第五話 割にあってない野外訓練
あれから、3ヶ月が経った。
3ヶ月の間で、1日のルーティンが完成した。
授業→放課後のフィオナとの特訓(回復魔法)→ラインとの特訓→レイロットとペットとの生活であった。
毎日、欠かさずこなしている。
このハードなスケジュールなせいで、心身ともに疲労である。
本もあれから読めていない。
誰でも良いから褒めて欲しいものだ。
頑張ってるね! 相澤悠君! ってね。
まぁ叶わないよね。
俺はアレンとして褒めて欲しいのではなく、相澤悠として褒めて欲しいのだ。
ったく、他にも転生者いねぇかな?
そしたら、事情を分かってもらえて、相澤悠って名前で呼んでくれるだろ。
いや、要らないか。
他に転生者が居たら、俺に特別感が無くなるじゃないか!!
やはり、一人だから特別であるので、俺以外の転生者は要らないよな〜?
俺の今のステータス? みたいなのを近況報告すると、回復魔法は人並み……とはいかないが、自己に使用する治癒は、傷が深くない限り治せるようになった。
相変わらず、フィオナは俺の成長に凄く喜んでくれた。
フィオナは多分、根が良い奴なのだろう。
教える時も丁寧で、優しく教えてくれる。
それに比べて、ラインは教え方は丁寧なのだが、煽りまくってくる。
だが、気にしない。
だって、教えて貰ってる側だからね。
いっつも血だらけで、ラインの元へ教えてもらいに行ってるのは申し訳ない。
しかし悩み種が一つある。
ラインがモテすぎ問題である。
いや、ラインがモテるのはどうでも良いのだ。
俺には関係ない事である。
しかし、俺にまでその影響が降り注いでくるのなら話は別だ。
ラインはどうやら貴族の娘らしく、レングリ家の出だ。
爵位は侯爵の座である。
ちなみに、貴族にしか姓を持っていない。
だから、俺はアレンだけ。
レングリ家は魔剣士のエリートを輩出する。
なので、魔剣士を目指す人は、誰もが認知している家系。
それに付随し、ラインは憧れの存在となっている。
強いしセンスあるし。
それに美人さんだしね。
当の本人は、ラブレターや直接の告白など、色々受けているらしいが、全て振っている。
中には貴族の家の者も振ったらしい。
興味無いからと、冷めた一言で突き放す。
まぁ、そう振られた人、憧れてる人が、俺みたいな陳腐な奴と一緒に居たらどうよ?
罵詈雑言の嵐……までには、ま・え・ま・で・は、いかなかったが。
うん、放課後に俺とラインが一緒に練習をしてる所を見られ、一気に拡散andリツイート。
こうして、一気に学校に広がった。
変な噂流されるし、脅迫もされる。
中には部屋の前に紙が置かれており、読んでみると殺人予告だったって話も。
日にち指定されていて、警戒していたのだが。
殺されると予告されていた当日は、何事もなかった。
◇
「愛とは重たいね。パパロット」
俺は、檻の隙間から指先を伸ばし、チョンチョンとパパロットを撫でる。
「まだ、嫉妬されてるのですか?」
レイロットは、ベッドに体を預け、手を頭に組みながらニヤケ面だった。
「他人事みたいに言うね。レイロットも俺みたいになるかもよ?」
「僕がアレンの二の舞は踏みませんよ」
「へぇ〜街中で美人の尻尾を追いかけ危うく捕まりそうになった君が?」
レイロットはギクっとした表情に変わった。
「ま……まぁ人の噂も七十五日。きっと忘れられますよ」
「それなら良いけ……」
そう言いかけた瞬間、撫ですぎたせいか、パパロットは怒り、ガブリとアレンの指を噛んだ。
それと共に、悲鳴が学校中に行き渡り、他の生徒達にブチ切れられたのは、また別の話。
◆
「よいしょ! 2個目〜」
「後、4個もあるんですよね。流石に骨が折れますよ」
俺らは、今野外訓練に出ている。
初めて転生した時も、野外訓練をしていたらしい。
で、今何を集めているのかと言うと、魔力が込められたメダルを散らばしておいたから、クラスで探せって、ガタリ先生から指示があった。
髭を触りながら言ってたのは覚えてる。
しかし、ただ探すだけでは終わらない。
この森、魔物、魔獣の巣窟なのだ。
半径100m圏内に最低1匹は絶対に潜んでいる。
つまり、倒しながら探せって事。
このように――
「任せます」
レイロットは何かを見据えた。
俺は剣を抜く。
魔力の塊が、殺意に満ちながら、俺らの元へと向かってくる。
木々が上手く魔物を隠しており、姿は見えない。
だが、感じられる。それだけで十分だ。
木々を抜け、上空へと飛び出してきた魔物は、逆光で見にくい。
俺は、一気に剣に魔力を練り、弧を描くかのように振った。
シュッと音を立て、魔力が紅に染まり空を切った。
魔物の体が溶けるように、魔力の波に押された。
静かに鞘へと剣を仕舞った。
「やっぱり! アレン上達してますね!!」
レイロットはガッツポーズを取り、言った。
「低レベルの魔物には、俺の剣先は効くんだけどね。
中堅くらいになると、う〜ん……って感じだね」
素直にレイロットの褒め言葉を聞けなかった。
しょうがないじゃん!
