第三十三話
うは~昨日のアイはホント可愛かったなぁ~。もうアイ一人でご飯七坏くらいいけちゃうよ!
今はアイと別れて魔物狩りの真っ最中、さっさと数をこなす為に首だけを狙い切り落としていく単純作業だ。
退屈な作業の最中私の頭に浮かぶのはアイの事ばっかりだ。昨日のアイが可愛かった事、一昨日のアイが可愛かった事、そして今日のアイもバッチリ可愛かった事、あの起きぬけの眠そうな目でふみゅふみゅ言いながらくっついて来るのは犯罪だね!ああアイ可愛い!アイにフォーリンラブ!アイはジャスティス!アイは…アイは…はぁはぁ!
気が付くと魔物は一匹もいなくなっていた。残骸も消えていたので結構な時間ここでハァハァ言ってたらしい。
またトリップしていたのか…アイの可愛いさは異常だな、この私をここまで悩ませるなんて…。
アイ、恐ろしい子…。
その後アイに対する脳内会議では満場一致でアイに有罪判決が下った。
罪状は可愛すぎる事や被害者をキュン死させようと企んだ事、上目使いで見上げる事によって被害者の理性を崩壊させようとした罪である。全く、アイの罪状は上げ出すとキリがないな、流石は私のアイだ。
バカ丸出しな事を考えつつサクサク仕事をこなしていく。
この辺りももう狩り修めだな、後何回か繰り返せばこの森も生き返るだろう。
異常繁殖の原因になったっぽい何かは特に発見できなかった。って事はやっぱり元の森が平和だっただけでこれくらいが普通なのかな?まぁ良いや、今日はもう日も暮れて来たし帰ろう、きっと愛しい友人が首を長くして私の帰りを待っているはずだ。
ビュンビュン飛ばして泉付近の森に近づくと、アイは既にこちらの空を見上げて私の到着を待っていた。
あり?この間は気づかなかったのに。
何でだ?
いや、よく見ると私の姿を目で捕らえているわけではないっぽい。ただの感か?成る程、愛の力か、理解した。
アイ、また罪状が一つ増えたな、私の心を鷲掴みにした罪だ。
心の中で理不尽な罪を幾つもアイに被せながら、ゆっくりアイに迫って行く。
アイの目が私を捕らえる。
ふわあぁ、相変わらず可愛い笑顔でございます、体中がふにやふにゃになりますでございます。
たぶん私今すごいにやにやしてるな、表情筋動かないから目だけだけど。どうか変態丸出しな目付きじゃありませんように!アイにドン引きされませんように!祈るようにソロソロと近いてゆく。
おろ?アイが両手で握ってるのってあれ私がプレゼント、いや勝手に着けたネックレスじゃね?
て事はやっと気づいたのね、朝出ていく時は気付いてなかったし、いつ気が付いたのかな?
ネックレスを大切そうに胸の前で握りしめたままアイは私が降りて来るのを待ちきれない様子で見ている。
か、かわええっ!胸の高鳴りを抑え切れん!なんたる破壊力っ!!
彼女の側に静かに降りるとしっぽを絡ませてキューキュー鳴き声を上げながらこちらに寄り掛かって来る。
どっから出してんのか知らないけど時々アイはこんな風に鳴く。きゅーん、きゅんきゅん、きゅいー、ってな感じにレパートリーがいくつかあるけど今のところ全部甘える時にしか聞かない。
特に意味のない音なのか、それとも鳴き声によってやっぱり意味は異なるのか、そもそもちゃんと言葉を話せて意志の疎通はしっかりとれているはずなのに何故犬や獣等のように鳴き声なんかの機能まであるのか。うーん…まぁ異世界の事だし、考えてもわかんないか。
首にぶら下がったまま自力で泳ごうとしないアイを腕に納め、泉の底に向かって潜って行く。大きなネックレスをぶら下げたまま暫く泳ぎ、岩場に腰を下ろした後、白くて可愛い甘えん坊なネックレスに聞いてみる。
プレゼント、気に入って貰えた?
いつ頃気が付いたの?
少女の可愛い声に癒されながら聞いた内容をわかりやすく纏めて行く。
私が狩りに出掛けて寂しかった事
怪我をしないか心配していた事
無事を祈っていた事
何も力になれなくて落ち込んでいた事
寂しくなって朝まで私がいた寝床に一人横になっていた事
私がいた時は私にばかり意識が向けられて気が付かなかったが、横になった時胸元から黒い鱗がふわりと横に落ちたのでビックリした事
鱗に紐がついていたので探ってみると自分の首にかかっていたので更にビックリした事
最後に、とても嬉しかった事などを長々と教えてくれた。
どれだけ嬉しかったかを不器用な言葉で(私も人の事言えない)熱意を込めて語ってくれるアイたんにもうメロメロでござる。
ちなみに私が帰還する時アイがこっちを見てたのはネックレスのお陰だそうだ。
キュッとネックレスを握り一生懸命私の事を考えるとなんとなく私の居場所がわかるらしい。
私の一部があるからなんか惹かれ合うみたいな感じでわかるのかな?
私がどの方角から来るかってのがわかってたからこっちのお空見てたのね。
うん、流石異世界、よくわからん原理だ。