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野宿(4)

 スザクはふと目を覚ました。

 いったい何をしてたっけ? と考えてみるも思い出せない。頭の中にモヤがあり、上手く思い出せそうになかった。


「はぁ……、何時だよ」


 腕輪に付いている機能で時間を確認してみる。

 夜中の二時。

 時間的に考えると中途半端な時間帯。

 スザクは三人の居場所を確認するために周囲を見回すと、三人ともすぐ近くで寝ていた。アリスとフランはスザクを挟むようにして寝転がり、アヤカはスザクのほぼ真上にある太めの木の枝の上で器用に寝ている。


 三人とものん気そうに寝ているかに見えるが実は違う。アリスは探知結界を周囲に張っており、指定した結界の中に誰かが出入りするだけで敵かどうかを認識する魔法を使っている。それに、アヤカが鷹の目という暗殺の能力を使い、無意識の内に周囲の安全を確認しているのだ。


「俺と比べたら、本当に優秀なもんだな」


 起こさない程度の小声でそう呟く。

 今の状態ならばゲームを出来るが、三人が温泉に入っている状態ではスザクがゲームを出来ない理由があった。本当ならばゲームをしていた方が時間潰しになっていたに違いないが、意識を異空間に運ぶ時のデメリットが生じるからだ。それは規約にも、インする際にも表示されること。


 『周囲が安全であることを確認してプレイしてください。※無防備な状態でプレイをし、殺意ある攻撃を受ければ死にます。そのため、ちょっとした痛みでも覚醒しやすくしております。ご了承ください』


 そのため、こうやって依頼を受けている最中でも安易にゲームを出来ないのである。もちろん、誰か一人でもスザクの近くに居れば問題ない。だからこそ、ゲームをしたいと三人が揃っている時に必死に告げているのだ。


「あ、思い出した。そういや、アリスの電撃を食らったんだ。そうだそうだ。んでフランが復活して、治療してくれたって感じだろうな。たぶん」


 スザクはそのことを思い出し、どこかに不調がないか確認すべく立ち上がり、身体を軽く動かす。ついでにアリスとフランの身体から落ちている毛布をかけ直してあげる。

 フランは起きる気配はないらしく熟睡していたようだが、アリスは近づくだけで反応した。

 スザクもなるべく気をつけていたようだが、本能で気配を察知したらしい。

 アリスはゆっくり頭を上げると寝惚けた声で、


「もう出発の時間?」


 と上半身を起こす。


「起こしたか、すまん。まだ、そんな時間じゃないから寝てても大丈夫だぞ」

「んー、分かった……」


 完全に覚醒したわけではないようで、スザクと軽く言葉をかわすとアリスは頭を下ろし、体勢を整えて再び寝始める。かと思えば、いきなり身体を跳ね起こした。


「スザ――」


 アリスが大声で何かを言い始める前に、スザクがアリスの口を手で塞ぐ。そして、フランとアヤカを指差し、口の前に指を立てて静かにする事を知らせる。


「んっ」


 それだけでスザクが伝えたい事を分かったらしく、今度はアリスが温泉の方を指差し、スザクの手を掴んで引き離すと無言で歩き始めた。

 スザクもそれに素直に付いていく。

 温泉の近くに辿り着くと、アリスはさっきより声のトーンを落とし、


「さっきはごめん。なんか流れで攻撃しちゃって……助けに来てくれたんだよね? それなのに……」


 と言いながら頭を下げた。


「いいさ、気にするな。ただ、本気で攻撃されたのはびっくりしたけどさ」

「本気じゃない……と思うよ? 周りを見てみたら分かるでしょ?」

「え?」


 スザクはアリスの言われた通り、周囲を見回す。いや、攻撃を食らった時に立っていた場所に違和感があった。

 何も変化していない。

 そのことに対しての違和感。

 我を忘れるに近い状態で攻撃しておいて、周囲の木に被害が起きていないことに対しての違和感があった。


「目標だけを攻撃する設定にしてたのか?」

「みたい。私も怒ってたから無意識でどこまで本気だしたのか、分からなかったけど……」

「おいおい、あれで本気じゃないとか勘弁してくれ」

「どういうこと?」


「底が知れないって状態ほど怖いものはないだろ。つか、無意識に制御ってすごくね?」

「そうかな?」

「魔法だけじゃなくて、あのアヤカをどうやってか知らないが悶絶させた時点で十分すごいんだけどな」

「あれはね……うん、忘れて……」


 アリスは思い出したくないように顔を赤らめる。

 スザクも困ったように頭を掻くことしか出来なかった。


「そういえば二人っきりで話すのって久しぶりじゃない?」


 ふと、アリスが気付いたように漏らした。なぜか少しだけテンションが上がっているのか、ちょっとだけだが声のトーンも上がる。


「そうだっけ? 初めてじゃなかったか?」


 スザクにはあまり覚えがなかった。いや、色々ありすぎて覚えていないというぐらいに毎日を必死に生きてきたため、些細なことは忘れてしまっていたのだ。

 そんなスザクの反応にアリスは頬を拗ねてしまったように頬を膨らませる。今まで見た事のないような女の子らしい反応の拗ね方だった。

 そんなことを言ってしまえば、さらに機嫌が悪くなるだけなので絶対に口にしないように気をつけよう、と心に誓ったが。


「初めてじゃないよ! と言っても、本当に小さい頃だったから忘れたのかもね。いや、気付いてなかったわけじゃないけどさ」

「なんかごめん」

「別にいいよ。こうやって、ゆっくり話せるのが嬉しいだけだから」

「でも、あいつらも起きる可能性あるよな」

「気にしない気にしない。起きたら起きたでその時に考えれば良いし」

「無駄に前向きだな」

「いいでしょ、そういう時があっても」


 なんて言い、「フフッ」とアリスは笑う。

 スザクはこんな反応をするアリスを初めて見た気がして、違和感を覚えた。

 今までのアリスと比べると女の子らしさが強調されている。思い込みかもしれないが、仕草一つ一つが可愛く見えてしまっていた。


「どうしたの?」


 そんなスザクの考えが分かったらしいアリスが尋ねてきた。


「いや、なんか女の子らしいなって」


 思いつくままにスザクは口に出してしまう。というよりも思考がそれ以外のことを考えてくれなかったのだ。


「はぁ!? 馬鹿にしてるの?」


 アリスの反応はいつものアリスの反応だった。

 眉間に血管が浮き出そうなほど怒っている事から、スザクはアリス本人である確信を得る事が出来たが、その代わりに怒りスイッチを押してしまった。


「しょうがないだろ! なんか可愛く思えたんだから! なんていうか落ち着いているっていうか、あの二人といる時とは雰囲気が違うなって!」

「あー、そういうこと。馬鹿騒ぎに近い状態って言うか、スザクがしっかりしないから私がまとめ役をしてるだけの話でしょ!」

「悪かったって! 許してくれ!」


 スザクはそう言って身構えた。先ほどのようなお仕置きに備えて。

 しかし、アリスは気持ちを落ち着けるように一回だけ深呼吸を行うと、


「さっきのこともあるから、それでチャラにしてあげる」


 と少しだけ寂しそうな笑みをスザクへと向けた。


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