第一話 本って大事だよね
あれから2ヶ月経った。
そんな俺は今、魔剣騎士団学校で魔法を学んでいる。
どうやら、この体の持ち主だったアレンは、魔剣騎士団の見習いに入っており、今は俺が受け継いでるってわけ。
この身をもって実感したが、無気力人間している暇ないよ?
今は、生きる事で必死だ。生存本能には勝てないらしい。
魔剣士とは、魔法と剣を駆使して戦う剣士の事だ。
魔剣士に与えられた使命は一つ。治安維持である。
魔物、魔獣の暴走、攻撃あらゆる事に対処する。
それだけでは無い。魔法を駆使している犯罪者などにも携わる。
魔剣士とは、ここユイギア王国にとって欠かせない組織である。
そして、この状況は、俺にとって、この上ない好条件だ。
俺の目標を達成する為には、こう言うところに入らなくてはいけなかったからね。
いきなり、魔剣士に転生し、ぶっつけ本番!!なんて不可能だ。
しかし、今の状況は、魔剣士になる為に最も近いラインにおり、尚且つ見習い。
つまり、戦術の練習が幾らでも出来るというわけだ。
素晴らしいよ!素晴らしすぎるよ〜!!
前世で不運を使い切り、ここで貯めた運を使っていく流れかな?
この学校には、前世の学校であった教室を始め、魔法の訓練を行う場所などが設備されている。
なんと言うか目新しい物が多すぎて、最初の頃は大変だったよ。
アレンの記憶を部分的にしか受け継いでいないのだから尚更。
この部分的って言うのは、たま〜にパン!っとアレンの記憶が流れて来るのだ。
大抵、目に映っている情報を説明してくれる感じで。
狼にでも噛まれたかのようなギンギンする頭痛を合図にね。
だが、流れて来る条件が未だに分からない。
最初、アレンの記憶が流れた時は、俺が魔法を初めて使った時だった。
流れて来た内容は、アレンが魔獣に対して炎の魔法を発動した時のだった。
荒い息遣い、月に照らされた夜、炎に包まれた家々なども記憶として流れて来た。
アレンが住んでいた村は、魔獣に襲われたのだろうか。
何しろ、気の毒だ。
ならば、アレンの家族はどうなったのだろうか。
もしかして、魔獣の襲撃に……。
いや、アレンの家族の事は、今、考えるべきではないだろう。
話が脱線したから戻すと、その事があり、俺が強い印象を受けた時にそれと似たような記憶が流れて来るのかなと思ったが、2回目で違うと言い切れた。
花を見た瞬間、アレンの記憶が流れてきたからだ。
よくボヤけて見えなかったが、多分アレンが手に花を持っていたのだと思う。
俺は花に全くと言って良いほど興味が無く、この世界の花を見た時も強い印象など一つも抱かなかったのにだ。
この事から、記憶呼び起こしの発動条件が分からず、“意図的”に記憶を呼び起こす事が出来ずに頭を悩まされる。
アレンとの人間関係は、勘弁してくれと思う程だった。
名前も知らない同じクラスメイトであろう人が喋り掛けてきて、その度に話を合わせる事に気を使う。
だが、知らない話題などについて話を合わせようとするのだ。無理が生じてくる。
色々と変な事も言ってしまったし、その都度、不思議な顔をされ、首を傾げられた。
そんな顔を見ると、心臓がバクバクする。
人間関係が辛いよぉ……。
前世でも苦労してたのに、ここまで来ても苦労するのか。
でもまぁ、2ヶ月も経ったんだ。
名前も全員の分覚えれたさ。
どんな性格かも大体分かったし。
慣れてみると、案外楽になり、俺のお得意の話し合わせ!で何とか乗り切っている。
その他に、移動教室の時に道に迷ったり、魔法陣でしか行けない場所があったりで、困らせさせられた。
その度に、友達(同じクラスメイト)に助けて貰った。
いや、めっちゃ変な目で見られたからね?
