第五話
パシャパシャ
ふはー…
スッキリしたでござる!
体も綺麗になったし、んむ!ヒャッハー!汚物は消毒だぜぇえー!とか大声で叫び出したい気分だ。実際は無表情だし、唇もピクリとも動かないが。
もう一度、水辺に映る自分の姿を覗き込む。
再び、絶句する。
恐怖する。
そのあまりの美しさに。
脊髄がゾワリと痺れるような感覚。
それは人外の美しさ。
なんと恐ろしい造形美か。
完璧すぎるが故に恐ろしい程に美しく、今すぐ逃げ出してしまいたいのに視線を逸らせない、恐ろしいと感じているのにずっと見ていたい、見詰められていたいと矛盾した様々な思いが私の胸中を支配する。
ゾクゾクする背筋を時間をかけゆっくりと伸ばし、水面にへばり付き離れない視線を目を閉じる事で何とかやり過ごし、漸く顔を上げる事が出来た。
無意識の内に止めていた息をそっと吐く。
ハイ、どこからどうみても美しいお姉様でございます。
がみざま゛ありがどう、い゛いい生ぎででよかったでふ…!
何でこんな事になってるのかわからないけど諸手を上げて歓迎します。
ヤウ゛ァイものすんごくウレスィ。
手も足も体も頭も体中あちこち悪魔化してるけどここまで来るともう神聖な感じすらする禍々しい美しさです。ん?それってどうなの?
でもこの外見で一番印象に残っるのはやっぱ…はい、恐怖だよね。だって中身ただのオタクだもん!人間だもの!悪魔怖い。自分だけど。泣きそうだ。表情筋全く動いてる感じしないけど。
今夜夢に出たらどうしよう…。
ひぇっ…ばばばか!たまきのばか!やや止めよう!自分を追い詰めるな!そうだ!お前の味方はお前しかいないんだぞ!
おちつけ!おち、おちつけ!ヒッヒッフー、ヒッヒッフー
ままぁでも怖いけどやっぱり夢に出てきて欲しいような…やっぱだめ!怖い!あぁっ!でも!でももっと見つめ合っていt
-少女混乱中-
よし、犬モドキの粘液も綺麗に落ちたと思うしそろそろ行かないとね、日が暮れる前に安全地帯を見つけなきゃ。特にここは水辺だし色んな生き物が喉を潤す為に訪れる筈。
厄介なのに見付かる前に急いで出よう。
ん?さっきの騒動はどうしたって?
たまきはあたらしいわざをおぼえたい!
ぽじてぃぶ
けいかい
きょうふ←
ぽかん!たまきは【きょうふ】をわすれた!
たまきは【なるししずむ】をおぼえた!
後は…わかるな?
―少女移動中―
…よしよし、中にも誰もいないね、うむ。ここなら雨も凌げるし地上と離れてるし何かに襲われる事もないでそ。
はい、洞穴見付けました。ビクビクしながら最深部まで行って確認しましたが何もありませんでした。誰も使ってないようなので心置きなく羽を伸ばせます。
ふぅ…日も沈んだし今日はもうここでじっとしてよう…何が起こるかわからないし。幸お腹も空いていない。…もしかしてこの体になったから?何日かは食べなくても大丈夫そうだ。気温の変化にも強いのか全くなんともない。吐く息は白く染まるのに。
ぼんやりと二つある青い月を眺めながら今日あった事を思い出す…。(もう異世界でいいです)
気が付いたら荒野にいた事。
犬モドキに追われた事。
犬モドキが爆発した事。…うん、爆発した事。
大事な事なので二回言いました、とかじゃない、ただ何となく改めて(あぁ、すごい爆発だったなぁ)と感慨深く思っただけだ。
あれはこの体のスペックが高かったのか?それともあの犬モドキが弱すぎたのか…
そして…水面に映った自分の姿を思い出す。
初めは見惚れて気付かなかったが、ふと…違和感を覚えたのだ。
あの違和感の正体はなんだ?
思い出せ…あの時私は何を思った、何処に違和感を感じたんだ?
目を閉じて集中する。
キングクリムゾン!
っは!
外が…明るい…だと!?眩しいな…もう朝ですか。
だが私は時間に左右されない女。
とりあえず奥行って二度寝しよ。