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小心者な悪魔  作者: はるさめ
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第三十六話

…大丈夫かしらこの子。

あまりにもアッサリと頷いちゃったので逆に心配になってくる。純情だし嘘とか見抜けなそうだし詐欺とか簡単に騙されそうな気がするし、加えてこの可愛らしさ!イカン、私がしっかりせねば拉致やら何やらの犯罪の被害に…!やらせはせん!やらせはせんぞぉ!


トリップから帰ってくるとアイは青く透き通って、なんかネバッとした液体を私の腕に大量に垂らして爆睡してました。

アイに掛かれば涎まで可愛らしく見えてくるんだから困ったものだ。

え?汚くないかって?

むしろご褒美です。

私は末期だろうか。


一番の問題が解決した私はそれからはもうビックリするくらい精力的に働いた。魔物はもう一匹も見なくなったし、アイの特訓だって順調だ。


初めの頃はうまく行かなくて申し訳なさそうにしょんぼりしてたけど、コツを掴んでからはそりゃぁもう目覚ましい進歩を遂げました。

どうやら、力がありすぎるせいでコントロールが超激ムズになってしまっていたらしい。一度感覚を掴んでからは彼女はアッと言う間に私を追い抜き、今では大気中から水分を集めて水を作ったり氷を作ったり造作もなくやってのける。


ふと気になり、他の人魚達はどのくらいできるのか、と聞いてみた。


私の方が強い、私の方が役に立つ、他の人魚なんて必要ない、とかなんか見当違いの熱意が返ってきました。

ありゃ、なんか不安にさせちゃったかな?

ただ純粋に気になっただけだからと、拗ねたり不安そうにしたりと忙しなく表情を変える少女に伝えてやる。

もう可愛すぎて最近じゃ気が付いたらアイを腕の中に捕らえている事が多いの。

ええ、勿論無意識にです。

何かの病気だろうか。



しかし、アイがこんなに凄い能力持ちだったとはね、色無しは皆潜在能力が大きすぎて上手くいかないのかアイが特別なのか、どっちなんだろう?


最近は魔物狩りに出掛けていないので、空いた時間で沢山アイと話しをした。

あまりに世間知らずだと何か不信がられるかもしれないので、まず、私は自分が悪魔だと言う事実しかわからない、覚えていない、と言う設定した。

俗に言う記憶喪失ってやつだ。こっちの世界でもあるかわからんけど。

アイは、私がこの泉を出ていくと言った時よりも驚いた顔をしていた。

おお、あるんだ、記憶喪失、良かった。

未知の情報であれば首を傾げたり素直にそれは何?と聞くのがアイだ。

それ以外でのリアクションなら知識として知っていた可能性大だ、嘘を付くのは申し訳ないが…ごめんね、アイ。


アイはしきりに頷いている。

何か凄い納得してます。私そんなに常識知らずだったのか、良かった、記憶が無いって言っておいて。

だがしかし、アイは何故か私をキラキラした目で見つめ凄いだのカッコイイだの、やたら興奮した様子で私を褒め契ってくる。


な ぜ だ 。


記憶喪失に憧れるお年頃なのか?私が怪訝そうにしているのを悟ったのか(だって顔には出ないからね)、慌てて説明しだす。

曰く、魔族や魔物は交配してこの世に産まれるパターンと、発生してこの世に存在を確立するパターンとがあるらしい。


パターンその1、親から産まれる方は体を親に作って貰い、胎内で栄養やらなんやら与えられ親の知識もある程度継承する、んで時期が来たら親の胎内から排出され産まれ落ち世界に存在を確立する。


パターンその2、誰の力を借りるわけでもなく突如発生し、自分自身の力だけで体を作ったりなんやらかんやらして世界に存在を確立させる。発生理由も原理も何もわかっていないらしい。そして発生した者達はパターン1よりも恐ろしく強いらしい。でも数が超少ない、超希少、お伽話レベル。



…へー、でもどうしてそんな事を今話すのかしら。いやぁね、私はただの記憶喪失よ、だからそんなキラキラした目で見ないで下さいお願いしますぅー!!


私の事を完全にパターン2の生き物だと思い込んじゃってるアイ。


ど う し て こ う な っ た 。


発生したのだから常識を知らないのは当たり前だ、教えてくれるものが誰もいなかったのだから。とアイは思っているようだ。

って言うかアイって私が魔族だって気付いて?いや、もしかしてこの世界の人魚って魔に属する者なのか?

あっ、私悪魔だって最初に言ったやん!危ねー!

もしアイの種族が魔に属する者じゃなかったら、人魚の格好してんのに悪魔?え?なに言ってるの?…偽装か!騙したなコノヤロー!何が目的だっ!となるわけか…。

危ねー、今のはマジ危なかった…。

恐る恐るアイの様子を伺う。


アイは私のしっぽで自分の頬をペシペシ叩いてみたり何やら毛繕いっぽい事をしたりといつも通りマイペースに遊んでいた。

ほっ、どうやら私の動揺には気付いていないようだ。

少しだけ頭が冷えた私はこれからの事について考える。

人魚は悪魔の中でも比較的大人しい性質を持ち、またその姿は魔に属するものとは思えないほどの儚い美しさ、そして極めつけは人魚の涙(精力剤、ちょっとした若返り、調剤する者により多種多様な効果をもたらすらしい)、しかもあんまり強くないので捕まえやすい。

人魚は今では他の種族に見付からないようひっそりと隠れ住み肩を寄せ合い生きているらしい。

はい、パターン2もそうだが人魚も希少な存在らしいのです。

そんなところにこの姿のままノコノコ出向いて行けばどうなるか、結果は目に見えている。

私に毛繕いっぽい事をしてくれているアイをチラリと見遣り、アイに手を出したらぶち殺すとまだ見ぬ悪魔共に殺気を放ちたくなる。どないしよ、アイが人型になれれば良いんだけど…。

なんとかならないかしら…。








ダメ元で相談してみたところ、え?足?生やせるよ?