親しい仲に褒められると照れちゃうし!!
◇
「あのジジィ(ガタリ先生)どんだけ遠くにメダルを置いてんだよ」
あまりにもメダルごとの間隔が遠く、女子ペアと男子ペアで分かれていた。
「本当ですよ。暑くて仕方がありません。水魔法も無闇に使えませんし、救いなのは木が影になってくれる所ですね」
魔物が怖いってよりも、暑さに疲弊していた。
魔物は何十匹と斬ったが、本当に手応えのない奴等ばかり。
それで良いんだけどね。
一応パパロットも連れてきて、上空で見張りをして貰っている。
最初の頃の関係は最悪だったが、餌をやっていると懐いてきて可愛らしい。
パタパタと羽を羽ばたかせながら、コチラを見ていたので、グッジョブと手を上げた。
大体、ここから3kmぐらいに一個メダルがある。
魔力探知で場所は特定出来ているのだ。
それに、ガタリ先生が難易度調整をし、歪な魔力が込められているので探知しやすい。
少し森の中が不気味だ。
木々が風で揺れ、葉がぶつかり合ってガサガサと音を立てる。
まるで、俺たちを嘲り笑っているかのようだった。
真夜中にこの森で肝試しとかやったら、雰囲気あって楽しそうだ。
そうなると、1番怖がりそうなのは、案外レイロットだったりして!
そう妄想してみるが、現実を直視してまた落胆する。
俺らは、肩を落とし、気だるげに歩いていると――
地面がガタッと大きく揺れた。
その途端、大きな魔力反応が、魔力探知に反応する。
パパロットも「ふぎゃあああ!」と叫び警告している。
俺らは、そのヤバさに逆に澄ました顔で振り返った。
そこには――巨大な魚が居た。
いや、厳密に言うと4足歩行で死んだ目。
ありとあらゆる所に傷が付いており、全体が漆黒である。
いや、何故だ?
さっきまでは、居なかった。
居たら、遠くからでも直ぐに気付くだろう。
そう思考を掻き回していると、ガンガンと頭が痛くなってくる。
頭痛は、記憶の寄り戻しの合図。
そして、脳が作り出した映像が流れ出す。
目の前に映るのは、ガタリ先生だ。
相変わらず、高圧的な態度である。
教室。
風でレースカーテンが靡いた。
窓から入る非常に強い日光は、クラス内の全員を苦しめている。
黒板に立っているガタリ先生は、髭を触りながら、説明した。
「魔力とは、非常に不安定である。故に暴走し、周囲にある魔素を一気に掻き集め、膨大な魔力を作る時がある」
ガタリ先生は、この現象が好きなのか、ニッコリと口角を上げていた。
そして、現実へと俺は戻される。
そっか。
暴走して、特に目立たない魔物が超巨大化したのか。
レイロットは、小刻みに体を震わせながら叫んだ。
「ヤバいですよ。マジであれどうするんですか?」
「レイロットうるさいぞ」
俺は静かにストレッチをしだす。
特に足を重点的に。
し終えると、俺は一気に巨大魚の反対方向へと走り出す。
レイロットはガーンと口を落とす。
「何逃げてるんですか!?」
「バカタレ!! あんなのに勝てる訳ないだろ!?
