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ヤイバの元へ

 朱雀は中庭へと辿り着くと、まずは壁際からこっそりと覗き込んでヤイバの姿を探した。この場所に到着する前にもう一度マップで確認してみたが、場所移動していなかったので、この場所に多数設置してあるベンチのどれかに座っているという確信があったからだ。


〈どこかなー?〉


 ベンチから順に探していくと、朱雀が見える位置から一番近いベンチにいることが確認出来た。ログインしている事を隠す設定にしてあるので、ヤイバは朱雀がログインしていることは知らない。そのため、油断した表情で一人の女の子と楽しそうにおしゃべりをしていた。

 朱雀はその女の子のことをもちろん知っている。


 女の子の名前はミユ。ピンクのショートの髪をしており、耳には鈴型のピアスをしているヤイバの義妹である。

 この二人は本当の兄妹ではなく、このゲームの中のシステムの一つ、『家族システム』を利用して、本当の兄妹としての設定で暮らしているのだ。

 システムの内容は名前の通り、本人同士が望むならば家族になれるというもの。これは恋愛システムの副産物みたいなものであり、『恋愛対象ではないけれど家族として暮らしたい』という想いを叶えたものである。システム上、兄弟姉妹でも『普通』と『義理』を選べることから意外と好評になっている。


 ミユが義理の妹を選んだ理由は、ヤイバのことが異性として大好きだからである。なぜ、好きになったのかは朱雀がこのゲームを始める前のことのため分からない。

 ちなみに、それはヤイバも知っている。が、付き合わずに家族になったのはミユが「それでいい」と言ったかららしい。


 朱雀は目標を見つけると、あるアイテムを使う事にした。

 アイテム欄から『工学迷彩マント』を取り出し、着用する。このアイテムは名前の通り、着用した人物を認識不可能にするもの。オンとオフが本人の意思で出来るため、朱雀からしたら超便利アイテムなのだ。わいせつ行為、犯罪行為は出来ないように監視カメラが付いているが、びっくりや逃走ぐらいになら使用可能という中途半端に使えるアイテムなのである。

 主に朱雀のような作戦参謀的なキャラが好んで使うアイテムなので買う人はあまりいない。というか、かなりの高額のため買う人が少ないだけなのだが……。


〈おし、行くぞ〉


 朱雀は足音を立てないようにゆっくりと歩く。いくら工学迷彩で姿が見えなくても足音は立つ仕組みになっているため、慎重を要する歩き方が不可欠になってくる。しかし、朱雀は現実で習得しているので、大して苦労せずにベンチに座っている二人の間に移動することが出来た。

 そして朱雀は自分の中にあるスイッチを入れ替える。

 このゲーム内で使っている作戦参謀の冷静キャラへと……。

 切り替えは一瞬で終わり、マントの工学迷彩のスイッチをオフにして、


「よぉ、二人とも。何か悪巧みでも考えているのかな? それならば俺も混ぜてはくれまいか? 力になるぞ?」


 と興味深そうに二人に話しかけた。

 二人は本当に身体を跳ね上がらせるほど驚き、着地した後、まるで錆びたロボットのような動きで朱雀の方へ顔を向ける。朱雀をまるで幽霊でも見るかのように怯えて、第一声を発したいのになかなか発せない様子だった。


「ほう、俺にも話せないぐらいの機密事項か? 気にするな、俺も仲間にした方がさらに成功率がアップする事は保障してやろう」


 構わず話を続けていると、


「違うから! いきなり現れた朱雀に驚いたんだよ!」


 とヤイバが声を荒げてそう言ってきた。


「そうですっ! なんでいつもいつもいつもいつも、そんな現れ方しか出来ないんですか!?」


 とヤイバにつられる様にミユも苦情を漏らす。

 いつもの四倍増しで「いつも」を連呼されたので、日頃の登場シーンを朱雀は一瞬思い返してみたが、すぐに諦めた。昔の事なんて正直どうでも良い、と思ったためである。ゲームの中ぐらいは今の状況を楽しまないと意味がないからだ。


