第三話 ペットの魔物
えーと、何々?
最初は、世界観の説明から入るようだ。
書かれてあった内容は、要約するとこうであった。
『昔々、大地震が起きた。その地震の規模は、世界全体に広がったらしく、不毛な大地が大陸全体を覆い尽くした。それにより、各国は食糧難に陥り、平和だった世界は血に染まった。』
へぇ〜。どうやら、絶望的な世界から始まるらしい。
『ある時、地震で裂けた地面から謎のエネルギーが出ているのを観測した。』
ってところで、世界観の説明は終わっている。
謎のエネルギー? 魔力のことか?
まぁいいか。
紙を捲る際に手をズラしたので、コツっとコップに手が当たる。
コップ……このコップ、いつのだ?
本に夢中になるあまり、コップの存在に気が付いていなかったようだ。
お茶の香りがする。
よく見れば、口付けをしたコップの縁に、緑色の液体が固まっているのが分かる。
丁度、喉が渇いてきたし、飲むか。
口の中にお茶を流し込むと同時に、本に羅列されている文字を見る。
主人公が出てきた。青年なようだ。
そして、名前は――。
「ヒンギャアアアアアア!!」
そう叫びながら、生まれたての赤ちゃんのように、何一つ纏わない姿で風呂場からレイロットが飛び出してきた。
あまりの絵面と衝撃に、お茶をブフッっと吹き出す。
「どうしたんだよ!」
「そ……それが除き魔が!!」
そう震えた声で、風呂場に目掛け指を刺した。
何事か?と思い、慌てて風呂場を見ると――魔物?
どんな感じかと言うと、プニプニしてそうで、体毛がなく、目がやたらと大きい羽つき魔物だった。
デカさは、自分の手二つ分に収まるくらいだと思う。
何でここに居るのかと脳裏によぎる。
よりによって、魔剣騎士団の学校にだ。
キモ可愛いな。
「キモ可愛いじゃん」
ちょっと触ってみて――。
そう手を伸ばした瞬間、ロケットのように、俺の顎目掛けて魔物が大突進。
ヒグ!!
俺は後ろの方へガタンと倒れる。
我ながら非常に情けない呻き声だと思う。
クッソ! あのクソ魔物。
ちょっとキモ可愛いからって、容赦してやったのによ!!
魔物は次々とロケットのように突進し、俺のマイルームに尽く穴を開けやがる。
それから避けようと、レイロットは裸で暴れる。
地獄絵図である。
「レイロット! コイツを一緒に捕まえるぞ」
俺はレイロットに呼びかけると、少し怖がってたが、親指を立ててオッケーサイン。
俺とレイロットは捕まえようと必死になるが、捕まえられない。
残るのは、突進されて痛む箇所だけ。
この魔物、動きが速い。
ぶつかってきた瞬間に捕まえればいいじゃん、と思うかもしれないが、そうはいかない。
コイツ、切り返しが速すぎるんだ。
サッカーの選手にでもなれよ、と思ってしまうくらいには。
隣の部屋から
「うるせーぞ!」
と怒鳴り声が聞こえるが無視。
それどころじゃない。
何か使える物は――檻?
棚に置かれている檻。
その檻は小さめな木の檻ではあるが、その木には魔力が練られており、強固。
手よりも大きめなので、捕まえられる率アップだ。
咄嗟にその檻を手に取ると、魔物が居る場所に照準を当てる。
さぁ来い!
お前が切り返しが効くのは、壁にぶつかった時だけ。
突進中は、切り返しが効かないのだろう!
魔物が壁にぶつかり、こっち目掛けて飛んでくる。
今だ!
隠していた檻を前に出し、構える。
「ははん! 魔物よ! 残念……」
グハッ!
魔物は、檻ごと突っ込み、鳩尾に衝撃がいく。
痛みに悶絶しそうだが、我慢をし、蓋を閉めた。
◇
「よし! 捕まえたぞ!」
「そのようですね!」
魔物は檻へと閉じ込め、壁に魔力付きの鉄ネジで固定してある。
本当に一苦労した。
コイツに突進された箇所が未だに痛むし、部屋はボロボロ。
終いには、腹を立てた隣人に、捕まえられて泣いている俺と、何故かフライパンを持っている裸のレイロットを見られ――。
怒りが、この状況を見て引いたのか、
「お……おう。うるせーのは、程々にしろよ」
と、筋肉ムキムキマッチョ(隣人)に気を使われたのだ。
こいつ……今すぐブッ殺してもいいが、それでは気が済まない。
「この魔物をパパロットと名付け、俺達のペットとする!」
「ほぉ! いいですねアレン。なら、俺らとコイツの関係は、主人と従者となったわけだ」
なら、する事は一つ。
俺らは、不気味な笑みを見せた。
魔物は酷く怯えているようだが、気にしない。
◆
「ふぎゃあああああ(ふざけるな!!)」
「おっと暴れても意味無いぜ! お前の突っ込み威力じゃ檻は壊せねぇ!」
「はいはい、顔を動かさないでくださいね」
パパロットが動くせいで、上手く描けないんだよな。
いくら叱っても変わる気配ないし。
コイツ、自分がペットになった自覚あるのか……?
うん? 何をしてるかって?
それは、自分好みにパパロットの顔にお絵描きをしているのだ!
いや〜、キモ可愛いが取り柄なパパロットにお絵描きをすることによって、キモさが増加していく。
その度に鏡を見せると、「ふぎゃああ!」と暴れるのは傑作である。
一見、動物愛護団体に怒られそうだが、コイツは魔物だ。セーフ。
「な、レイロット。コイツ何食うか知っている?」
「分かりませんね。魔物だから、人間の肉を食うかもしれません」
「ならレイロット、いけるか?」
俺の何気ない発言に、レイロットは何かを察したのか、
「バカ言うな!」
と怒鳴った。
「ヒールでいくらでも治せるじゃん」
「あの……それラインにも言える事では?」
「俺は無理だよ。だって魔法下手だし。変に治る可能性もあるしね。ヒールを他人にかけるの難しいし、俺を治すのもキツイだろ」
そう言って説得しようとしたが、聞く耳を持たない。
どうやらレイロットは、自分の肉を差し出してくれないようだ。
まったく……新しいペットだと言うのに、歓迎がまるで足りてない。
「仕方ない。そこらの生きている虫でも取ってこようか」
「え? マジっすか? 触るんすか? それに、どこにそんな虫が? 外出は今できませんよ?」
俺は
「外に行くんじゃないよ」
とレイロットを鎮め、ベッドの下に手を滑り込ませる。
ガサガサとする音を頼りに、手を握りしめる。
そしてレイロットの元へ戻り、手のひらを開けた。
レイロットは見た途端、泡を吹いて膝から崩れ落ちたが、理由が分からない。
ただのゴキブリなのに。
前世でも、インターネットをゴキブリと鑑賞したものだ。
懐かしく感じるな。
檻の隙間へとゴキブリを滑り込ませ、パパロットの口元へとやる。
ほれ! ほれほれ!
小刻みにゴキブリを揺らし、パパロットの食欲を誘う。
そうすると、ガブっとゴキブリの頭からガッつき、バリボリと音を立てて食い出した。
途中、俺の手まで食われそうになったが、何とか回避。
これからは、ピンセットみたいなのを使ってあげよう。
俺はレイロットをベッドまで運び、布団を被せ、俺も寝た。