行っても無駄死にするだけだ。さっさとレイロットも戦略的撤退をしろ!」
そう俺は正論らしき事を言うと、レイロットも走り出す。
ヤバいヤバい。
あんなのと戦ってたら、俺の体が木っ端微塵に吹き飛ぶわ!
あれ、全長100mはあるだろ。
巨大魚が暴れながら、コチラへと近づいてくる。
はぁ!?
なんでこっち近づいて来るんじゃボケ!
俺らなんか美味しくねぇよ!!
レイロットも情けない声を出しながら全速力で走っている。
あいつが一歩一歩、歩く度に、地が揺れる。
走りにくい。
だが、あいつ自分の体の重たさ故に思ったよりも、遅い。
これなら――
そう思ったのも束の間、木々を抜けると、そこは崖であった。
全力で、足で急ブレーキを入れる。
自分は寸前で止まれた。
「え?」
レイロットはポカンとした表情になりながら、崖へと飛び出していた。
俺は咄嗟に、レイロットの足を掴む。
重力と勢いで俺の手が外れそうになる。
歯を食い縛り、必死で耐える。
下は、またもや森林。
こんな状況では無かったら、きっと絶景で楽しめたのだろう。
「惜しいな」
思わず口に漏らしてしまう。
レイロットは、この圧倒的な絶望の極地に言葉が出ない様子だった。
「今、引き上げてやるかな」
いきみ声を出しながら、ちょっとずつ上げる。
「すみません」
レイロットは言葉を絞り出した。
魔力を腕に集中させろ。
「メェ〜」
羊の声が間近で聞こえた。
横に振り向くと、草を貪り食いながら、こっちを見ていた。
横長の瞳孔の瞳が見下しているようだった。
羊がコチラへとスタスタと歩いてくる。
「おい待てよ? 羊。やめろよ」
羊は俺へと0距離まで近付くと、ゲス顔を見せた。
そのまま、俺の体を前足で蹴り、崖へと落とした。
「あのクソ羊! 覚えてろよ」
徐々に遠くになりながら、森へと響いた。
あーこれこそ本当にヤバい。
完全に為す術なしだ。
この高さなら、魔力を体中に練ったとしても、意味ないだろ。
ったく、死因が羊って不名誉だろ。
もっとまともな死に方出来ないのかな?
前世は自殺。
現世では、羊なのだ。
寿命で死ぬとか。
病気で死ぬとか。
そう言う一般的な死に方を――
だが、友達と喋る楽しさを教えてくれたのは、迷う事なき事実。
嬉しかった。
前世では気付く筈が無かった事を気づかせてくれたのだ。
まぁ目標は果たせなかったのは無念だが。
レイロットすまん。
助けられなかった。
しかし、お前の足は離すことなく今も掴んでるぞ。
だが、泣きっ面は傑作だった。
そして、俺は静かに目を閉じ、その時を待った。
うん?
来ない。
いつになっても、その時が来ないのだ。
渋々、目を開けると――
パパロットが、真っ赤な顔をしながら、俺とレイロットの服を小ちゃな手で掴んでいた。
ギパパパパと唸りながら、一所懸命、純白な羽を羽ばたかせ、今にも手を離しそうだった。
重さに耐えられず、そのまま、ゆっくりと降下して行く。
地面に無事に俺らを降ろした頃には、パパロットはグッタリとしていた。
助かった。
俺は、呼吸を置き、安堵した。
だが、今はそんな事をしている場合ではない。
パパロットに感謝しつつ、レイロットの方へと駆け寄った。
外見上は、全く変哲もない身体であった。
レイロットは、グッジョブと手で表しつつ、涙目であった。
だが、休んでいる暇は無い。
こうしている間にも巨大魚は、刻々と迫り来ているのだから。
レイロットは走ろうとしない。
いや、走れないのだろう。
当然だ。あんな恐怖を見せつけられたのだ。
身体には影響が無かろうと、精神面ではかなり来ているのだ。
レイロットの肩を持ち、逃げ始める。
魔力で体を強化しているのだが、体が重たい。
俺の魔力は少ないからだ。
ずしり、ずしりと足へと響く。
足がまるで言う事を聞かない。震え始めたのだ。
深呼吸をし、呼吸を整えながら、一歩、一歩着実に。
でも、ダメだ。
こんなスピードでは、直ぐ追い付かれてしまう。
木々も煽るように揺れ始める。
うるさい。
うるさい。
きっと、レイロットを置いていけば、追い付かれずに逃げられる。
だが、出来ない。
理由は単純。友達だからだ。
初めて作れた、本当の意味での友達。
クッソ。
ここは人肌脱ぐしか無いようだ。
俺は、付近に飛んでいたパパロットに頼む。
「パパロット、立て続けにすまない。レイロットをここから出来るだけ遠くまで連れてってやれ」
パパロットは「でも……」と言いたげな表情をしたが、何かを察したように、レイロットを両手で鷲掴みしながら、俺から離れて行く。
俺は、レイロットとパパロットを見送った後、剣を抜いた。
魔力の少ない俺だが、少しばかり時間稼ぎは可能だろう。
ったく、ガタリ先生……いや、魔剣騎士団学校。
どんな難易度調整してんねん。
野外訓練だぞ!?
