相談
翌朝、スザクは誰かの視線を感じて覚醒した。そして、ゆっくり目を開けると視界に入ったのはアリスとフランの姿。
二人はスザクが起きたことを確認すると、笑顔を浮かべる。
「おはよう。昨日はちゃんと謝ってもらえた?」
「おはようございますぅ。起きたら、近くに居なかったのでちょっと探したじゃないですかぁ」
「寝起き直後で、それぞれ違う話題を同時に持ちかけてくれないでくれ」
スザクは身体を起こす。
それにつられて、スザクを覗き込むようにしていた二人もゆっくり顔を退けた。
「アヤカにはちゃんと謝ってもらったよ。夜中に無理矢理起こされてな。まぁ、色々話できたから、それも結構チャラなんだけどさ。あと、心配してくれてサンキュー」
スザクは身体を伸ばしながら、二人の問いに返事を返す。
しかし、アリスとフランは少しだけ不満そうな表情を浮かべていた。ちょっとだけ羨ましそうな表情でもある。
「ん、どうしたんだよ?」
「んーん、何を話したんだろうって思って……」
アリスがそう答えながら、スザクの隣でまだ寝ているアヤカを見つめる。
「あー……」
スザクは少しだけ考えて、
「それは俺が言うべきことじゃないかも。そもそも、その件についてのアドバイスはちゃんとしたから、アヤカの方からアクションがあると思う。それまで待ってやれ」
そう言う事が出来なかった。勝手に昨日の話をする事を、アヤカは嫌いそうだと思ったからである。
「そっかー。仲が悪いってことはないんだけど……プライバシーのことに考えて、今まで生い立ちに関して話してこなかったから、ちょっとだけ羨ましいって思ったんだよね」
「ですねよねぇ。ワタシだけかもしれませんけど、アヤカさんが少しだけ怖かったりもするんですぅ」
「うんうん、分かる分かる。なんか剣士のせいか、ピリピリしてる時とかあるからさ。本人はそのつもりないんだろうけど……」
「ワタシに関しては体力がない関係上、怒られることが多いですから……そのせいかもしれないですけどぉ……」
「ま、本人には言えないんだけどね」
「その発言自体、手遅れなんだけどさ」
スザクは二人に突っ込みを入れる。
「え?」
「へ?」
二人は間抜けな声を出すと、スザクの言葉の意味を察したらしく、慌ててアヤカの方へ顔を向ける。
アヤカはさっき同じ体勢で寝ているように見える――のだが、目を開けていないだけで本当は起きているのだ。
スザクはなんとなくアヤカに気を使っていたからこそ気付いたのだが、寝ていると安心して話していた二人はやはり気付いていなかったらしい。
アヤカはちょっとだけショックを受けているようで、身体から滲み出るオーラが沈んでいた。
「そうかー。そんなにピリピリしてたのか……」
スザクたちに身体を背けるように横になると、アヤカはボソリとため息と共に呟く。
「あ、そういう悪い方面だけじゃないんだよ!」
「そうですよぉ! 一応、このメンバーの中で一番頼りがいがあるというか、影のリーダーという意味もありますぅ!」
「うん! アヤカがいなかったら、このメンバーじゃグダグダになるよ!」
「そうですよぅ! 勇者なのにスザクさんはリーダーシップとらないですしぃ!」
「もうスザクなんて単なる足手まといレベルなんだからさ!」
「おい、なんで俺が巻き添え食らってんだよ。つか、お前らは俺にも謝れ」
アリスとフランは「あっ!」みたいな感じで、次はスザクの方を見つめる。しかし、即座に見捨てるかのようにアヤカの方に近づくと、
「うん、まぁ……普段からこれだけ怠けてるんだから仕方ないよね」
「ですねぇ。だから謝らないということでいいですかぁ?」
完全に開き直った様子で言い切る。
その様子を見守っていたアヤカの肩が揺れ始めると我慢できなくなったかのように笑い始めた。今までの流れが面白かったようにしばらく笑い続けた後、ゆっくりと身体を起こす。
「悪い悪い。巻き添えを食らわしてすまないな、スザク。でも、二人が私に対する言い分は間違ってないのは確かだから、ちょっと拗ねてみたんだが……まさか、スザクがいらない子扱いされるとは思ってなかったんだ」
「知ってるよ。俺自身びっくりしたからな」
「二人とも悪かったな。そんなに気を使わせてたみたいで」
アヤカが謝ってくると思っていなかったアリスとフランは、不思議そうに首を傾げる。
「え、あ……うん。大丈夫だけど……」
「ど、どうかしたんですかぁ? 昨日までとは何か違う感じがしますけどぉ……」
ちゃんとした違いは分かっていないみたいだが、昨日と今日ではアヤカの何かが違うことを感じ取ったらしい。
そんな変わったアヤカがスザクをジッと見つめてきた。
言葉には出さないけれど、「昨日の件について話そうと思っている」と伝わったため、スザクは首を縦に振って同意する。
「いや、ちょっとな。二人に相談がしたいのさ」
「何の相談? 訓練とかの相談はさすがに受けられないけど……」
と不安そうにアリスが答える。
しかし、アヤカは首を横に振る。
「女の子らしい行動ってやつを教えてもらいたいだけだ。スザクには話したが――」
昨日話したことをアリスとフランに話し始める。
二人ともそのことについて驚いたり、ちょっとだけ涙ぐんだりして、スザクとほとんど同じような質問を尋ねるも、アヤカはそのことについて怒ったりするような事はなく、素直にその質問に答え続けた。
「そっか、やっぱり色々な幼少期を送ってきたんだね。私が三人の中で一番酷くないのかも。アヤカさんとは違って、女の子として普通の生活を送れたわけだし」
「ワタシもなんですかねぇ?」
「フランさんは死ねない身体になってる分、十分不幸だと思うよ?」
「でも、望んだことですしぃ……」
二人はそれぞれの幼少期を思い出し、アヤカと比べるもやっぱり女の子として生活出来ていたことを考えるとやっぱり幸せなのだ、と実感しているようだった。
「んで、どうするんだよ。答えを待ってるアヤカに結論を言ってやれよ」
スザクはちょっとだけ不安そうにしているアヤカを気遣い、二人に尋ねた。
「あ、ごめん。返事するの忘れてた! もちろん手伝うよ!」
「はいですぅ! ワタシたちがアドバイス出来るのかも不安ですけどぉ!」
「それは言わないお約束だよ」
「ですねぇ」
「うむ、ありがとう」
アヤカは嬉しそうにアリスとフランを抱きしめる。
最高の喜びの表現をしているようで、スザクもちょっとだけ安心してしまった。
「さっきのお礼はもちろん、スザクも入っているんだぞ?」
「昨日、聞いたよ。つか、人見知りみたいなものを今までしてただけに過ぎないんだろうぜ。俺が出来たのは二人に尋ねるというアドバイスだけだよ」
「それでも助かったからな」
「何気に良いことしてるんだねー。一昨日もそうだったし……」
とアリス。
「スザクさんのことを見直しましたよ。こういうことだけですけどぉ」
フランは少しだけ歯痒い表現をしてきたので、今度はスザクが首を傾げてしまう。
何を指して言っているのか、分からなかったためである。
「あれ、分からないですかぁ? こういうコミュニケーションだけじゃなくて、戦闘でもいいところを見せてくださいって意味ですぅ」
「あぁ、なるほど。また今度な。強いお前らが悪い」
アリスとアヤカはフランの言葉に納得していたが、スザクはそう言うことしか出来なかった。
三人が強いからこそ、スザクが手を出す必要がないのは本当の事だから。




