05
カズの抱っこは効果抜群、朝までぐっすり寝れた私は遅刻もせず、でも一応カズの付き添い付きで大学へ。
もう単位を取り終わり、卒論も終わり、ついでに就活も終わっているカズは大学での用事と言ったらゼミに顔を出すか、もしくはまあ・・・女の人とチョメチョメをするだけで。バイトとかしろよ。要は暇人なのでした。
というわけで遠慮無く護衛代わりに付き添ってくれる辺り、中学時代を思い出しますはい。あ、私高校は女子高全寮制に入ったのです。流石に外でふらふらしているとカズと仲の悪い人達が危ないので、はい。その辺りはカズのご両親とうちのご両親がねー、結託してまして学費も結構高額のとこでしたけど、問題なかったですよ。大学は国立ですので、まあひとり暮らしをするのをあわせてもまあ然程・・・?
お友達にはちょっとストーカーに困らされている事を説明したら、とても心配されました、なのでしばらく幼馴染と行動します~、と言ったら幼馴染って誰?と聞かれました。
実のところ、構内で私とカズの繋がりを知っている人はとっても少ないです。カズは有名過ぎるので、ははー・・・。んでも連日、これだけ一緒に行動していたら流石に噂も立つもので。綺麗なお姉さんに睨まれる日々が続きます、とても心が痛みます。
「貴女、一哉の何?あんなにべったり張り付いて・・・恥ずかしくないの?」
「私は幼馴染で、ええと、張り付いて・・・るのには少しワケがありまして」
「貴女しつこいのよ、一哉も迷惑してるでしょうし離れて頂戴」
「・・・ぅうう、迷惑をかけているのは承知してますがなにぶん私も退っ引きならない事情が有りまして」
「何が退っ引きならない事情、よ!目障りなの!」
絶賛お呼び出しオンタイムです、ライブ中継はしていません、うわーん!カズのスケコマシ!お姉さんに誤解されてるじゃないですかしかもこんな複数のきれいどころに!
構内にハーレム築くなんて学生生活ナメてんのかバカやろう!
ほっぺが熱いよ、いたひ。でも大丈夫、カズのうめぼしも中々痛いから慣れてる。
歯も食いしばったし口の中も切れてない、万事OKのーぷろぶれむ。んなわけネー。
「――・・・ず、しず?ここか?」
「・・・わひゃぁ」
「・・・・・・・ああ?何だそのマヌケ面」
「・・・カズもどしたの顔怖いよ」
カズが来てしまった、やばいな。思わず気の抜けた声が漏れてしまった。ストーカーは怖いけど、やっかみ位は自分で何とかなる、だってカズ女関係ドロドロだもん、慣れるよそりゃあさあ。
まあ確かに片っぽの頬を腫らしているのは大分マヌケ面かもしれないな、虫歯みたいだし、だがしつれいな!
私の頬を見たカズの目がすぅうう、と細まっていく。それで右腕が上がって、右手の人差指がくい、っとね。なんだかこの幼馴染私を犬猫と同列視しとるんじゃあるまいか。
「・・・・・こっち来い、しず」
「ええと・・・」
どうしようか、カズの顔が異常に怖い。多分滅茶苦茶怒ってる、うっかり近づいて強烈なうめぼし食らわられるとか無いだろうか、え、怖い絶対ヤダ。内心で一進一退の攻防を繰り広げる私、でも周りの綺麗なお姉さんたちがカズの登場に反応した、ようやっと。ああでも刺激しないであれ爆発秒読みだよお姉さんヤメテー。
「一哉、この娘何なの?何かぼそぼそ言ってるし気持ち悪いし、何でこんなのと」
「気持ち悪くてスミマセン・・・」
「貴女巫山戯てるの??!」
「ぅえ!ち、ふざけてませんよ!」
ぼそぼそ、ううん滑舌悪いんだろうか私。自分だとよくわからないな、気持ち悪い・・・ってちょっとショックです。綺麗なお姉さまに言われるとより一層。
「しず」
「はぃ」
「来い、ここだ。待たせるな」
「・・・うえーい」
カズの右人差指が今度は脚元を強調なさいました、はい、うめぼしのカウントダウンイベント開始です私いたいのきらい。だから大人しくカズの傍まで移動した、手が伸びてきてうめぼしを警戒したが、違った、ほっぺの状態見るだけだったっぽいです。
「腫れてんな」
「虫歯みたい?」
「アホか手形付いてんだよ、・・・血出てんじゃねえか、手外せ」
「でもじんじんするんだよ、気になる」
「後で氷当ててやる」
体温の高い節張った指が多分赤くなっているんだろう、じんじんぼわぼわと不思議な感覚のする頬をするりと撫でて、どうも爪がかすったか何かで血が出てるらしい。カズの目が少し悲しそうに、きゅい、と目尻が下がった。だから私も大人しく手を外して、まあ幾分素直に頬をくいっと見え易いようにする。
