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第四話 魔法は使い物にならない

 「魔法は、回復魔法以外を除いて近接戦では、ほぼ使えない物になる。何故ならば、詠唱が長すぎるからだ」


 まるで大地が唸るように、腹にズシンと響く低い声で喋るのは、俺が居るクラスの担任、ガタリ先生だ。


 ガタリ先生は強面な顔をしており、髭が口に沿って生えている。

 筋肉質な体付きをしており、顔面も相まって本当に怖い。


 前世の学校で、いっつもワチャワチャしているクラスが、特定の怖い先生になったら静まるやつがあるでしょ?

 その怖い先生の強化版が、ガタリ先生だ。


 ちなみに、魔剣士団学校のクラスの内訳は、全部で18クラスある。

 俺は18Aの一員だ。


 1クラス4人で構成されていて、ライン、レイロット、俺が今授業を受けている。

 で、もう一人は、この授業では欠席している。


 「その事から、魔法で重要視する回復魔法について解説する」


 回復魔法は本当に難しい。

 他の魔法と比べて遥かにだ。


 ガタリ先生が回復魔法について、こう語った。


 回復魔法は、基本の魔法とは少し違うらしく、その違いは魔力にあるそうだ。

 攻撃魔法を撃つときは、そのまま魔力から魔法に変化すれば良い。


 だが、回復魔法は、魔力をお互いにぶつけ合い、攻撃性を打ち消し合い、発動する事が出来る。

 打ち消し合う時に生じたエネルギーは、他の所へと逃げていく。


 その事で、魔力その物には攻撃エネルギー的なモノが無くなるってわけ。


 例えが下手かもだけど、車同士が衝突した時、前に進む運動エネルギーが無くなるでしょ?

 あれ。


 その打ち消し合いが本当に難しい。

 少しでもエネルギーが残っていれば、回復魔法が乱れ、効果が薄くなる。


 最悪の場合は、変換できなかった魔力を自分の体に打ち込む事にもなりかねない。


 そのド畜生魔法は、実戦では必須級になる魔法だから厄介なのだ。


 必須性は至って単純。

 傷を体に刻まれながら、戦えないでしょ?って話。


 痛みがあると、やはり大胆な動きが制限されるし、怖気ついてしまう。


 漫画で良くありがちな、根性で何とか我慢するみたいなのは無理。

 我慢出来ている奴は、痛覚が麻痺している人と思った方がいいよ。

 それか人外。


 我慢したとて、どうしても痛みで蹌踉ける事が多々ある。

 身が入らないのだ。


 あまりの難しさと必須さを再認識し、思わず、はぁと俺はため息を漏らした。


 「おいアレン、なにため息ついてるんだ?」


 ガタリ先生は、顔に影を作りながら、鬼の形相でこちらを見てくる。


 ヒィイイイイ!!

 アカン、誤解されてもうてるやん。

 完全にヤバイやつですやん。


 誤解を解かねば!


 「ち……違うんです、ガタリ先生!」


 「言い訳無用!!」


 そう怒鳴ると、黒板のチョークを180キロのスピードで投げてくる。


 こんなの喰らったらタダじゃ済まないっ!


 「すいませーん!!」


 と誠心誠意で謝りつつ、避ける為、椅子を後ろへと傾けた。


 安定さを失い、全力でよろけ、教室の床にごろんと転がった。


 ◇


 ったく、あのクソジジイ。

 頭が硬いんだよ。昭和脳すぎる。


 ここに昭和とか言う概念が無いけどさ。


 ラインとレイロットにクスクス笑われたし。

 チクショウ! 悔しい!


