その後……
制裁という名の戦闘が終わり、三時間が経過。
周囲はもはや焼け野原と化していた。いや、氷などの残骸もあるため、その表現が正しいのかは分からないほど、辺りは悲惨な状態へと変貌している。
それは結果的な状態であり、三人が戦闘をしている間にスザクは今夜野宿するための準備を一人でしていたため、それなりの食料と枯れ木などは収集出来ていた。
そのため、野宿に移るにはすぐだった。
しかし、昨日とは違い、木などによる視界の阻害が出来なくなったので、外部から見えない結界を張るはめになったのは言うまでもない。
ただ、いくら結界を張ったからと言って、匂いでやってくる魔物も存在いるため安全ではなかった。
「うん、間違いなくやりすぎだな」
スザクが改めて周囲を見回しながら呟くと、三人とも申し訳なさそうに俯く。自覚しているだけマシなのかもしれないが、もう少しだけ遠慮をして欲しかった。
アリスは出来上がったスープを注いだお椀をそれぞれに配りながら、
「ごめん」
素直に謝罪の言葉。
それに続き、フランも。
「ごめんなさいですぅ」
「本当だ。遠慮というものを知るべきだったな。環境破壊は良くないぞ?」
アヤカが本当に疲れ切った表情で呟くと、二人はアヤカに向かって鋭い眼光を向ける。
「まだ懲りてないみたいですねぇ。もっかいやりますかぁ?」
「いいよ? いくらでもその挑戦は受けるから。あ、今度はスザクも参加してね」
「パス。俺はいい」
スザクは速攻で拒否した。
「悪かった。もう止めてくれ。本気で命の保障がなくなりかねないからな」
「そういう原因を作ったアヤカが悪い」
「そうそう、アヤカが悪い」
「アヤカさんが悪いんですぅ!」
スザクの言葉にアリスとフランはすぐに賛同。
アヤカは気まずそうにスープを飲みながら、お椀で顔を隠すようにしている。
「そのことはさっきから謝っているだろう?」
「聞きましたっけぇ?」
「一応、聞いてる気はするけど……なんか懲りてない気がするんだよねー」
アリスが疑っているような感じでアヤカを見つめる。
しかし、アヤカは動じる様子はない。
「やっぱり反省しているなら、それなりの態度が出てくると思うんだけど?」
「全然出てないですよねぇ。むしろ、いつも通りの横暴な態度だと思いますぅ」
「あ、やっぱり? 私もそう思うんだよね」
「内面で反省してると言われても分からないんですぅ」
「今、アヤカの言い訳を即座に潰したな」
とスザク。
アヤカは今、フランが言った通りの言葉を言おうとしたらしく、口を開けていたがすぐにお椀で隠す。
「だって本当のことですからぁ」
「まぁ、そろそろ本当に許してやれよ」
「どうしましょうかぁ……」
答えを求めるようにフランはアリスを見つめる。
アリスはちょっとだけ考え込むように焚き火を見つめた後、
「気が済んでるのは本当だし、冗談抜きで許してあげようかな」
いつも通りの笑顔を見せながら言った。
「分かりましたぁ」
フランも笑顔を見せる。
「良かったな」
「そうだな、変にからかうのは止めることする」
「それが一番だ」
「あ、そうそうスザク」
と思い出したようにアリス。
「どした?」
「今日はとっても良い運動したから、また温泉造ったんだけど――」
「はっきり見える場所に作られてるから、言われなくても分かってる。近寄るつもりも、見るつもりも最初からないから安心しろ」
「見てもいいよ」
「は?」
その言葉の真意が分からず、スザクは間抜けな声を漏らした。聞き間違えであることを必死に祈りながら。
「だから、見られても大丈夫だよって言ってんの!!」
「意味が分からないし、分かりたくもないんだけど?」
「迷惑をかけたら、それぐらいはいいかなって……」
「何を言ってんだ、こいつ」という表情を浮かべるスザク。というか、そんな顔しか出来なかった。
「良いかなってレベルじゃないと思うんだが? 逃げていい?」
「だめですよぅ! ワタシのためにも見てください!」
フランがスザクの腕を掴み、逃がさないようにしながらはっきりと言い切った。
「いやいや、どういう状況だよ、これ」
「あっ、なんなら一緒に温泉入りますかぁ? 混浴しても大丈夫ですよぅ?」
「は!? だから、なんでそうなるんだ!?」
「そっちの方がお互い様って感じになって、もっと仲間としての友好を深められるじゃないですかぁ! アリスさん、駄目ですかぁ?」
アリスもさすがに困ったように頬を掻きながら、アヤカを見つめる。
最終判断はアヤカに向けられてしまったらしい。
しかし、アヤカは全く動じていなかった。それどころか、「しょうがないな」という感じでスザクを見た後、
「それもいいんじゃないか?」
あっさりと同意。
「そういうわけで、スザクさんも巻き添えということですねぇ!」
「そういう問題なんだろうか? でもさ、どうやって入るんだ? さすがに脱ぐ所から見るのは……」
一瞬、三人の冷たい視線がスザクに襲い掛かる。先ほどスザクがした「何言ってんだ、こいつ」的な感じのものだった。
「え、なんかおかしいこと言ったか?」
「おかしいってレベルじゃないでしょ。おかしすぎるから」
「ありえないですよぉ」
「私よりもスザクの方を制裁した方が良かったんじゃないだろうか?」
スザクは意味が分からず、首を傾げた。いったい、この平地と化した状態でどうやって服を脱ぐのか、分からなかったからだ。
そんな悩んでいる表情を見たアリスはため息を吐きながら、
「だから、今張ってる結界をもう一個張るから、そこで服は脱ぐの。タオル一枚だったら、別に見られても何の問題もないでしょ」
分かりやすいように、焚き火を隠すように結界を張る。
「ああ! そういうこと。つか、結界張ってるの忘れてたな。そういう使い方も出来るのか。……あ、俺が脱ぐ場合はどうするんだ?」
「スザクはスザクで結界を張ればいいでしょ。強度を調整して、強めのパンチぐらいで砕ける設定にしとけば、すぐに出れるはずだし」
「なるほどなるほど。なんか一緒に温泉入るだけで、無駄に面倒なことになってないか?」
「そうやってややこしくしてるのは、スザクの頭の悪さのせいだろうな」
アリスが張った結界を、アヤカは鞘に入った状態の剣でちょっと強めに小突きながら言った。結界はアヤカの行動により、あっさりと砕け散り、再び焚き火が四人の前に現れる。
フランも腕を組み、アヤカの発言に素直に頷く。
「ま、ともかく意図はちゃんと伝わったみたいなんでよかったですぅ。あ、ワタシたちの裸を見て発情しないでくださいよぉ?」
「……そんなこと言うから、足元を掬われるんだぞ」
「まさかぁー、さすがにアヤカさんも二度としないですよねぇ?」
フランはスザクの発言に対し、圧力をかけるようにアヤカを見つめた。
「忘れる可能性を考えると絶対とは言い切れ――」
「なんですかぁ?」
「何を言ってるのかな?」
「二度としない。恋心を弄るような真似はしないと誓おう」
アヤカはアリスとフランのツッコミに即座に言い直した。
しかし、スザクには「間違いなくもう一回する」という確信があった。根拠はない。ただ、さっきも本人が言いかけたように忘れかけた頃に間違いなく起こす、と。今は懲りていても、あの状況を楽しんでいるような気がしたためである。