第三十七話
コクコクコク。
暇を持て余していた私はアイの白い喉元に何と無く視線がとまり、静かに上下するソコをただぼんやりと見つめていた。
ある程度満足したようで、ホウッと息を吐いた後キュッキュッと水筒の蓋を閉めている彼女の顎に指を添える。
そのままクイ、と上を向かせ口元を濡らしている水分をそっと拭う。
目を細めてふにゃりと笑うアイ、彼女の頬を撫でたりムニムニつまんだりして存分に癒された後、体中あちこちに付着した砂をポフポフ軽く叩いて落とす。
あの森を出てから日が沈んだ回数は14、その間魔物に遭遇する事はあっても私達のような知的生命体に出会う事は、一度もなかった。
ザク、ザク、と砂の山を二人、無言で歩いて行く。
12日間、もう砂しか見ていない。
森を出て、休憩を挟みながら歩き続ける事2日。
森を抜け荒野を抜け、たどり着いた先は見渡す限り砂の山。
戻ろうかとも思ったがアイは親から砂漠の知識なんて受け継いでいなかったらしく、初めて知る未知の存在にきゃぁきゃぁはしゃいで興奮していた。
私と砂の大地をチラチラ交互に見つめ、何か言いたげに口を開け閉めする。
…どこまで続いているのか知らないけど、私が全力で走ればここに戻って来る事もそう難しくないハズだ。
まぁ全力なんて出すつもりはないが。そんな事をすれば私の大切な友人が空気抵抗やらなんやらで潰れてしまいかねない。息苦しくならない程度のスピードでアイを抱き抱えて走る、それならきっと大丈夫だろう。
この体のスペックが気になって、どのくらいの高さまで飛べるのだろうと一度だけ、試しにジャンプしてみた事があった。
どこまで上昇し続けるのだろう、こんな高さから落ちて私は助かるのだろうか、漸く落下し始める頃にはもう不安と絶望でパニックを起こしていた。
結果、受け身もとれずに背中から地面に激突し、体中に走る衝撃を感じた私はただ呆然としていた。
…衝撃は確かに感じた。
感じたのだが………ぶっちゃけると大した痛みは無く骨も折れてなかったしかすり傷くらいしかついてなかった。
それもすぐに治って悪魔ボディマジでパネェなと心底呆れた。
命が助かりホッとした部分も確かにあったが呆れの方が大きかった。
私を中心に巨大なクレーターが出来ているのに気付いたからだ。
まぁそんな経緯でこの体のハイスペックっぷりを改めて体感した私は、これならきっと彼女を守りきれるだろうと、少女の可愛いのおねだりをアッサリ受け入れたのだった。