とアッサリ解決。

え…マジで?

でもその分本来の姿から外れるわけだし普通の人魚達はかなり弱くなっちゃうらしい。

水を使える種族はそんなに多くないみたいだし、しかも人魚の色は大体水色。髪とか目とかね、後血の色も青。まず水色だと『あれお前人魚じゃね?まさかね、ハハハ』とちょっと怪しまれ、水を使うと『お前ちょっとこっち来い』となり、血の色まで発覚すると『人魚、ゲットだぜ!』となるらしい。


元々そんなに強くないのに更に弱くなり、水を使うのも自粛しなければいけないので悪魔同士のちょっとしたイザコザにでも巻き込まれたら大変苦労します。そうなるくらいなら私は隠れて悠々自適に暮らします、と人魚達は思ったわけですな。


まぁ巻き込まれたらアイは私が守るけど。彼女私をパターン2だと信じてくれちゃってるのでそれを裏切るわけにはイカンのです。他の悪魔達どんな外見してるんだろうか、どうしよう、正直ちょっと怖いです…。でも、でもアイは私以外に頼るものが無いのだ、私がしっかりせねば!


気合いも入ったところで、特訓開始、試しにちょっと足を生やしてみてもらいました。人型なっても水の中で息できるらしいのでこのまま寝床で挑戦してもらいました。


…うん。

………すごく、いい。

いいんだけど、危険だから(理性的な意味で)できれば隠すなり何なりして欲しい。

とりあえず寝床に敷いてある水草を所々鱗の残るアイの素肌に巻き付ける。よし、腰の辺りはしっかり隠れたな、うむ。


そんで私も人型に戻ってみる。

しかし悪魔ボディ丸出しな感じじゃなくてアイみたいに普通な感じに、後は水の中でも息出来るようにしてっと、えーっと、こんなもんかな?

目を開けて現実に戻って来るとアイが興味津々な感じで見つめていた。

うん、変体してくのってちょっと見てると楽しいもんね、わかるよその気持ち。


アイは早速飛び付いてきてあちこちぺたぺた触って確かめたり見比べたりしてはしゃいでいる。私はと言えば煩悩と戦うのにイッパイイッパイでそれどころではない。

人魚形態と違って下半身とかその辺が気になりすぎて困る。裸なんだ、ってのを改めて意識しちゃうと言うか…ん?なに…?視線を感じる。

アイに意識を戻す。

アイは私の股間を凝視していた。








あばばばばばばばばば!

アイの隠して自分のそのままってなんでよ!アホか!変態か!見られたかったのか!

慌てて、いや焦りすぎるとみっともないのであくまでさりげなさを装い水草を胸と腰に巻き付ける。

アイは私の水草をむしり取った。

え?


…あれ、今私確かに巻いたような…いやまだ巻いてなかったのか、そうか、ならばもう一度。胸と腰に水草を巻き付ける。

アイは私の水草をむしり取った。

え?

アイは自分の水草もむしり取った。

え?


やせいのあいがとびだしてきた!

あいののしかかるこうげき!

こうかはばつぐんだ!

じるのりせいに9999のだめーじ!

じるはめのまえがまっくらになった…。








んん、ここは…。

………ハッ!

ガバリと勢いよく上半身を起こす。

アイは私の隣で寝ていた。

アイの裸体が目に入る。


え?事後なの?


脳が一瞬幸せな妄想を見せたがアイに限ってそれはない、多分アイは私と自分の体の違いをもっと見比べたかったのだろう。それを私が隠すような事をしたから耐え切れなくなってきっとあんな事をしたのだ。アイの方はいいとして、問題は私だ。

記憶にございませんでは許されんのだ。

罪悪感に浸っている私の腕に何かが触れる感触。発生源を見ると幸せそうにアイが頬擦りしていた。

彼女の笑みを見て一気に脱力した。


よかった、アイがいつも通り笑ってるって事は私何もしなかったんだ、きっと気絶かなんかして今まで寝てたんだろうな、良かった良かった。

アイが新たなアクションを起こす前に人魚形態になっておく。人型の時にあちこち触られると理性がグラグラするのでこっちの方が何かと都合が良いのだ。

ああ、下半身が魚だとなんか安心する…。アイに人型の時所々鱗が見えていたのでもっと練習するように言っておく。疑惑は少ない方がいい。

アイは水色じゃないから見付かりにくいかもしれないけどやっぱり心配なものは心配なのだ。


アイには練習をさせその間私は適当にご飯を捕って来る。

ご飯を食べたら二人でこれからの事を話し合いまた少し練習をして就寝。


そんな日々を繰り返し、アイは鱗無しで人型になる事が出来るようになった。興奮したりするとうっすら浮かんできたりするので注意が必要だが。まぁ上出来だろう。


森も平和になったしアイの訓練も終了した、もういつでもここを出て行ける。


疲れたり懐かしくなったりした時は時々戻って来ようね、と不安と期待が半々な私はアイと自分自身を落ち着かせる為にちゃんと帰れる場所があることを言外にアピールしておく。



明日、ここを発つ。

今日はゆっくり休んで英気を養おう。

アイは既に半分夢の中っぽい、私も見習って今日はあれこれ考えるのはよそう。

私がしっかりしなくてはいけないのだ、早く眠らなくては…。

寝ぼけて擦り寄って来る少女を柔らかく抱き返し体制を整え、少しだけ明日に向けて思いを馳せた。そうこうしている内にようやく、私の意識はゆっくりとフェードアウトしていった。

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