こいつ、とうとう頭狂ってしまったか?とか思われてたと思う。
まぁ慣れたら便利な物ばかりだから良しとしよう。
実際もう慣れて、ストレスフリーで生活をしている。
魔法ってのは、前世では出来なかった事を物理法則を無視して実行出来るため、非常に便利だ。
魔法とは無縁な生活を送っていた俺は、便利とか思う以前に、ワクワクするよね。
このワクワク度合いは、ジェットコースター乗車する時と同じ。
ウヒョォオオオオ!!楽しいぞ!異世界!!
そんなハッピーライフを送っている俺が、今入り浸ってる場所が、図書館だ。
字は読める。
勿論、日本語では無く、異世界語で、知りもしない文字なのだが、頭にスッと意味が入ってくる。
ドラマとか漫画とかであるあるの、記憶喪失して綺麗に人間関係忘れてる癖に、日本語は分かると言う謎現象。
今俺はその状態にある。
つまり、言語には何不自由もない。
そして、図書館に入り浸っている理由は、勿論、本を読む為だ。
別に本を読む事が好きなわけではない。
何故読んでいるかと言うと、俺みたいな異邦人には、この世界を知る上で役に立つからだ。
人には今更聞けないこの世界での常識な事、価値観など。
これからこの異世界で生きていく上で、必要不可欠な事を必死に頭に叩き込んでいる。
俺が住んでいた日本とは、当然ながら文化の違いが出てくるだろう。
ましては異世界。
俺みたいな奴が、街の貴族しか通ってはいけない大通りを歩き、一刀両断!!みたいなのがあるかも知れないからね。
特に、そんな法律的なのは無かったけど。
1番、目に入った法律は、犯罪者には結構重い罰が下るって事だ。
例えば日本では、窃盗罪など初犯ならば軽くすむのだが、あら不思議。
この国では、初犯でも30年程、豚箱がマイハウスーになってしまうらしい。
重すぎる。
日本慣れしている俺には考えられないな。
ホームレスみたいな人はどう暮らしてんのか気になるよね。
怖い怖い。
でも、俺は安堵していた。
法律が厳格と言う事は、治安は良さそうなのだ。
我が故郷も治安が良く、平和ボケしちゃってるからね。
転生場所が、平和な国で良かった。
さて、次は何の本を読もうか。
最近は堅苦しいの読んでたから、ファンタジー系でも読もうかな。
本棚を流し見ると、ある本が目に止まった。
題名は、『世界伝記』か。
つま先で立ち、手を本へと伸ばした。
手が本を掠める。届きそうで届かない……。
ここの本棚ってやたらと高いんだよな。
もう一丁。
思いっきり手を伸ばすと、本を指の先で掴んだ。
よっしゃぁああ!!掴んだぞ!
後は、引き抜くだけ……。
あれ?抜けないだと!?
何でだ?
うーん、申し訳ないが仕方ない。
俺は罪悪感を押し潰し、本に足を踏みしめると体全体で本を引っ張った。
うをぉおおおお!
抜けろぉおおお!!
顔に血が昇ってきているのが分かる。
10秒ぐらい奮闘したが、抜けない。
これ諦めるしか……。
そう思った瞬間、少女の声が俺に向けられた。
「ね!何してるの?アレン」
俺はハッと声のした方へ顔を向けると、赤い髪で青い瞳を持った気の強そうな少女がポツリと立っていた。
「お!ライン。良いところに来てくれた!この本を抜くの手伝ってくれ」
俺は目を輝かせ懇願した。
ラインは、は?っと言いたげな顔をした。
「え、抜くって何?この本を!?そんな言葉初めて聞いたわ」
彼女は唖然した。
「どうでも良いから、はよ手伝って!そろそろヤバい」
「ちょっと……!仕方ないな。私では本に届かないし、アレンの手を引っ張るわよ」
「助かる」
ナイスだ。
諦めかけた瞬間、ラインが来てくれるとは!
タイミングが良すぎて、女神か疑ってしまう。
ラインは俺に駆け寄ると手をガッシリと掴み、引っ張った。
引っ張る姿は、俺とは違い、お上品だった。
「っちょ!!どんだけ固く本棚に結びついてんのよ」
彼女は苦言を呈す。
「分からない!でも、俺だけでは無理だったから、相当なんだろうな」
彼女は疲労のせいか手が震えていた。
「もう無理だよ!手が攣っちゃうかも」
「実は俺も指先が……!」
ガタッと音を立て、その本が少しばかり俺へと近づく。
「アレン!動いたよ」
ラインがパッと笑顔になる。
「あともう少しだ!踏ん張れぇええ!」
少しずつ、その本が俺へと近づいていく。
「ね。これ本棚、傾いてない?」
ラインが震えた声で不安を誘う。
え?
