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昨日の説明

「ほぼ全部だな」


 フランの話を聞いて、スザクは髪をかき上げる流れのまま後頭部を撫でながら、そう漏らした。


「あ、そうなんですかぁ?」

「フランは、俺の身体を治療する際にボロボロになった理由は聞いてるんだろ?」

「あ、はい。アヤカさんの制裁の巻き添えを食らったんですよねぇ?」

「そうそう」


 その瞬間、少しだけ離れた位置で炎が立ち上がる。

 噂の本人であるアリスが、とうとう魔法も使い始めたのだろう。

 その音のせいで、近くにいた鳥たちが一斉に飛び立ってしまう。しかし、巻き添えを食らう事はないのは分かっている。きっとアヤカに標的を絞っているから。

 遠目から見ていても木に火が移る様子が全くないため、火事になる心配は何一つせずに済んだ。

 二人はその炎をちょっとだけ見た後、会話に戻る。


「俺はそのまま気絶したまま寝てたから、夜中に目を覚ましたんだ。んで、二人の毛布がずれてたから直した。それで偶然アリスが起きたから、その件に対して謝ってきただけだ」

「あ、毛布の件ありがとうございますぅ!」


 慌てて頭を下げるフラン。

 スザクはそれを手で制し、


「それはいいよ、たいしたことじゃないし。離れたのは二人が起きるのを防ぐため。さすがに気持ちよく寝てるのを邪魔するのも嫌だろうしさ。ま、起きてたから意味なかったみたいだけど」


 と腰に手を添えて苦笑。


「それだけじゃないですよね?」

「ん、まぁ……あとは『勇者をしたくなかったか?』って話を少しな。ほら、俺はゲームがしたいとしか言ってないからさ、『他の生活もしたかったか?』って聞かれたんだよ。それで、『もし勇者じゃなかったら、どんな生活を送ってたと思うとか?』……思った以上になんか色々話してるな」

「それで、なんて答えたんですかぁ?」


 フランの顔は少しだけ安心した表情を浮かべていたが、まだどこか不安を隠しきれていないらしく俯いた。

 同時にどこかで木が音を立てて、滑り落ちる音が二人の耳に入る。

 アヤカがとうとう反撃をしたのか、それとも逃げ道を作るために斬ったのかまでは分からなかった。が、唯一分かることは盛大にバトっているということだけ。


「んー、普通ってのがよく分からないけど……恋愛したり、何かの職業に就いたりするんだろうなって」

「やっぱり、スザクさんも恋愛したいんですかぁ?」

「アリスも同じ事を聞いてたけど、そんなの夢のまた夢の話だろ」

「そんなことないですよぅ! っていうか、アリスさんも……」


 その言葉を聞いて、フランは「やっぱり」という反応で目を伏せた。


「あのなー、人の恋愛より自分たちの心配しろよ」

「え?」

「俺のことはいいから、フランはフランでちゃんとこの戦いを生き残れよ。俺のことを死んでも守るとか考えるな。逆に俺が三人とも守ってやる。それが俺の務めでもあるから」

「――はぁい。でも、ワタシは外傷では死ねない身体になってるので大丈夫だと思い増すよぅ?」

「あ、忘れてた」


 スザクはそのことをすっかり忘れていた。結構、かっこいいことを言っただけにその反動も大きく、締まらない空気が二人の間に流れる。

 しばらくするとフランは「あはは」と笑い始めた。不安が一気に吹き飛んでしまったかのように。


「なんだよ」

「かっこよかったですぅ。だから、そんな落ち込まないでくださいよぉ」

「分かってるよ」

「それで……、最後に一つだけ質問してもいいですかぁ?」

「なんだ?」

「本当にアリスさんとは何もないんですよね?」


 普段とは違い、真面目な雰囲気でフランはスザクに尋ねた。

 嘘を吐いたら絶対に許さないという雰囲気全開で。


「ないっての。そもそも俺の趣味知ってるくせに……」

「本当ですかぁ?」

「嘘吐くかよ。嘘吐いたところで俺にメリットないし。俺の考える普通の暮らしを聞かれたから、思いつきで答えたに過ぎないのにそこまで食いつくなよ」

「ですよぇ。あ、ゲームの中で恋愛は? 学園物なんですよねぇ? 恋愛とかしてないんですかぁ?」

「そっちも追求されるのか」


 スザクは呆れを通り越して疲れ始めていた。

 いや、フランの好意の件は知っているので仕方ないとは思うが、まさかこのタイミングでその話を聞かれると思っていなかったのだ。


「ないない。馬鹿してるだけだよ」

「んー」

「なんだよ」

「そのまま動かないでください」


 フランはスザクの顔を覗きこむように見つめてくる。顔というよりはどちらかというと目だった。アリスの件なら二人の様子を見ていれば分かるが、ゲームの中でのことはスザク一人しかいないため、目を見て判断しているらしい。

 スザクは目を逸らすことはしなかった。少しだけ「目を逸らそうかな?」なんて思ってしまったが、そんなことをしてる場合ではない。

 というより、はっきり言ってこの状況が面倒なので一刻も解決させることが先決なのだから。


「はい、もう十分ですぅ! アヤカさんよりも信用できますぅ!」


 かなり満足したように笑うフラン。

 完全に疑いがなくなったらしい。


「原因はあいつなんだよなー。やっぱり、それなりの制裁を……」


 さっきから気にしないようにしているが木は遠慮なく倒され、ところどころに爆発または雷鳴、時に氷の塊がスザクには見えていた。というか、もはや環境破壊レベルの戦闘が起きている。

 この状況をなんとかしないといけないと考えていると、フランが懐からナイフを取り出し、それを自分の腕に突き刺して腕に沿って切った。

 迷いもなく、真剣な顔で。


「あ、おい、フラン?」

「何ですかぁ?」

「な、何を……」

「ワタシも戦闘に参加してきますぅ! スザクさんはゆっくりしててください!」

「これ以上、被害を広めてどうする!?」

「乙女の純情な気持ちをおもちゃにするって最低ですよねぇ。だから、ワタシも制裁しにいくだけですよぉ」


 「あ、もう無理だ」とスザクが悟るには時間はいらなかった。

 フランの目が本気だったから。

 フランの血から出来た水溜りはスザクが見る限り、一番大きくなるとその中から何十体ものの腐敗した生き物が出てくる。昨日の夜のような犬だけでない。つか、多すぎて把握が追いつかない。

 その中の一体にフランは乗ると、


「それじゃ制裁に行ってきますぅ!」


 スザクに敬礼し、二人が居る場所へと走り去る。


「えー。どうすんだよ、これ」


 その場に残されたスザクはその場から少しだけ離れることにした。もう巻き込まれないことを祈ることしか出来なかったのだ。

 アリスとフランの気が済むまでこの制裁は続くのだろう。


「お前もかーっ!?」


 なんて、どこかでアヤカの絶叫に近い声がスザクの耳に聞こえた気がした。

 空耳かもしれないが、聞こえたところで助けに行くつもりは全くないのだからどうでもいい。

 スザクの中では、この暇な時間をどうやって潰すかが一番の課題になってしまったのだから。


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