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恋話

 そんな沈黙を先に破ったのはアヤカだった。


「私がしっかりしないといけないとか、そうしなくてもいいとかは些細なものだから、そんなに気にする必要はない。ま、あくまで私がそういう意識を持ってしまっていたってことで解決だろう? だいたい、しっかりしないといけないスザクがあんな調子だからいけなかったわけで……」


 そう言って、ゲームから戻る気配すらないスザクを指差す。

 そうでも言わない限り、二人はきっとショックを受けたままだ、と判断したアヤカの苦肉の策でもあった。

 もちろん、内心では悪者扱慰した事に対しての謝罪をしていたが……。

 二人も少しだけ笑みを見せ、


「で、ですよぇ。スザクさんがちゃんとしてたら、アヤカさんがこんな風に思うこともなかったですよぉ!」

「うん、だよね! やっぱり元凶はスザクだったんだよ! 昨日のアヤカに対してのフォローは当たり前のこと行動に違いないよ!」


 などとスザクのせいにすることで、その場の空気を和やかなものに変える。

 二人とも心の中では、アヤカと同じようにスザクにちゃんと謝罪していた。


「しかし、あれだな。仲間三人に惚れられて、罪作りな男だ」

「しかも、フランさん以外は全く気付いていないけどね」

「あ、それなら、アリスさんもアヤカさんもアピールしたらいいんじゃないんですかぁ!?」


 とのん気そうに答えるフラン。

 二人ともその提案に対して即座に首を横に振り、拒否の意思を示す。


「なんでですかぁ?」

「アリスはどうか分からないが、私はそういうキャラじゃないから逆にする方がおかしいだろう」

「言われてみるとそうかもしれませんねぇ……。じゃあ、アリスさんは?」


 アヤカの言葉に納得したフランはアリスに見ながら尋ねると、


「いやー……私もそういうキャラじゃないと思うんだけどね。それにいきなりそういうのもおかしくない?」

「そうですかぁ? 別にいいと思いますけどぉ……。というよりは、アリスさんがまず言い始めたら、アヤカさんもその流れで言えると思いますよぉ?」

「それは私にアヤカのための犠牲になれってこと?」

「そういうわけじゃないですよぉ。嫌いでそれを言わせたら、さすがに駄目だと思いますけど……、好きなんですよねぇ?」

「それは……ね……」

「だったら、問題はないじゃないですかぁ!」


 予想以上にフランの口が回るため、アリスはもごもごと上手く反論を言えなくなっていた。いや、その提案に断る事はできたが、思いを伝えたいという気持ちは嘘ではない。しかし、恥ずかしいという気持ちの方が未だ強く残っており、素直に頷く事が出来ないのだ。

 二人の会話を聞いていたアヤカは、


「別に今のままでもいいじゃないか。私のために、アリスに犠牲になってもらう必要もないからな。というより、気持ちってのは自分が伝えたい時に伝えるのが、自分の中での良いタイミングなんだ。だから、そこまで強制して伝えることじゃない」


 アリスを助けるかのように言った。

 フランは少しだけ不満そうな顔をしていたが、アリスはその言葉に助けられ、思わず手でお礼を述べる。

 しかし、アヤカはそれを手で制して止めた。発言的にはアリスを助けたわけだが、少なくとも自分自身のためでもあったからだ。

 アリスがもしフランの言葉に頷いた場合、いつかはアヤカも気持ちを伝えることを強要される。それを避けるために言っただけであり、実際の所はアリスを助けるというよりも、自分の身を守るための意味合いが強かった。


「分かりましたよぉ。あ、それよりもどうやってスザクさんに自覚を持たせるか、ですよねぇ……」

「そ、それはもういいんじゃない?」

「え、なんでですかぁ? このままだとワタシたちは報われ――」

「そういうことじゃなくて、この話はもう止めようってこと」

「えー! 盛り上がってたのにぃ……」

「少なくとも、フランがこういう話が大好きなのは分かったからもう十分だ」


 アヤカがそう言って頷く。


「楽しくありませんかぁ?」

「楽しいけど……することがあるでしょ?」

「あ、依頼ですねぇ。というより、もう一時間経つから起こしますよぉ?」


 そう言って、フランがスザクの顔に手を伸ばそうとした時、


「いや、待て」


 と再びアヤカが静止をかけた。

 フランはその言葉に従うように動きを止める。


「え、時間でしょ?」


 その言葉の意味を求めるかのようにアヤカを見つめるアリス。

 アヤカは考えをゆっくりと話し出す。


「どうせだから、三人で依頼をクリアしに行かないか? 現時点での話になるが、スザクは私たちに戦闘を任せてるから居ても居なくても同じだ。それに、スザクもゲームの流れに精神的に乗っているという状態だろう。それを邪魔するのもどうかと思うんだ」

「言わないとしてる意味は分かるけどさ、それでいいの? この場に一人だけ残すと逆に危ないんじゃ……」

「だからだろう、魔法使い」


 アヤカはアリスに向かって、ウインクをして名前ではなく職業で呼んだ。

 アリスもアヤカの意味を分かったらしく、ため息を漏らす。


「私が結界を張って、スザクを守ればいいってことね」

「そうそう。話が分かってるじゃないか」

「言わなくても分かるよ」

「そんな結界あるんですかぁ?」


 フランは挙手して、アリスに質問する。


「ないわけではないんだけど……どういう結界を張るかによるよね。私たちが助けに来れるような探知結界、昨日の夜張ったみたいな工学迷彩の結界、敵からの攻撃を防ぐとか跳ね返したりする反射結界。現時点では探知か反射になるかな」

「いっぱいあるんですねぇ……」

「種類だけじゃなくて、設定もたくさんあるんだよね。設定によっては魔力も結構使ったりするし、術式が長かったりするし……、結構極端なものも多いよ?」

「んー、魔法使いとしてはどれがいいと思うんだ?」


 アヤカはスザクの様子を見ながら尋ねる。

 つられるようにアリスもスザクを見ながら、「うーん」と唸った。

 現時点でのスザクの様子を見る限りでは、簡単にゲームの世界から戻って来そうにない。熱中している事が分かるからだ。もし、本当に時間制限の事を気にしているのならば、すでに戻ってきているはず。そのことを踏まえて考えるのならば、まだまだ戻って来そうにない。

 つまり、アリスの答えは消去法で答えると一つしかなかった。


「スザクがゲームから戻ってくるタイミングが全然分からないから、探知結界の知らせでは戻って来れない距離に私たちがいることを踏まえて考えると……反射結界しかないかな……?」

「そうか、問題は設定というところか?」

「そうだね。誰かが残るならまだしも……三人で行くとなったら、結構詳細な設定にしないといけないから……」

「なんか、ものすごく大変そうですぅ……」


 アリスの発言を聞くだけでフランは「うーん」と唸り、アリスの苦労を一人納得するように腕を組んで頷く。

 その様子を見ていた二人は苦笑いを溢すのだった。


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