 そう、誰も居ない放課後の廊下で文句を垂れていると、廊下の横にある中庭で声が聞こえた。


 「ヒーリング! ヒーリング!」


 少女の声なようだ。

 必死に詠唱を唱えている。


 この声……。


 俺は、廊下の窓を跨ぎ、声の主の方向へと足を進める。


 そして、俺の目に映ったのは、金髪の少女だった。


 やはり、お前だったか。


 少女は後ろを向いてしゃがんでいる。

 つまり、俺の存在には気付いていないという事だ。


 ふっふふ。

 そろーり、そろーりと抜き足で近付き、手が届く距離で――


 「わっ!」


 肩にガシッと手を付け、驚かせる。


 「うわっ!」


 っと驚いたようだが、落ち着いた驚き方だった。

 なんか、期待外れなリアクションだ。


 紹介しておくと、同じクラスメイトのフィオナだ。


 何故か、フィオナの近くに居ると頻繁に頭がギンギンと痛くなる。

 その度に、ボヤけた記憶が頭の中をよぎるんだ。


 だから、用がない時は、あまり近付かないようにしている。


 これで、同じクラスメイトの全員の自己紹介が済んだかな。


 「ね、何してるの?」


 「お花の茎が折れてて、治癒してあげてたの」


 彼女は、手で隠れていた花を見せ、穏やかな口調で言った。


 この通り、彼女は回復魔法が上手すぎる。

 故に、回復魔法の授業は欠席し、実技の練習をしている。


 で、さっき言った通り、彼女に用が無い時は近付かない。

 という事は、俺は彼女に用がある。


 「あの!」


 「何?」


 「俺に回復魔法を教えて下さい!」


 そう懇願すると同時に頭を下げる。

 90度を意識する。

 これが、前世で培ってきた技術である。


 そして、これだけでは魔法を教えてくれない事も知っている。

 難しい魔法なんて、誰も教えたく無いだろうしね。


 なので、相手側が俺に教える事での利点も用意する。


 「勿論、言う事を聞いて――」


 俺の言葉を遮り、彼女は親指と人差し指で輪っかを作って言った。


 「いいよ!」


 笑顔で快く了承した。


 「え?」


 「え?」


 俺は、予想外の返事に、あっけらかんとしていた。

 授業料は、まさかのタダなのだ。


 ラインは魔法、剣術を教えてくれるが、それは彼女の私情があっての事である。

 嬉しいけど。


 レイロットはマジで論外だ。

 一回頼んでみた事があるけど、


 「いやですよ。めんどくさいし! それよりも、カードゲームしませんか?」


 と断られた。


 断られるまでは


 「そうか……」


 で話が終わる。でも、その上で遊びに誘うだと?


 勉強しよ!と誘われ、断った挙句、ゲームに誘ってるのと同じ行為だぞ?


 いや、俺の友達だし、そんなもんか。


 あれ、こう考えるとフィオナって優しい系なのか?

 今まで距離を取っていた弊害で、フィオナの事は俺自身よく分かっていない。


 まぁ仕方ないよね?

 高確率で来る頭痛を、貰いに行くドMなんて居ないだろ。


 ◆


 という事で、フィオナと一緒に回復魔法練習を行った。


 彼女は回復魔法の天才であり、それ故に教えるのが下手であった。

 天才は感覚でやり遂げるので、コツとかを知り得ない。

 考えるまでもないのだ。


 それを彼女も自覚しており、申し訳無さそうだったが、その姿が面白かったのでヨシとしよう。


 それに、下手と言っても絶望的ってわけでは無い。

 彼女は感覚で教えるが、その感覚が俺と気が合うようで、段々コツが掴めてきたのだ。


 ほんの少しずつだが、上達していくのが分かり、彼女もそれが分かっていた。

 なので、まるで自分が上達したかのように喜んでくれた。


 だが、調子に乗っているのも束の間、最悪のケース――

 体に魔力ぶち込みをやってしまった。


 その時は、丁度俺の心臓ら辺に手をあてて発動していた。

 フィオナもやめた方が良いと忠告していたが、調子に乗っちゃった! テヘッ!


 どうやら、心臓までは貫いて無いらしいが、まぁまぁ深い所まで抉っており、生暖かい血がバーっと溢れ出す。


 視界が徐々に暗くなり、俺は敢えなく撃沈した。


 彼女の


 「ね! 大丈夫?」


 と言う大きな声は、遠く感じた。


 ◇


 ラインは、今日2回目の驚愕をした。

 何故ならば、フィオナが笑顔で帰宅したからである。


 フィオナとラインは同じクラスメイトである事から、女子寮でワンルームを共同している。


 フィオナは2ヶ月ほど前から、どこか暗い顔で、目に光が無かった。

 笑顔こそ崩していなかったものの、引きつった表情だった。


 ラインも理由を聞いていたが、中々話してくれず、困り果てていた頃――

 目を輝かせながら帰ってきたのだ。


 ラインもそれに釣られ、笑顔を見せた。


 「何か良いことあったの?」


 興味津々に聞き迫る。


 フィオナは


 「うん!」


 とは答えつつ、理由は決して話さなかった。


 ラインは眉をひそめたが、


 「そっか」


 と、これ以上深追いする事はなかった。

 いや、出来なかった。


 ラインは察していた。

 アレンが変わってしまった事に。


 その事について、皆、アレンに聞いてみようと思ったが、聞けなかった。

 何故か、喉に言葉が閊えては聞けない。


 いつしか、その事は暗黙のタブーへと変わっていった。


 取り敢えず、ラインはフィオナの祝福に安堵しつつ、1回目の驚愕について、面白おかしく語り出した。


 「放課後、アレンに会ったんだけど~。もう血だらけで!誰がどう見ても異常なのに、当の本人はケロっとしてて面白かったな~」


 会った時は、放課後練習である。


 「そっか」


 フィオナは、どこか安心したため息を吐くと、自分の机へと向かった。


 フィオナが手を伸ばした先には、花瓶に活けられた白い一輪の花があった。


 花瓶を両手で優しく包みながら、胸元へとたぐい寄せた。


 フィオナは、アレンとの思い出を、記憶からそっと取り出す。

 昔を思い出すかのように目を閉じた。


 不意に胸が熱くなる。

 花瓶から伝わる冷たさでは、どうにもならないぐらいに。


 秒針の音だけが、部屋の静けさを刻んでいた。

 

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