第二話 当然ながら神に見放される
今思ったけど、この世界は、俺に対して酷くない?
だって、体は異世界産だけど、精神面は違う。
もっとさ、色々ね? 特典とかあっても良かったんじゃないかなって思う。
俺には大した魔力も無い。
魔力が無ければ、当然使える魔法の種類も限られてくる。
その上、剣技も出来ない有り様だ。
異世界に飛ばすなら、それなりの待遇あって良いだろ!!
異世界転生の定番!『俺TUEEE』とかやってみたかったものだ。
そんな俺だから、俺の目標――『困っている人を助ける』を達成する為の、目標を付けることにした。
1つ目、魔法を上手く使えるようになる。
2つ目、剣技を上達させる。
3つ目、仲間を作る、だ。
1つ目、2つ目は、ボチボチと言ったところだ。
3つ目は、結構達成出来ていると思う。
何せ、クラスメイトと言うチートがあるからね。
案外、クラスメイトと関わるのも楽しいかも?と思い始めてきたしね。
「ほら、何突っ立てるの? 手を前にかざして!」
今、ラインと一緒に魔法練習室にいる。
魔法の練習をするためだ。
俺はラインに急かされ、壁に向かって手のひらを突き出した。
俺と壁の距離は、10mぐらいといったところだろうか。
「魔法とはイメージ。幻想を現実に持ち込む手法。イメージが出来なければ、発動なんて出来るわけないから、説明するからイメージしていってね」
幻想?
この世界でも魔法は非現実的なモノとして扱われているのか。
てっきり、あって当たり前という認識を持たれているかと思ってた。
確かに、この世界でも物理法則はある程度解明されているだろうし、それにそぐわない魔法はおかしな存在と言うわけか。
「おっす!」
俺は、全力で気合を入れた。
「それじゃ、水魔法でも打ってみよ」
ラインはそう言うと、淡々と説明を始めた。
「魔法とは、魔力から生み出された応用物。だから、まず体の中に巡る魔力を意識するの」
魔力か。
俺の体の中にある少ない魔力を、探り寄せるように意識をする。
「うん。良い感じだよ」
ラインは俺の後ろから、壁にかざしている手を軽く掴み、落ち着いた声で言った。
「血液に魔力を乗せる感じで、魔力を手のひらに集中させて」
血液に魔力を乗せる感じ……。
目を大きく開かせ、周りの音が聞こえなくなるくらい、意識を研ぎ澄ませた。
そうすると、段々、腕の温度が上昇していくのが分かった。
「今」
ラインの声が、鼓膜を経て脳に伝わるのを合図に、詠唱を唱えた。
「流れよ、形を忘れるな。我が意思に従い、刃となれ――水刃」
その瞬間、腕の温度が奪い取られ、バシャっと音と同時に球体となって、水が飛び出した。
球体状の水は勢いよく、拡散魔法がかけられた壁に向かった。
動くスピードに耐えられない球体の水が形を崩しながら、壁にぶつかり拡散した。
プッ、とラインは笑った。
「あー!! 笑いやがったな!」
「ごめんごめん。順調に出来てたのに、放出されたのがヘナチョコ球体の水で!」
そう絞り出すような声で弁解すると、またもやアハハと腹を抱えて笑った。
うん、彼女の言ってる事を聞くと、察しが付くと思うが、失敗だ。
本来ならば水刃なので、バシャっと音を立てず、鋭い金属音で放たれる。
それに、水ボールなんて出るわけがない。
刃なんだぞ?
どっからどうなって、刃から水ボールになるか。俺の脳に問い詰めたいところだ。
ある意味、センスがあると言って良いだろう。
残念ながら俺には、本当にセンスがない。
認めるよ。
しかし!
こいつ、人の失敗を笑いやがった!?
いくら魔法にプライド捨てていようが、笑われるのは傷付くぞ。
ラインは笑い終えると、息を整えながら、
「でも、良い調子だよ」
と微笑みながら口にした。
……可愛い。
思わず、顔が火照る。
やべ!