俺はパッと見る。
本棚が、倒れてきていた。
「うわぁあああああ!」
悲鳴と共にバタン!!と音を立て倒れた。
え?なぜ?と思ったが、冷静になってみればすぐ分かった。
あの本だけが抜けそうになっているのでは無く、本棚が傾いていただけなのか。
どうやら、興奮のあまり錯覚していたらしい。
痛みが込み上げてくる。
いってぇ!
ラインはどうなった?
俺は本棚を上へと押し、ラインが居た方へ見た。
そこには、横たわっているラインを発見した。
「だいじょ……」
俺はそう言いかけたが、ラインは小刻みに震えていたと思えば、アハハと笑いだした。
見た目上、大丈夫そうだ。
多分、俺がクッションになり、衝撃がラインへと行かなかったのだろう。
俺は深くため息を吐くと、つられて笑った。
周りがザワザワして、心配の声が届いてくる。
それとは裏腹に――
「おい!あんた達何してるんだい!!」
ガシャりとした声質の女性の怒号が響いた。
その声の持ち主は、この学校の司書のおばちゃんであった。
俺とラインは、引き攣りながら笑顔を作った。
◆
あれから図書館を出て、廊下を俺達は歩いていた。
「本当に酷い目に遭ったんだから!次、何か奢ってよ」
ラインは頬を膨らませた。
「笑ってた癖に」
俺は声を落とし呟いた。
「なんか言った?」
低い声で、ギロリとした目で問いた。
「何もないよ」
ここで深掘りしても面倒臭くなるだけだから、引き下がっておこう。
てか、ラインの言う通り、マジで酷い目に遭った。
図書館のおばちゃんにキレられ、ラインと一緒にゲンコツを喰らった挙句、倒れた何百本の片付けをした。
見てた周りも手伝ってくれたのが唯一の救いか。
まぁ全て自業自得だけどね。
ラインにも悪い事をしたと思っている。
俺の全心全意の謝罪として、奢らせて貰おう。
「分かったよ。しかし、この本を手に入って良かったよ」
「こんな思いをして手に入れるまでの本だから、内容気になるなぁ」
「うん?知らないよ。ただ、気になったから」
ラインは眉間にしわを寄せた。
「はぁああ?そんなので、私も手伝わせたわけ?これはもう4回分奢ってもらうから!」
「おいおい、流石に金が……」
「知らないわよ」
彼女は目を瞑り、そっぽを向いた。
「まぁ考えとく」
しかし、不思議だ。
俺は本に微かに残っている魔力が付着している部分を優しく撫でた。
何故、この本が本棚に魔法で結び付けられていたのか分からない。
司書のおばちゃんに聞いても
「分からない」
と一言。
まぁどうでも良いか。
「で、何でろくに図書館に行かないラインが図書館に居たの?」
俺は懐に本をしまい、後頭部に手を回した。
そこで彼女は、思い出したかのように動きを止めた。
「そうだった。アレン、私と魔法の特訓をするわよ」
「嬉しいけど、どう言う風の吹き回し?」
ラインは呼吸を一つ置いた。
「あなた魔法下手でしょ?それであったら、あなたと同じクラスメイトの私が困るのよ」
視線を逸らしながら言った。
ラインが言いたい事をもっと詳しく説明すると、『魔剣士資格試練』が5ヶ月後に控えている。
合格条件は、同じクラスメイト全員生存でのミッションコンプリート。
不合格者は、学校から除名となる。
だから、俺には強くなって欲しいって事だろう。
彼女の計らいは、俺にとっては有難い。
なんせ、この世界で俺がしたいことの一つ――人々に感謝される、を達成するには強さがいる。
俺は咳払いをし、改まった声で言った。
「それじゃ、練習付き合ってくれ」
ラインは、ふふんと笑い、快く承諾した。
「喜んで」
窓から差し込んでる夕焼けが、ラインをほんのり照らしていた。




