第三十一話
血飛沫が上がる。
始めの頃は気持ち悪くて一生懸命体を洗っていたが、時間が経てば消える事を知った今では頓着しなくなった。
あの最初のグロ犬の時とかも放っておけば自然と消えたのだ、半泣きで(精神的に)必死に水辺を探した私の努力はなんだったのか。
…やっぱり知ってても水辺探したかも。消えるまでの待ち時間何かしてないと気持ち悪くてしょうがない。だって奴ら腐ってたし、そんなのの体液やら肉片やらいつまでも浴びてたくないし。おえー。
ドサリ、と魔物の首が落ちる。
よし、この辺りはコイツで最後かな。
ある程度血の臭いが充満しだすと、奴らはそれが同じ魔物の血であっても食い気に誘われてやって来る。逆に臭いが濃すぎると警戒して近付かなくなってしまう。
…うん、ここはもうダメだな、寄って来ない。
私は新たな獲物目指して移動を開始した。
体が疲れる事はないが、いい加減ウンザリしてくる。
狩っても狩ってもどこからか現れる魔物達。
そもそも何故ここまで異常繁殖したのか、それとも私の元いた森が平和だっただけで普通はこんなものなのか。
考え事をしながらも魔物達を確実に捌いていく。
気が付くと太陽が沈みかけていた。
よし、今日はここまでにしよう。
アイに何かお土産でも持って帰ろうかな。
何がいいかな…。頭を働かせつつキョロキョロと辺りを見渡してみる。消滅待ちの魔物達の残骸があるだけで、特に珍しいものは見当たらない。
むー、やっぱりこの辺には何もなさそうだ。
何がいいかなー…アイの性格に合った物…。
アイは甘えん坊さんだから、私が近くにいなくてもあんまり寂しくならないようなものがいいかな。
…でもそんなのあるの?
うーん…。
ん、いっそ私の一部でもあげちゃうとか?
大した物じゃないけど、心の支えになったりとかくらいはできるでしょ。
うん、そうと決まればどこにしよう、何あげようかなぁ。
うーん、鱗剥いでブレスレットでも作るか?
でも何か手作業する時に邪魔になるかも。んじゃぁネックレスだ!
あんまりジャラジャラつけると寝るときとかやっぱ邪魔になりそうだし、シンプルに行こう。
えーと、んー、よし。
紐の部分は私の髪の毛を使用した。
鱗を剥ぐ時はちょっと痛かったがすぐ新しいのが生えてきたのでビックリした。再生能力パネェっす。
後は鱗に穴を開けてっと…開け…あけ…ぬおぉおおおおおおお!
ぐっ!ぬぅっ!
そぉぉおい!
あ、開かねぇ…どうなってやがる!
我が鱗ながら硬すぎてイラッと来る。
んじゃぁあれだ、こうしよう。
痛いけどもう一回剥ぐ。
まず、剥ぐ鱗を決める。
そしたらその鱗の穴を開けるスペース部分だけ、弱体化させる。んでチクッと剥ぎ取る。
よし、この作戦で行こう!
集中集中…。
あいてっ!
…おお、生えてる生える。よし、元通り!
後はここに穴を開けて…ん!
でけた!なんてゆうかショボイけどできた!
日本人特有の色、髪も瞳も鱗も全部真っ黒。ショッボイけどシックな感じがしてちょっとカッコイイかも。
ってゆうか色濃いな。
なんてゆうか、闇そのものを塗り固めたような、そんな感じの色だ。
見ようによっては呪いの一品にも見える…。
やばい自信なくなってきた。
ああ、でももう結構時間たってる…。
仕方ない、とりあえず渡すだけ渡してみよう。
優しい彼女はきっと何を渡しても喜んでくれる。
早く会いたくて急いで飛んで帰る。
アイは水上に上半身を出してあっちをみたりこっちを見たりうろうろと私を探して不安そうにしていた。
私はアイの姿が見えているのにアイはまだ気づいてないみたい。
なんでた?
もしかして人魚って目悪い?
それとも私が良いだけなのか?
ある程度まで来たところでようやくアイが私に気付く。
途端、ぱあっと顔が明るくなり嬉しそうに寄って来る。
着水したばかりの私に飛び掛かり、辺りに大きな水音を響かせ二人一緒に沈んでゆく。
アイは私のしっぽにじゃれついたり、捕まって泳いだり、しっぽを絡ませて遊んだりと熱心にスキンシップをはかっている。
ちゃんと私がここにいることを確かめるように、定期的にギュッと抱きつい来るアイを見ているとMPが限界まで回復しそうな気分になる。マナエリクサーなんて目じゃないぜ。MPないけど。
ああ、癒されるわぁ…。