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第八話 飾りにならないように

 ラインは、病院の廊下で、荒々しく歩いていた。


 誰1人と居ない廊下で、足跡だけが響く。


 眉を寄せ、唇をギュッと噛んだ。


 白く塗装された壁に向かって、拳をおもいっきり叩き付ける。


 ラインは、過去の自分と重ね合わせていた。


 何も変わっていない現状の自分に苛立っていたのだ。


 レングリ・ラインは侯爵系の長女として命を授かった。


 幼少期にもなると、レングリ家の家柄から剣術・魔術を鍛えさせられていた。


 だが、ラインには代々受け継がれている無詠唱魔術が使えず、親に落胆されていた。


 しかし、剣術は、ピカイチであり、失望まではされていなかった。


 ラインもその事は把握していた。


 落胆されていると思うと修行自体嫌いになった。そして、自己嫌悪に陥った。


 ある時、気晴らしにと母親と一緒に散歩をしていた。


 すると、ハッ!ハッ!と一声一声気合を入れながら、剣を振っている少女を見かけた。


 ラインは、母親が「トイレに行く」と公園に設置されている公衆トイレに向かったので、そこら辺にあるベンチに座った。


 少女は、修行で流れた汗を服で拭いまた剣を振るう。


 何回も何回も。


 微風が吹いてるとはいえ、晴天であり劣悪な環境であった。


 木々に張り付いている虫の鳴き声が暑さを掻き立てる。


 よく、そこまで修行出来るな〜と小さく呟いた。


 ラインは、一目見た時その少女を嫌った。


 理由は分かっていた。自分を見ているようだったからだ。


 次第に少女を見る事自体が嫌になり、目線を逸らした。


 「ねぇそこ良い?」


 ラインは、視点を上げるとそこには少女が居た。あの少女であった。気付けば、休憩タイムに入っていたらしい。


 ラインは断りたかったが、感じ悪くなってしまうと思い承諾した。


 「はぁー疲れたな〜」


 少女は青く澄んでいる空を見上げ呟いた。


 「ね、何でそこまで修行しているの?楽しいの?」


 ラインは不機嫌そうに問いた。


 「ぜーんぜん!!楽しくないよ。逆に嫌い。」


 少女は言い切った。


 思いがけない返答にラインは戸惑った。楽しい!!とか遣り甲斐がある!など前向きな返答が返ってくると思っていた。


 だが、違った。


 風がラインと少女を一過する。ラインの瞳には、少女が輝いて見えた。自分の存在を肯定されたように感じた。


 あまりにも少女はライン自身と似ていた。


 「私の家系は貧乏でね。だから、高給取りの魔剣騎士団に入れって言われてさ」


 この子も....魔剣士を目指しているのか。自分と同じだ、とラインは胸が高鳴るのを感じた。


 ますます、友達になりたいと思った。


 興味を持った。


 話したいと思った。


 「名前は?」


 ラインは、尋ねた。


 「リアン!私の名はリアンだよ!」


 どこか誇らしげに言った。


 「そう、リアンね。良い名前だね。私はラインだよ」


 ラインは、初めて心の底から微笑んだ。


 真っ暗だった人生に光が差したようだった。


 「ラインごめんね。待たせちゃって」


 母親がラインを呼び掛けた。スタスタと歩いてくる。


 来るな。来ないで!私の楽しみを奪わないで!!

