フランの嫉妬
翌日。
ゴーレムがいると言われる遺跡の入り口近くへと四人はやって来ていた。
特に魔物たちに襲われることがなかったので、あっさりとここまで来られたに過ぎない。本番はこれからという状態。
そんな中、スザクとアリスはフランとアヤカの様子が少しだけおかしいことに気付き、気になっていた。
前日のエロや反撃などの後遺症などではなく、気持ち的な何かで距離を取られているような感覚。というよりはフランは軽く拗ねており、アヤカはこの状況を楽しみ、ニヤけが止まらないような感じでたまに笑みを溢している。
最初は、「気のせいか」とスザクも思っていたが、半日もそれが続けば嫌でも確信へと変わってしまっていた。
アリスも居心地が悪そうな顔を浮かべているけれど、目的地に近いこの場所でケンカをして支障が出ることを考慮してか、二人に尋ねる事を遠慮してしまい確認しようともしない。
だからこそ、その損な役回りをスザクが演じることになってしまった。どっちみち問題が起きるのならば、戦闘中ではなくこのタイミングの方がマシと思ったからである。
「あのさ、このタイミングで言うのも――」
「スザク!」
アリスはスザクの意図を察してスザクに注意しにかかったが、即座に言い返した。
「仕方ないだろ、このままじゃチームワークなんてグチャグチャのままなんだし……。んで、何を拗ねてるんだ、フラン」
「なんで私に聞かないんだ?」
アヤカがちょっと意外そうに口を挟んできた。
拗ねているフランよりも、この状況を楽しんでいるアヤカに尋ねた方があっさり話してくれるということは、スザクも分かっている。が、それでは駄目なのだ。楽しんでる奴に聞いたところで、状況は悪化する事はあっても根本的な解決にはならない。
だからこそ、あえて拗ねているフランに尋ねたのである。
「アヤカに聞いてもまともに答えてくれないだろ? 少なくとも今の状態じゃ場をかき乱すことはしても」
「よく分かってるじゃないか」
「一緒に旅してりゃ、嫌でも分かるさ。んで、フラン、いったい何を拗ねてるんだ?」
「拗ねてないですよぅ。なんとなく面白くないだけですぅ!」
スザクから視線を外すようにしてフランは答えた。
「面白くない? 何のことに対してだよ?」
「二人は分かってますよね?」
「え、私も?」
まさか、その原因に入っているとは思ってもいなかったような反応で驚き、自分を指差すアリス。
「二人以外にないですぅ!」
「二人以外にないって……、何かしたっけ? 分からないんだけど?」
「はい! アヤカさんから深夜イチャついてたって聞きました! あ、聞いたじゃなくて……ワタシも……」
後半は声が小さくなり、何を言っているのか分からなかった。
が、自分の名前を出されたアヤカが慌てて、
「あ、おい!」
割り込みを入れながら「しまった」と額を押さえる。まるで口止めすることを忘れていたような仕草だった。
「ふーん」
アリスがゆらりとアヤカに顔を向けると、さっきまでの雰囲気の悪さからの戸惑いが一転し、怒気へと一気に変わる。あと少し墓穴を掘れば、殺気に変わりそうなほどの怒り方。
アヤカも珍しく引きつった顔を浮かべている。間違いなく昨日のアリスの反撃のことが蘇っているようだった。
「ねぇ、スザク、お願いがあるんだけど――」
「みなまで言うな。言いたいことは分かってるから、ちょっと早めの戦闘をしてきても問題ない。少なくとも俺の分も頼みたいから、依頼は明日に回すことにしよう」
「依頼者は早めの解決が――」
アヤカが焦ったように口を出してくるが、
「依頼よりも大事な事があるだろう? それが今だ」
スザクが速攻でその口を黙らせる。
置いてきぼりにされているフランは、意味が分からないような表情を浮かべているが、それでもまだ疑っているような感じでスザクとアリスを見ていた。
「じゃあ、後はお願いね! アヤカ、覚悟してよね?」
「おいおい、本気か?」
「うん、本気だよー。アヤカの楽しみに付き合うわけにいかないから、私で遊んだらどうなるかをちゃんと教えてあげないとね♪」
アリスはそのままアヤカに向かって拳を振るうが、たやすくかわされる。近くにあった木にその拳がぶつかると、折れるのではなく木を貫通。
避けられることが分かっていたアリスは、拳の威力を魔法で調節し一点集中にしたらしい。脅すには十分効果があった。
アヤカもアリスの本気に怯えているようで、
「ちょ、おい! それはヤバいだろっ! 少しは落ち着け!」
震えながら、必死に言っていた。
「む・り・♪」
アリスは即座にそれを拒否すると再びアヤカへと飛びかかった。そのままアヤカが立ってる場所に向かって、拳を振り下ろすも今度も避けられる。
今度は地面に少しだけクレーターが形成された。
「待て! 謝るから! 私が悪かった!」
「謝るぐらいなら変なことを吹き込まないで欲しいんだけどっ!」
再び向かってきたアリスにアヤカは仕方がないような形で剣を抜き、側面でアリスの一撃を受け止める。
本来ならば剣を破壊するだけの力にはアリスにもあるが、アヤカは気を剣に流す事で強度を高める技法がある。そのため剣の側面で受け止める荒業が使えるのだ。
もちろん、アリスもその威力を調整していることは説明するまでもないだろう。依頼も終わっていないのに仲間の武器を――剣士として無くてはならないものを破壊するほど馬鹿でもない。
そのまま二人は、アリスが一方的に攻撃する形でスザクとフランの元から離れ、元来た道を戻るような勢いで去って行った。
「行っちゃいましたねぇ」
「行っちゃったなー」
場に残されたスザクとフランはアリスとアヤカが消えて行った先を見つめながら、そう呟くことしか出来なかった。
そして、フランがようやく本題を口にし始める。
「何やら誤解していたみたいなので、説明してもらえますかぁ?」
「おう、任せしとけ。その前にアヤカからはなんて説明してもらったんだ?」
「説明じゃなくて起こされて、直接見ましたよぉ」
「マジか。どのシーンを?」
「えーとですねぇ……」
フランはそのことについて思い出すように空を見上げた。
まるで、その時のことをあまり思い出したくないような、そんな雰囲気を出しながら……。