「細かい事は気にするな。それで、何の悪巧みをしてたんだ?」

「するわけないだろ! 少なくともお前とは違うから」

「なんだ、どこぞのバレンタイン星人と戦う話をしてるのかと思ったぞ?」

「なんだよ、それ。どこからバレンタイン星人とかいう生き物が出てきたんだ?」


「なんだ、知らないのか? バレンタイン星人というのは、チョコを全滅させるためにこの世界に派遣されつつある宇宙ギャングだぞ? 今の俺たちのチームはそのために動いているのだ。どうだ、同志ヤイバよ。俺たちのチームに入って、バレンタイン星人を駆逐する作戦に加担してくれまいか? お前ならVIP待遇で良い階級に入れてやれるぞ?」


 朱雀自身、びっくりするほど噛まずに言えた。そもそも、この考え自体が口から出任せ――いわば思い付きである。


「入らないし、そもそもダルそうだからパス」

「なるほど、残念だ。もし興味があったら――」

「あっても私が阻止しますからね?」


 あまり怖くない睨み付け方をしているミユが口を挟んできた。大好きなヤイバを守るために必死という感じの雰囲気。


「おっと、ミユもいたのか。失敬失敬。そうだ、ミユも入るか? ヤイバと同じ扱いでチームに入れてやらんこともないぞ?」

「入りません!!」

「まぁ、そう言うな。なんなら、ヤイバより上の階級にしてやらんこともない」


 顔をミユの耳元に近づけて、


「そうすればミユの思い通りに動かせることも出来るぞ? どうする? 良い提案だとは思わないか?」


 などと甘い言葉でさらに誘惑してみる。

 反応は一瞬だったが、その提案が魅力的思えたのか、ミユは一瞬顔を赤く染めたがすぐに拒否の意思を示す。


「入るわけないでしょ! 兄さんは私にとって大事な人なんだから、立場が上になったところで変なことはしないもん!」

「へ、変なこと?」


 ミユの言葉にヤイバは首を傾げる。


「え、あ……聞かなかったことにして!」

「あ、おう」


 声を強めて言うミユに圧倒されたのか、ヤイバは即座にそう答えてしまい、二度とその言葉の追究する機会を封じられてしまう。


「ふむ。やはり、相変わらずの仲の良さだな。思わず嫉妬してしまいそうだぞ?」

「その仲を狂わすようなことをしているのはどこの誰だよ!?」

「……レオスのことか? ったく、けしからん奴だ。俺の楽しみを奪おうとするとは……」

「現時点で楽しんでいるのはお前だろうがっ!」

「はっはっは! そう怒るな、ヤイバよ。久しぶりにこっちに来たんだ。これぐらいの茶番は必要だろう?」

「お前の茶番はどこからが本気で、どこからが冗談なのかが全く分からないんだけどな」


 疲れきったような声を出しながら、ヤイバは朱雀を睨みつける。

 それに賛同するように、ミユは朱雀をジト目で見つめながら、


「でも、本当に久しぶりですね。元気でしたか?」


 と挨拶をくれた。


「もちろんだ。俺から元気をなくしたら、何が残ると言うんだ?」

「悪知恵ですよね」

「……心外だな。みんなを楽しませるためにやってるんだが……」

「正月の時は兄さんが本当にお世話になったみたいですけど♪」


 ミユから怒りに満ちたオーラが溢れ始める。

 あの時の事を根にもたれていることは確実なようだった。


「今回も何か企んでいるんでしょう?」

「あっ、ミユ!」


 その言葉に朱雀はそういう話をしていたのを思い出す。

 どうやら、ヤイバは朱雀がすっかり忘れていたことに気付いていたようで、「しまった」と言わんばかりに目元を手で覆う。

 そのことを知らなかったミユだけが、意味の分からないという表情で朱雀とヤイバを交互に見つめるのだった。


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