企画(2)
それから待つこと数分。再びログインして中庭に戻ってきたレオスは、満面の笑みを浮かべて、
「ただいまー。時間は掛かっちまったがちゃんと申請しといたぜ。確認してくるか?」
と朱雀に声をかけてきた。
朱雀はその問いに頷き、ログアウト。
そして、企画申請所へと向かい、先ほどレオスが申請した企画の許可が下りているか、予定企画欄を見る。
その欄に無事に『豪華なチョコを作った人にプレゼント! byレオス』とちゃんと表示されてあった。
よっぽど酷いものじゃない限り、ある程度は通るように作られているので、朱雀は最初から心配していない。
それよりも、もっと心配な事はこれから行う作業だった。
朱雀はその企画書を編集し始める。
レオスに申請しに行かせた本当の理由は、これから編集して付け加える文章を見られないようにするため。
朱雀がもし書きに行った場合、レオスがその内容を確認するためにここに来る可能性がある。それを防ぐためにワザと頼んだのだ。
もし、ここで時間を食ってしまったとしても「誤字や脱字があった」と言えば、それだけでレオスは納得してしまうほど単純。後から見返しに来る可能性もあったが、朱雀が確認済みとなればそういう行動はあまりないだろう、と踏んだのである。
〈ふふっ、これでよし〉
付け加えた文章を再度見直した後、再び申請した。そして待つこと数秒、それはすぐに予定企画欄にアップされる。
〈ま、無理だったら俺も手伝うし、大丈夫だな〉
最終確認した朱雀は再びログインし、さっきまでいた中庭へと戻った。
隣では真剣な顔をして、近くを通る女子たちを物色しているレオスの姿。そこまでして彼女を作りたいか、と引いてしまいそうなほど真剣な目で見つめていた。
そのため、朱雀が戻ってきたことに気付くのに約一分もかかった。
「お、おかえり。すまんすまん、じょ――」
「言わなくてもいい。女子を物色してたんだろ?」
「そうそう♪ ヤイバばっかりずるいじゃん? んでさ、どうだった? ちょい時間がかかってたみたいだけど……」
予想通りの質問だったので、
「誤字や脱字、あと補足を軽くしといただけだ。内容自体には何の問題もない」
と冷静に答える。
が、実際にはドキドキしていた。あくまで予想の話であり、レオスが朱雀の予想通りに動いてくれないのが人間という生き物だからだ。
レオスは「ふーん」みたいな顔をして少しだけ悩んだ表情をしている。『どこが変だったか』と脳内で確かめるように。
それは実際一分も満たしていない時間。
なのに、朱雀からすれば五分は経ってしまったんじゃないか、と思えるほど時間が遅く流れる。
ようやくレオスが口を開いて発した言葉は、
「そか、すまん。助かったわ。そういう文章を書くの苦手でさ」
朱雀への謝罪だった。
申し訳なさそうに髪まで掻いている。
「いや、気にするな。確認しにいかなくていいのか?」
「え、なんで? 内容は変わってないんだろ?」
「ああ」
「ならいいじゃん。どうせ、俺にはメリットないんだしさ。ま、ヤイバがちょっと羨ましいよなー」
「我慢しろ。そういうキャラじゃないだろ?」
「そりゃそうだけどさー」
レオスは不満そうな顔を見せるも、そこまで気にしてない様子だった。どちらかというと、冗談で嫉妬しているような感じの言い方。
朱雀の思惑に全くというほど気付いている様子はない。
「ま、そのうち良いこともあるさ」
「だと良いよな。な、これからどうするよ? ヤイバはミユと一緒にいるから行きにくいし……。あ、時間大丈夫なのか? 朝っぱらからログインするの珍しいけどさ」
「時間……?」
ふと、朱雀は時間制限されていた事を思い出す。
そこで何かがおかしいことに気が付いた。
レオスの反応を伺っている最中に起きた遅延は、心の中が起こす緊張からのものであり、実際は通常通りに流れている。
この世界も一日で二日間の時間経過を味わえるが、実際の時間経過は変わっていない。
感覚としては絶対に一時間以上経っているはずなのに、誰も起こそうとしない現状が異常としか思えなかった。
「なぁ、どうした?」
「あ、いや……ちょっとな」
「顔が青ざめてるぜ?」
レオスも朱雀の様子が気になり、心配しそうに見つめていた。
さっきまでのポーカーフェイスを出す余裕もなくなっている。そのことを自分自身で気付いたスザクは、現実で約束した内容をレオスに話すことした。
「悪い、現実世界で『プレイ時間は一時間だけ』って約束をしてたんだ。俺も気を付けていたんだが、たぶんもう過ぎるよな?」
「俺がここに着てから……少なくとも三十分は話してるんじゃないか? とにかく早く落ちろよ。もしかしたら、魔物にでも襲われてたりするんじゃね? 俺もなんか心配になってきたから、ログアウトして様子を見てみるわ!」
朱雀はちょっとだけドキッとしてしまう。
なぜなら、ヤイバとレオスには朱雀が勇者である事は伝えていないからだ。ゲームの世界では現実世界のことは関係ない空間、ましてや魔王すらも現れていない現在では教える必要もないと思ったからである。もし、現れていたとしてもどっちみち言うつもりはなかったが……。
しかし、レオスの「魔物に襲われている」という言葉に朱雀は少しだけ動揺してしまった。
三人の実力なら大丈夫と思っていても、やはりどこか心配になってしまったのだ。
「そうだな、また今度だ」
「おう」
朱雀は、レオスの返事も最後まで聞かずに急いでログアウトした。
三人の身に何も起きてないことを祈りながら。




