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野宿(5)

 スザクとアリスはその後、温泉に足を浸けるようにして一緒に座っていた。

 もちろん、アリスの提案である。

 さっきの件でいくらチャラにされていたとしても、これ以上怒りに触れるわけにはいかないため、スザクは素直に従ったのだ。

 しかし、二人の口数は減っていた。何を喋ったらいいのか、分からないから。

 どんなことから話を切り出せばいいのか、スザクには見当もつかなかったのだ。


「ねー、なんか喋ってよ」


 その沈黙に我慢出来なかったアリスがスザクを急かす。


「アリスこそ、何か話題持って来いよ」


 とは言い返すことがスザクの精一杯だった。

 言葉通り、アリスはしばらく考え込んだ後、前から思っていたらしい疑問がぶつけられる。


「あのさ……やっぱり勇者って職業嫌? なんか、すごく嫌々やってるイメージあるんだけどさ」

「そんな風に見えるのか?」

「まぁね。あれだけ『ゲームがしたい』なんて言ってるから、本当は普通の人みたいな生活を送りたいんじゃないかって思ったんだよね」

「そっか。別にそういう訳じゃないんだけどさ。今さら普通の人みたいな生活って言われても想像付かないけど」

「そうなの?」

「そりゃそうだろ。そもそも、普通が分からん」


 アリスは足を交互に動かしお湯をチャプチャプと蹴りながら、「そっか」と答えた。

 なんとなく寂しそうな雰囲気が出ているのは、スザクの気のせいではないと思う。


「じゃあさ、スザクの思う普通ってなんだと思う? あ、あくまで想像でいいからさ」

「想像の普通ねー。やっぱり、この年齢だと誰かと付き合ったり、結婚したりとか考えるのか? それと友達と馬鹿騒ぎしてさ、魔物の討伐とか考えずにのん気に何かの職業に就くぐらいだと思うけど……」

「恋愛かー。やっぱりしたいって思う?」


 アリスはスザクを真剣な目で見つめてきた。

 スザクもそれに気が付き、一度目を合わせると外せなくなってしまう。

 それぐらい真剣な目だった。


「今すぐってわけじゃないけど。それに願望で終わるかもしれないから、今のところは真面目に考えられる状態じゃないよな」


 スザクは身体を倒して、後ろに寝転がる。

 木々の隙間から見える星が綺麗だった。ずっと眺めていたいと思うほどに。


「どういう意味?」

「――勝てるかどうかも分からないだろ、魔王に」


 あっさりとスザクは答えた。

 それがスザクの本音だった。

 先祖である勇者が倒した魔王とは違う魔王。どういう形で魔王が現れるのかも分からず、未だに見た事もない敵。いくら両親たちに厳しく育てられたとしても、戦ってみるまでは勝負なんてものは分からないのだ。もしかしたら無傷で勝てる可能性もあるかもしれないし、ボロ負けする可能性だってある。勝てたとしても相打ちなんていう可能性もないわけではない。こんな状況の中で、願望を述べたところで叶えられるほどの力がどこまであるのか、スザク自身にも分からない。

 だからこそ、現時点での願望は『叶える』ためではなく、『希望』にしておかないといけかった。


「勝てるよ、絶対に」


 アリスも同じように寝転がりながら、確信とも近い言い方をした。そして、


「そのために私たちもいるんだからさ。スザクのために命だってかけるよ」


 と言った。

 空に顔を向けているため、スザクはアリスの顔を見る事は出来なかったが、なんとなく笑っている気がした。


「アホか。お前らに命をかけてもらうほど、落ちぶれちゃいないっての。そもそも、俺は勇者として鍛えられたんだぞ? 逆にお前らの命を守ってやるよ。そりゃ、まぁ……現在いまの俺の状態を見たら、『駄目かも』って思うかもしれないけどさ。俺は俺なりに色々考えてるから、期待して待ってろ。ちゃんとやるべきことはやってやるか……ら……?」


 その時、スザクはアリスの様子がおかしいことに気付いた。

 反応が一切ないのだ。

 結構良い事を言っているはずなのに無反応なのはおかしい。むしろ、普段のアリスなら馬鹿にする発言ぐらい返ってきそうなものなのに。

 そのため、アリスの顔を覗き込んでみる。


「寝てるのかよ」


 アリスは規則正しい寝息を立てて寝ていた。

 さっきの言葉をどこまで聞いていたのか、スザクには分からなかったが、恥ずかしい事を言っていたので、これはこれで救われたのかもしれない。そう思うことで寝てしまったことは許すことにした。それに寝顔も安心しきった可愛い寝顔だったのだから、分としてはこちらの方が良いのかもしれない。

 その後、スザクはアリスの足を温泉から抜き出し、改めて持ってきたタオルで拭き、さらに靴などを履かせ、元の場所に運んだのだった。


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