「口開けろ」
「え、なに――ほがぁッ!」
「口ん中は・・・問題ねえな」
んで大人しく口開けたら指突っ込まれたこんちくしょうッ。腫れている方の頬をの内側をつるりとなぞって指が出て行った、血が付いているのを確認して、それをぺろりと舐める、あ、きちゃないぞカズ。
「・・・ちゃんと歯食いしばったよ」
「そうか」
よくやった、とあんま嬉しくない賛辞を頂きましたどうもー。わし、と軽く頭を撫でられて、少し落ち着く、カズ来てくれてありがと、慣れてるけど実は少し悲しかったよ、と口には出さないでお礼を言った。
「おら、行くぞ」
「ん」
「・・・ちょっと、一哉」
「その娘本当に何なのよ!」
手を引かれていざ退散、です。いやあよかったカズが暴れ出さなくって、別にカズは女の人に手上げる程最低じゃないけど、注・喧嘩売られない限り。でも私が叩かれたりすると、もの凄い怒る、男相手だったら病院送りだし、まあ女の人だからね。今のところ静かに怒ってる、これ以上いらいらしないように、手を出さなくて済むようにさっさと退散するのだ、うらー。
でもそうもいかないもので、カズの拙い努力は結構ばっちり無駄にされました。私が出会ってから見てきた数年の間にカズも分別を覚えまして、ちゃんと人前で暴力的になったり、むやみに人を壊したりしなくなったのに。
女の人が呼び止めて、私の手をぐいぐい引っ張って移動していたカズがピタリと止まる、あ、ちょっと顔腕にぶつけた鼻いたひ・・・。
鼻を摩りさすりカズを見上げた、とっても後悔した。顔恐いよカズ。私はぞくり、と久しぶりに、怒っている人の発する冷気で寒気を感じた。
「煩え、黙れ」
『ッ』
ひょえ、と背筋に棒を入れられた気分になっていたら、摩っていた鼻に再び衝撃がっ、カズ恨むぞ鼻血出たらどうすんだよ。今度は腕じゃなくて、胸でした、胸板ご立派ねカズくん、まるで鉄板にぶつけたみたいに痛いよ私の鼻がぁああ!
多分カズはお姉さま達に振り向いて、このもの凄く低い声と睨みつける眼光で威圧しているんだろう。何それもの凄く怖い。
「こいつに手出しやがって、頭の弱い阿婆擦れ共が。目障りだ、消えろ」
「・・・ちょお、カズ。あの、さっき言ったとおりカズは幼馴染で最近は退っ引きならない事情で張り付いてるだけな―――」
「しず、黙れ」
「のですが、・・・黙りますごめんなさい」
お姉さま達はきっと真っ青だ、可哀想だ、別に深い考えがあって私を叩いたわけでもないだろうに。ただ、カズを取り戻したくて愛ゆえに、執着故に。カズは女の人を狂わせる何かを持ってる、フェロモンとか、そういう、関わってしまえば溺れさせてしまうようなそんな、致し方ないものを。免疫が無ければ耐えられない、私はそんなものを感じ取る年齢になる以前から慣らされているから大丈夫だ、けど。
「あーあ、お姉さまに嫌われた」
「お前あんなのが好きか」
「カズ、あのね。あんなのって・・・」
「しず、痛むか?」
「・・・まあ、そこそこ」
けどあの女の人達は違うんだろう。カズは自分で豪語してもそれが当然に思えてしまう程、優れたオスだ。優れた容姿、優れた頭脳、優れた身体能力、そして優れた統治能力。全てが他の男の人から卓越、いやむしろ奇抜している。だから女の人はまるで甘いモノが無ければ生きていけない蟻のように、カズに集るのである。そしてカズはそれを知っていてつまみ食いをする、それで不安定になる。
「なら帰るぞ、早く冷やさねえと」
「話逸らされた・・・」
「あ?」
「何でもありましぇん」
女の人達もカズも、どっちも果てしなく愚かで哀れだ。
ちょっとかっこ良く言ってみたりしたが、要は私からしてみれば不自然で、ふしだらである。別に私は幼馴染に爛れているのが居るせいで恋に恋するような潔癖なかつ純粋な乙女ではないが、もう少し選ぶ必要はあると思います。はい。
カズは優しい、そして過保護だ。私に。そして他人には一応親切である、これには敵対しない者、無害な者、ある程度親しい者と注釈がつくけど。
とりあえず今の私の目下最大の願いは、ストーカー早くお縄に付け、である。そうすればカズの護衛は外れ、きっとあの女の人達またカズといちゃいちゃ出来るだろう、平穏に。
早くくたばれストーカー。