遥かなる静寂の果て
複雑に入り組んだ路地は己の存在さえもあやふやにした。一体、自分はどうして此処にいるのだろうか。
生温い風が頬を撫でるたび、ゾッとして鳥肌をたてる。
「何をやってんだろうなボクは」
今日は木曜日。学校もある。なのに、ボクは此処にいる。学校は自宅に電話して、家にいる母親は戸惑いながら
「息子はいつも通りに家を出ました」
と言うのだろう。
“いつも通り”に見えたのは、“いつも通りに見える”様にボクが演技したから。
ビルの間から見える灰色の空は、どことなくボクの心境を写しているような気がして、なぜか安心出来た。もし、今日が晴天だったならボクは普段通り学校へ行っていただろう。
学校をズル休みして、やりたい事があるわけでもなかった。だから、こうして家にも帰れずふらふらと街をさ迷っているのだ。
今まで無遅刻無欠席だったボクが、何も告げずにいなくなって、親も学校も心配しているだろうか。そう考えると、胸の高鳴りが強まった。
ポツポツ…と雨が降ってきた。大通りには傘をさした人が増え、足元には水溜まりが出来てきた。ボクは傘を持っていなかったので、濡れないようにアーケードに入った。
もうすぐ正午だ。そろそろお腹が減ってきた。お金はあるので、コンビニにでも行こうか。
ボクには夢がない。将来、何になりたいかを問われても、ボクは答えをもっていない。果たしてボクはこれから何をするのか。
「どうするかな…」
呟いて、うつ向くと、一輪のくたびれた花が咲いていた。
「踏まれても踏まれても、必死で生きている」
だから皆も頑張ろう。そんな事をこの間学校に講演にきた女の人が言っていた。ボクは顔の表面で笑いながら花を踏みつけた。もう、二度と美しく咲くことのないように、踵で念入りに踏んだ。花は最早、魂もなくなって、花の外観もなくし、ただそこに存在していた。
彼はその塊を見て、そっと家の方へ歩き出した。負けても、負け犬になるのは嫌だったからだ。
ボクは、誰かに踏みつけられる様な存在にはなりたくないから。