 ラインはそう思った。


 「お友達?」


 ラインに聞いた。


 ラインは口を尖らせ沈黙している。


 「はい!!さっき出会ってそのまま友達になりました!」


 リアンが代わりに嬉しそうに応えた。


 「そうなの?ありがとね。お友達になってくれて!」


 そう言うと、腰を落としラインに目線を合わせる。


 ラインは、依然として不機嫌のままである。


 ピッと母親がラインの額にデコピンをする。


 「いたぁあい!」


 ラインは額を抑えた。


 「ごめんね。もう行くわね」


 母親は申し訳なさそうな顔をした。


「いえいえ!楽しかったです」


 リアンは微笑んだ。


 母親は、安堵するとラインを抱え込み公園から離れた。



 その晩、ベットのすぐそばにある窓から星を見た。


 星々がキラキラと光ってみせていた。


 「....リアン。会いたいよ」


 ラインは呟く。


 散歩などそう毎日出来るものでは無い。一日の大半を家内で過ごす。家に方針である。遊ばせず、修行をさせる為に。


 見慣れた台所。


 寝室。


 庭。


 それらを見ると、吐き気がしてくる。自分の存在を再認識してしまう。


 出来れば、こんな所いち早く抜け出したいと強く願う日々。


 ラインの日課はこうであった。


 朝から昼まで修行し、休憩する。そして、夕方から夜まで修行。


 ラインは考えた。なら、休憩時間にこっそり抜け出せば良い。幸い、メイドはこの部屋にはそう来ない。


 ラインは、明日の昼を待ち望みながら、フカフカなベッドへと身を投じた。



 ラインは、家を抜け出した。


 抜け出す途中、番犬に見つかったが、物分かりが良い。


 ラインがや・さ・し・く撫でたら黙った。


 初めて1人で外に出た。走りながら舞い踊った。


 嬉しかった。


 周りに変な目で見られたが気にしない。


 ラインは、リアンの居る場所を確信していた。


 あの公園へと一直線に走る。


 ラインの瞳に映る周りの景色はどこか新鮮であった。


 散歩をする際には、いつも通る道なのに。


 公園に差し掛かろうとしていた頃


 ハッ!!


 ハッ!!


 と発声がラインの耳を掠める。


 ラインの胸の奥がくすぐったいようにざわついた。


 「リアン!!」


 ラインは叫んだ。


 え?と言いたげな顔で、リアンはスッと声をした方に顔を向けた。


 ラインが手を振っていた。


 「あ!ラインじゃん!」


 リアンは手を振った。


 ラインは、リアンに突進するように抱きつく。


 「会いたかった」


 ふぇえええ、リアンは戸惑う。


 「もう!!落ち着いて」


 リアンは困ったように微笑んだ。


 「あのね!あのね!リアン!遊ぼ!」


 辿々しい口調で喋る。


 「えー、でも....」


 リアンには修行があった。でも、ラインの眩しい顔を見ているとどうにも断れなかった。


 「良いよ!」


 その後、色んな遊びをした。


 川で初めての釣り。


 追いかけっこ。


 砂遊び。


 ラインはいっぱい笑った。

 初めて同じぐらいの歳の子と遊んだ時、こんなにも楽しいのかと、そう思えた。


 時には、


 「好きな男の子居るの?」


 ってリアンが言い出すのだから困らされる。


 当然ながら、そう言う経験には乏しいラインである。


 「居ないよ」


 と応えると


 「じゃぁ、いずれ出来れば良いね!」


 って頭を撫でた。


 そんなひと時さえラインには、楽しく感じれた。


 でも、ラインは遊んで行くにつれ、寂しくも感じた。


 太陽が徐々に西へと進んで行くのが分かったからだ。帰らなければならない。きっと帰らなければ、2度とリアンとは遊べなくなるだろう。


 「ね。ごめんリアン。もう帰らなくちゃ」


 顔を俯けた。


 「そっか。寂しいなぁ」


 「ねぇ、明日も来て良い?」


 リアンの服をキュッと掴む。


 「当たり前じゃん」


 手にグットを作り言った。


 次の日もその次の日も遊んだ。


 ずっとこう言う日が続けば良いのにと心の底でラインは、願った。


 だが、続かなかった。


 リアンが目の前で死んだ。

 死因は魔物による殺害。


 裏路地を通っていると偶然、魔物に会ってしまったのだ。


 ラインは、何も出来なかった。


 恐怖で見ているだけだった。


 得意な剣技で、大事な人、1人守る事が出来ない事に嘆いた。


 ラインは、自分の方が剣技はでき、リアンよりもずっと強い事は知っていた。だが、剣術が出来るのを黙っていたので、リアンが必死に守ってくれた。


 騒ぎを聞き付けた魔剣士が駆け寄ってきて、魔物を討伐したが、その頃にはリアンは瞳孔が微動だにもしてなかった。


 ラインは、自分の無力さを呪った。涙など出なかった。瞳の奥にあるのは、煮えたぎった憎悪だけであった。


 ラインの件は、ラインの親に魔剣士から知らされていた。酷く叱責された。

 だが、どこか俯瞰して聞いていた。


 次の日からは、外の警備が厳しくなった。


 でも、ラインにとってはどうでも良かった。

 外が怖くなっていたからだろう。いや違った。今のままではいけないと分かっていたからだ。



 ラインは蹲って病室の廊下で寝ていた。


 起こされなかったって事は、警備員などはまだ周回に来ていないらしい。


 短時間寝ていたのかとラインは察した。


 体が重い事に気付いた。こんな所で寝ていたらそうなるわ、と納得する。


 「強くならなきゃ。私の力が飾りにならないように....」


 ヒューと息をする。


 「目の前にいる人を救えるように」


 おぼつかない足取りで歩んだ。


 ラインの足音が遠ざかるにつれ、廊下には静かな空気だけが残っていった。

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