわしつつ、アヤカに尋ねた。

 それに乗っかるようにフランも頷き、右側から壁を破壊しながら現れた蜘蛛に対し、先ほどと同じように空間を生み出し、壁ごと吸い込む。


「んー、私が思う女の子らしいか……」


 アヤカは足を止める。

 そして腕を組みながら、「うーん」と唸りつつ、周囲を見回す。ちなみに止まった理由は質問された内容ではなく、道が複雑になったから一度確認のために止まったに過ぎない。

 アリスとフランもその意味に気が付いているので、急かせる事なく、襲ってきた魔物たちに向かって反撃をしていた。

 しばらくすると道順が決まったらしく、アヤカは再びゆっくりと歩き始める。


「そうだな。やっぱり人形やぬいぐるみ集め、可愛い服を着たりとかじゃないか? 例えば、耳にピアスとか付けたり――」

「あれ、ピアス付けてもいいんですかぁ?」

「え? 例えばの話なんだが……」

「ピアスとか付けたらいけないのかと思って、遠慮してたんですよぉ! 実は欲しいのがあってぇ!」

「そ、そうなのか? す、すまん。別に欲しかったら買っても問題なかったんだぞ。小遣いの範囲で、になるが」


 フランがピアスを欲しがると思っていなかったアヤカは、自然と謝ってしまう。まさか、自分に気遣って遠慮していたとは思ってもみなかったからだ。


「良かったね!」

「はいですぅ!」

「もしかして、アリスは知ってたのか?」


 アヤカがアリスに尋ねると、


「そういうの一緒に見てたりしたからね。戦闘の邪魔にならないような小さな物だから大丈夫とは言ってたんだけど……」


 苦笑いしながら答える。そして、何か思いついたらしく、その言葉に続けて二人に提案を出す。


「あのさ、この依頼が終わったら、三人で買い物行かない? それでさ、四人でピアスを付けようよ。それぞれに好きなピアス買ってさ、私が魔法かけて何かの能力を加えるから」

「構わんぞ」

「いいですねぇ。その案は最高ですぅ!」


 フランは嬉しそうに笑った。

 買いたかったピアスが買えることもあるが、全員が付けるという提案を気に入ったらしい。


「あ、そういえばアヤカさんって普段着ている着物ってシンプルですけど、もっと鮮やかなやつとか大丈夫ですかぁ?」

「そういうのもあるのか? 両親からシンプルなもの以外は駄目だと言われてたから……仕立屋が来て、身体に合わせて作ってもらっていたんだが……」

「職業病ですねぇ。大丈夫です、ありますぅ! だからこそ、見に行きましょう!」

「そうだな」


 フランが真剣に話すので、アヤカは少しだけ驚きながらも、そこまで自分のために必死に考えてくれていることに嬉しさを隠し切れず、笑みを浮かべる。

 そのタイミングで前方に殺気が出たため、瞬時に顔を切り替えて、そこに向かって真空刃を放つ。

 嬉しい顔を見られるのは恥ずかしかったアヤカにとって、魔物が出てきてくれたことを初めて感謝した瞬間だった。


「こういう会話になるとフランさんが一番テンション高いよね」


 とアリスも楽しそうに話す。


「だって楽しくないですかぁ? こういう辛い戦闘が起きたとしても、これからの楽しみを見出せると思うと俄然やる気が出るってものですぅ!」

「それは分かるけどね。ま、その相談者も楽しみにしてるみたいだけど」

「ですねぇ。なんか、今の攻撃だってタイミングよく現れて助かったみたいな雰囲気が身体から漏れてますしぃ」


 フランのその言葉にアヤカは身体を跳ねさせる。


「アヤカって意外と身体や雰囲気に現れやすいんだよねー。もっとも、今までは『自分に厳しく』を徹してたから、それがなかなか読めなかったけど」

「そんなに分かるか?」

「うん、分かるよ。だって今までみたいな殺伐した空気出してないし」

「意外と人間なんて単純なものですよぉ?」


 フランは少しだけ意地悪な笑みをアヤカの背中に向けて放つ。

 アヤカにはフランの笑みは見えなかったが、その言葉だけでも顔を紅潮させるには十分の効果があった。


「ったく、この話をするタイミングを間違えたな」


 そう呟かずにはいられないほど、アヤカは初めて追い詰められていた。もちろん、精神的な方向で、である。


「そう言わないでくださいよぉ」

「そうだよ。ほんのちょっとからかってはいるかもだけど、意外と本気で考えてるんだよ?」

「ちょっとでもからかってるのか!」


 アリスの何気ない発言に速攻で反応するアヤカ。


「ごめんってば! だって、そんな反応するアヤカ可愛いからさ」

「か、可愛い!?」

「うん。そう思わない、フランさんも?」


 慌ててアヤカが後ろを振り向く。

 そこには思いっきり笑顔で頷くフランの姿があった。


「可愛すぎて、ちょっと苛めたくなるレベルなんですよねぇ」

「確かにねー。今までがしっかり者の姉御肌的な感じだったから、そのギャップに萌えるのかも」

「そうかもしれないですぅ。断じて悪気はないので許してください」


 なんて言われるとアヤカも反論できなくなり、再び前を向いて歩き始める。

 さすがにからかいのレベルが強すぎたかな、と思ったアリスは遺跡に入る前に助けてもらったことを思い出し、違う話題を振ることにした。


「そろそろスザクは起きたかな?」

「あー、スザクさんですかぁ……まだ、ゲームしてると思いますぅ。楽しむと時間があっという間に過ぎるのでぇ」

「私もフランと同じだな」


 アヤカは話題を変えられたことに少しだけ安心した口調で言った。


「あ、やっぱり? 私も実はそう思うんだよねー。一応、追いかけてきやすいように派手な魔法使って音で知らせてるんだけど、未だに追いつく気配がないし……」

「そうだったのか?」

「それだけじゃなくて魔力の残滓もわざと残してるんだけどね」

「完全に集中してますねぇ。こうなったら、ワタシたちが先にゴーレムの下に辿り着く方が早そうですぅ」


 フランは「やれやれ」と言った様子で首を横に振る。


「――みたいだな。というか、もう着いたぞ、この扉の向こうだ」


 数メートル先に見える扉を指差し、アヤカはニヤリと口端を歪める。

 目的地にもうすぐ着くからだろうか、先ほどまでのような和やかな雰囲気ではなく、ピリピリとした空気がアヤカの身体から出ており、女子トークの終わりを二人告げていた。

 アリスとフランもその空気に後押しされるように自然と真剣な目つきになり、気合を入れるのだった。


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