試験じゃないんだぞ。
割に合ってねぇんだよ。
相手は、生き物を感知するや否やぶち殺しに来る。
生き物というより、破壊だけを目的とした装置に近い。
魔物は、どいつもこいつも狂ってるな。
剣に魔力を行き渡らせた。
それを感知した巨大魚は、高らかと咆哮をあげる。
この辺りに居た他の魔物は、一目散と散ったか、死んだか。
俺は、覚悟を決めるかのように、フッと笑った。
「クソ魚! 相手は俺だ!!」
大声を上げると、一気に巨大魚へと足を進めた。
大和魂、魅せてやる。
心の底で叫んだ。
直後、豪快に紅色の光った魔力が、巨大魚を襲った。
莫大な魔力が波となって空を裂き、木々を吹っ飛ばす。
空気が揺れる。
その魔力の特徴は、いつも触れていて、馴染みがある物だった。
「ライン!?」
その一撃が、巨大魚への致命的な一撃となり、ズシンと巨体が倒れた。
巨大魚は、最後に低く唸るような音を立てて、動かなくなった。
風が吹く。
折れた木々の葉が、地面を擦る音だけが残る。
俺は剣を握ったまま、しばらく動けなかった。
指先が、微かに震えていた。
◆
ラインは、赤髪をなびかせながら、巨大魚の上部へと誇らしげに立っていた。
「アレン、レイロット大丈夫!?」
ラインの一言目だった。
俺は、遠くに居るラインに声を届かせるため、大声で答える。
「大丈夫です!」
ラインは、ふぅーと安堵のため息を漏らすと、こちらへ歩んできた。
と言うか、フィオナが居ない。
ラインと一緒に行動していた筈では?
一体何処に?
「フィオナは?」
俺は、疑問をラインにぶつける。
「巨大魚が出現していたから、一目散に向かってきたの。だから、フィオナは置いてけぼりなだけ」
あぁ、そうか。
言われてみれば、当然か。
どうやら頭が混乱しているようだった。
その後、パパロットとレイロットを呼び戻し、フィオナとも合流出来た。
折角だからと、一緒にメダルを捜索する事になり、無事全て発見出来た。
◇
「はぁ、疲れました」
「本当だよな」
野外訓練の帰宅途中であった。
「私も疲れてしまいました」
フィオナはそう言いながら、俺へと凭れ掛かる。
フィオナ、距離近すぎるだろ!?
と驚愕しつつ、平静を装う。
何故なら意識してしまうと、負けたように思えるからだ。
俺は色気なんかに屈しない……。
本当に、アレンはフィオナとどんな関係だったのだ!?
俺には刺激が強すぎるぞ!
心臓バックバクにしながら歩いていると、木陰からガサガサと音が聞こえる。
注意深く見ていると、羊がヒョコッと顔を覗かせた。
目の前にいたのは羊だった。
――さっき、俺を突き落としたやつだ。
レイロットと俺は顔を見合わせ、頷く。
この羊は、さっき突き落としてきたクソ野郎羊だったのだ。
あまりの恨みで覚えている。
違う個体の羊な訳が無い。
「なぁレイロット。羊肉、食いたくねぇか?」
「そうですねぇ。丁度お腹も空いてますし……」
そう気が合ったので、俺らは羊へとゲス顔を見せる。
羊は、恐怖に引き攣った声を上げて、後ずさった。




