遭遇
~~~Side 透~~~
最初は放っておこうと思った。
(人間なんて、助けても力を利用されるだけだ。)
しかし、少女の耳が異常に長いことに気づいた。
(もしかしたら、人間じゃない?)
そのような考えに至った瞬間、近くにあった木の棒を木刀に見立てて狼に打ち込んでやった。
ぐしゃりと肉の潰れる音がリアルに聞こえ、しばらくボーっとしてしまった。
俺を現実に呼び戻したのは、先ほどの少女の鈴のような声だった。
~~~透 Side out~~~
~~~サヤ=シニアス Side~~~
私は妹の病気を唯一治せる薬を買いに隣の村まで走っていました。
けど、村の間には魔物の出る森があって、それを迂回すると、2~3日もかかってしまいます。
(でも、これ以上カナに苦しんでほしくない)
その思いが、私を森へ走らせました。
しばらく走ると、だんだん周りが暗くなってきて、何かの唸り声が聞こえてきました。
(何だろう?)
気を取られた瞬間、近くの茂みから何かが飛び掛ってきました。
それは、狼でした。
瞬時に私に使える唯一の魔法である身体強化を使って、全速力で逃げたのですが、私の魔力では狼と付かず離れずの距離を保つことしかできませんでした。
(もう、ダメだ。カナ、ごめんね…)
そう思って目を瞑ったのですが、なかなか痛みがきません。
不思議に思って目を開けると、赤黒く染まった木の棒を持った男の人と、ぴくりとも動かない狼がいました。
私は、男の人にお礼を言うために声をかけました。