終章 傀儡の森
ざわり。
どこからか風が吹いた。
ざわざわと、草木の葉音が鳴っている。
天蓋は閉じられており、風が吹くはずもない。土埃も、舞いはしない。
〈壺菫〉の透き通った天蓋と、土を除けられ磨かれた〈月光庭園〉の天蓋と、二つの天蓋を通して、月の光が庭に降り注いでいるだけだ。
月光は打ち捨てられたままの傀儡たちを照らしていた。
折れ、割れ、瞼に墨を塗られ、時には髪を抜かれた傀儡たちの亡骸。
そして、葉ずれの音は傀儡たちの中から聞こえていた。
体の割れ目から、緑のものが見えた。
傀儡の中に埋め込まれた種。月光庭園で育てられるはずだった植物たちが、事故からふた月経った今、勝手に育っていた。草が、ざわざわと音を立てて揺れている。
草々は小さな花を付けていた。白、赤、桃、青、紫、黄。
色とりどりの花が、生気に満ちたみずみずしい花弁と葉を揺らしていた。
やがて植物たちは傀儡の中から、瓦礫の間から一気に伸び上がり、茶と灰色の床を緑に埋め尽くして、壁を伝い、月に向かって手を伸ばした。
庭園は、一面の緑と青いきれで埋め尽くされた。
植物の成長はやがて静まり。
月の光に照らされて。
──そっと、小さな森は、呼吸し始めた。
これまで読んでいただきありがとうございました。
作者は作品で語るべき、かと思いますが……少し余談を。
この話は、自分に貼られている「レッテル」を誰が(自分で)決めていくのか、「そのものがそのものであること」はどういうことなのか、ということを主題に書いたものです。
これを、図書館に収められる本は分類されますが、司書が番号を付ける作業(出版社も自社の書籍にしているようなのですが)と重ねて書きました。ちなみに作中の「分類番号」は、『日本十進分類法新訂9版』を参考にしています。が、私自身職業として司書ではありませんので、間違いがあるかもしれません。
この試みが上手くいったかというと……特に分類の見せ方など、無理があったなぁと執筆時も、今も思うのですが、それでも一度書いてみたいと思っていました。
それでは、またご縁がありましたら。別の話でお会いできましたら嬉しいです。