咄嗟に自分の顔を、自分で平手打ちする。
「どうしたの? いきなり顔を打って」
ラインが不思議そうに見つめる。
この通り、誰がどう見てもラインは美人だ。
万人受けの顔をしている。
それにしても、彼女の笑顔は破壊力がある。
この通り、俺が自然と口角が上がってしまうくらいには。
いや、凄いよね。ここまで来ると。
芸能人でもそう居ないだろう。
二次元の人間でも見ているのか?って、脳が誤認しそうだ。
「ごめん。何でもない」
「ふ〜ん」
ラインは俺を見据えるような瞳で見た。
「まぁ何でも良いだろ。早く練習を!」
俺は悟られないように、話を本題に戻した。
「それもそうね」
その後は、俺の短所をラインに指摘され、それの練習を何回もした。
その練習は、
「閉校時間だ! さっさと出ろ!」
と見回りのオッチャンの告げを合図に終了した。
「つっかれた〜」
俺は倒れ込むように、床へとダイブする。
ラインはため息をつき、眉をひそめながら、
「あーあー。図書館の出来事がなければ、もっと練習できたのにな〜」
と嘆き、こちらをチラッと見た。
「それは、惜しい事したね」
ラインの嫌味に乗る。
「それじゃ、放課後は毎日特訓ね!」
倒れている俺に顔を近づけ、手を差し伸べた。
彼女の鋭い眼光は、有無を言わせない様子だった。
「へいへい」
彼女の差し伸べた手を掴み、体勢を整える。
一応、特訓場なので、床がまぁ汚い。
埃、汗など。
どうやら俺は、モロに寝っ転がったせいか、白い埃などが服に満遍なく付着していた。
手が届く範囲は払い除けた。
ラインは、美人でも怖い系の美人だな。
そんな脅さなくたって、特訓するのに。
それから俺は、ラインと校門で別れ、男寮に向かった。
◆
魔剣騎士団学校は寮があり、生徒はそこに入居している。
寮は2階建になっている。
1階は娯楽が置いてあり、カードゲームや、この世界の漫画などが置かれている。
2階は居室が30個ぐらいあり、そのどれもがダブルルームになっている。
俺ともう1人、同居しているわけだが、誰が居るかと言うと……。
俺はドアを開けたと同時に、一歩後退する。
その刹那、風呂桶が1個……2個落ちてきた。
「うわ、クッソ! 帰りが遅く、疲れてそうな時を狙ってもダメか」
そう悔しがるのは、同じクラスメイトのレイロットであった。
坊主で垂れ目の、どこか冴えない奴だ。
そう、俺とレイロットは、悪戯を互いにし合っているのだ。
そのせいか、どんな悪戯が施されているかが脳内でパターン化され、動きを予測する。
今回のはまだ優しい方で、酷い時は魔力を込めた金属物が飛んでくる事もある。
もう部屋はボロボロである。
何故そんな事をしているかって?
暇だから。
この世界には当然ながら、インターネットが無い。
暇さえあればネットサーフィンをしていた俺には、受け入れ難い現実である。
無意識に、架空のキーボードをカタカタと打ってしまう程。
その度、レイロットにバカにされている。
今にも禁断症状が発症しそうだが、必死に抑えてるところだ。
あぁああ、欲しいヨォ……ネット!
「ただいま」
俺は何食わぬ顔で部屋に入ると、着ていた上着を洋服掛けに掛け、疲れのあまりベッドに倒れ込んだ。
だが、枕には決して触れない。
分かっている。
枕には微かではあるが、魔力が込められている。
きっと触れたら、魔力を爆発するみたいな仕掛けをされているのだろう。
「おい、レイロット。顔を俺に近づけろ」
「何ですか?」
レイロットは素知らぬ顔で近付けてきたので、顔を鷲掴みにし、枕に思いっきり叩き付けた。
バンッ!
枕が爆発し、その衝撃がレイロットを襲った。
「いてぇえええええええええええええ!」
レイロットは叫んだ。
ベッドで体全体を蛇のようにユラユラと、もがいている。
お前……自分が仕掛けた罠に引っかかるなんて……世界で一番惨めな存在だぞ!?
「ったく。それで俺の枕が使い物にならなくなったんだけど。俺また、枕を先生に貰いに行かなければダメになったじゃん。怒られたくないよ! どうしてくれんの?」
レイロットは、爆発の衝撃を喰らった部分を優しく撫でながら、輝かしい目で返した。
「ドンマイです!」
こ……こいつ……!
「明日覚えとけよ?」
レイロットは、俺の脅しに物ともしない様子で言った。
「う……受けて立ちましょう」
レイロットの額に、微かに輝いているものが見えたので、すかさず突っ込んだ。
「いや、冷や汗垂れてるのバレてるよ!?」
「た……垂れてないわ!」
誤魔化すかのように、大声で叫んだ。
これは、悪戯の甲斐があるな。
俺は不敵な笑みを浮かべた。
レイロットはそんな俺を気持ち悪がり、
「風呂入ってくる」
と頭をボリボリ掻きながら、逃げるように風呂場へと入って行った。
やはり、冷や汗をかいていたのだろう。
さてと、俺は借りてきた『世界伝記』でも読むとするか。
机へ向かうと椅子に腰を下ろし、懐から本を取り出した。
今、じっくりと本を見ると、年季が入っている事が分かった。
だいぶ昔に書かれた本なのだろうか。
どんな内容なのだろうか。
一応、ファンタジー系が並べてあったコーナーから取り出してきたものだが。
そう期待を本に抱きつつ、紙を捲った。




