ゲームの中へ
「じゃあ、遠慮なくゲームをやらせてもらうぞ」
「はいはい。ちゃんと時間には起こすからね?」
「楽しんできてくださいねぇー」
「他の奴らに迷惑をかけるなよ」
スザクの言葉に三人はさまざまな返答が返ってくる。
返事をするまでもないので、スザクは腕輪に手をかざす。すると魔法陣が浮かび上がり、「ダイヴ」と声をかけるとスザクの身体の力を抜け、ガクンと項垂れた。
意識だけがはっきりした状態になり、一回瞬きするとスザクの目の前に映画館のような大きな画面が現れ、注意または連絡事項が表示される。
いつも通りの注意事項を見た後、新しく記載された連絡事項を確認すると、レオスが言っていたバレンタインのイベントのことが大々的に告知されていた。
バレンタインとは、ここら辺では珍しく女の子が好きな男の子にチョコをあげる日のことらしい。東洋のどこかでそんなことをやっているらしいが、スザクが暮らしていた場所ではそんなイベントがなかったので詳しいことは知らない。そもそも、本当にそれが行われているのかもどうかも分からないため、制作会社に踊らされている可能性だってあるのだ。
今回はそのバレンタインに向けてのチョコの販売の告知だった。
『本命チョコ、義理チョコ、友チョコなどのチョコを友達に配る事で友好などを深めましょう』というもの。
イベントが開催される日ではないため、今のスザクには全く関係のなく、簡単に流し読みして終わらせる。
全て読み終わると同時にスザクの前上に再び魔法陣が浮かび上がり、それに吸い込まれる。同時にほぼ強制的に目が閉ざされた。いや、もしかしたら本能的に目が閉じるようになっているのかもしれない。
身体が吸い込まれる感覚が終わり、朱雀(ゲーム名)が目を開けるとそこは食堂だった。
約二日ぶりのログインのため、朱雀は自分が前回ログアウトしていた時のことを忘れてしまっていたのだが、すぐに思い出す。
〈あぁ、アリスに無理矢理起こされたから、ここでログアウトしたんだっけ〉
周りを確認するように見回す。
いつもつるむ二人の姿はすでになく、可能性として考えられるのは『ロクアウトしているか』または『どこか他の場所に移動しているか』の二択のみ。そのため、朱雀は頭の中でフレンド登録している二人の状態を確認してみた。
ヤイバの名前は白くなっており、レオスの名前は灰色で表示されている。
〈なんだ、レオスは落ちてるのか。んで、ヤイバはどこにいるんだ?〉
ヤイバの位置を確認するために今度はマップを展開させる。
まずはゲーム全体を見て、ヤイバの位置を示している赤い点を探す。すると学園の中に赤い点が存在したため、次は学園全体のマップに切り替える。これで学園内を表示されたら、一階から三階全ての全部のマップを確認しないといけなくなるので、〈ちょっと面倒だな〉と考えていると、中庭のところに赤い点が表示された。
〈んじゃ、ヤイバの元に向かうか。っと、その前に……〉
朱雀は一度購買部へ寄ってみる事にした。
特に買いたい物はなかったが、バレンタイン限定の何かが発売されている可能性があるので、ちょっとだけ見ておこうと思ったのだ。
もし、何かを買う場合は二つの取引に分けられる。
一つはゲーム内で手に入るコインでの交換。もう一つは現実世界のお金をこのゲームの世界のお金に換金しての取引だ。
購買で買えるもの大半は換金でのものが多いため、なるべく買い物はしないように気を付けていた。始めた月にはちょっとだけ衣装に金を使いすぎて、アリスたちに借金してしまうほど使ってしまい、怒られたからである。
それが原因で、ゲームをすることに不満を持たれているのだ。次の月からは気をつけているが、それでも依頼料から渡される小遣いではほとんど買える物はない。
たまにヤイバやレオスから貰ったりしているので、何の不都合もないのだが……。
購買に着くと、そこには多少の人だかりが出来ていた。
時間的な問題なのかもしれない。
朱雀はちょっとだけ離れた位置で購買リストを開き、販売されている物を確認した。
〈特には増えてないか〉
金を出してまで買うものはなかった。
やはり、バレンタインとして売られているチョコがメインで増えているだけで、残りは普段から売られているものだけ。
ただ、そのチョコの値段がすごいことになっているのが印象的だった。デコレーションによって値段が変わることは当たり前だが、ケーキみたいな形をしたチョコの値段が大変な事になっていたからだ。
〈誰がこんなケーキチョコ食うんだよ。ありえないだろ〉
朱雀は思いっきり引いてしまうほどだった。
そんな強者が身近にいないことを祈りつつ、購買リストを閉じると再びマップを開いて、再びヤイバの位置を確認。購買に寄り道したため、場所を移動していることを考慮しての確認である。
場所は変わっていなかった。
つまり、誰かと話しているのだろう。
そのことが分かったスザクは、その会話が終わらない今のうちに合流しようと思い、中庭へと急いだ。




