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いざ、禁断~The Onany Kingdom~(精通)

海が静まるころ、嵐は身支度を整えていた。

 放課後。夕焼けはいつもの熱を放つ。しかし、今晩の主人公には及ばないだろう。

 学生たちが廊下で雑談するなか、駆け抜ける男がいた。そう、ホイッスラーである。


 颯爽と歩く彼に目を惹かれる周囲。たちまち会話も盛り上がる。

 彼には日常茶飯事のことであり、右から左へ流す。遠のいていく姿をみて男子がいう。

「ホイッスラーがオナニーしていたってマジ?」

「隣のクラスのやつがトイレで見たらしい」

「見たって、人前でやるわけないだろ……」

「しかも、イカ臭かったらしい」

「馬鹿言うな、彼は最年少精神上場経験者だぞ。元とはいえ公器たるホイッスラーさんにそれは考えられない」

「それはガキのころじゃん。まだ覚えていなかったんだろ」

「そういえば、トイレ一緒だったことあるけど、タマついてた。絶対性欲あるって」

「だろ?タマのあるところにオナニー在り、ってやつさ」

 まさかの会話に野次馬が集まる。彼のファンたる女性は見過ごせない。

「ちょっと、どんなのだった!?神のペニス!」

「うお、ムッツリ女?!そこ食いつくの?」

「いつも想像しちゃって、もう、夜しか寝れないの!」

 興奮した彼女は持っているペットボトルをシェイクする。

「ひええエルフィア女子こわい」

「早くいえや」

 ネクタイを引っ張るオープンなウィメン。

「ちょっと覚えていないけど、立派だったような」

 目を細めながら左上を見つめる男子。

「わお、あれだけイケメンのくせにチンチンまででけえのかよ!」

 ガヤガヤと騒がしくなる。

 騒ぎを聞きつけた学年主任がやってくる。

「君達、放課後とはいえ落ち着こうねえ。本人が聞いたら不快に思うことをいっていいの?大声でよくない噂して、少なくとも俺は不快なんだけど、どうかな?」

 周囲を見渡すマルスに応して、男子生徒たちへ非難の目を向ける生徒たち。

「マルス先生」

 男子生徒らの背筋が伸びる。マルスは長い前髪を整えつつ、彼らに向き合う。

「それともホイッスラーくんに嫌われたいの?彼は人ができているから不快な顔も見せないだろうけど、心はあるんだよ?君達はもう大人なんだから、客観的に考えて言動をしなきゃダメじゃない?」

 頷く彼らの頭を撫でるマルス。期待しているからね、と去る教師に女子生徒らは色めき立つ。

「ちょっとヤバくない?」

「うん、今日からマルス派になる」

「あれされたら惚れるね」

 また騒がしくなる場を背後にマルスは溜息をつく。ひとりひとりが開放的に未来と向き合う教育を目指す教師として、彼の孤独を憂いていた。進路がみえないのだ。成績はセークエンス内でも優秀。実績もあり、どこでもいけるだろう。しかし、何がしたいのか打ち明けない。ただ、人の波を眺めている。あまりに有名になりすぎた彼を保護しつつ、通信では学べないことを学習できる環境を期待した親御さんが推薦したらしいが、なにもできていないのではないか。校長は外れないように見守ればいいとだけいっていたが、教育先進国の筆頭といわれる学園として手を尽くさぬわけにはいかない。


「マルス学年主任!こんなところにいたのですね。またビアンカさんが学外で騒ぎを…………」

 飛び出してきた部下にマルスは鼻呼吸をする。冷静を保つ密かなルーティンである。

「とりあえず、通報元の電話番号と名前と詳細を教えてくれる?教頭先生に相談して、折り返しするから」

 マルスは窓からみえる庭の噴水をみていた。オレンジの光に照らされた花壇をみると心が安らいだ。



 教室、玄関を抜け出し、校庭を駆け抜ける。甘く馨る花粉の祝福を浴びて、ひんやりと涼しい風を受ける。彼らも生殖器なんだ。素晴らしい現実だ。蜂の羽音すらも性が存在する証左に聞こえた。マイロストシティに再び明かりが灯る。


 遂にわたしは性に精通する。禁じられた能動的射精を考えるだけでワクワクする!


 ここは王国。あの城のような学生寮もきっとオナニーキングダム。植えられた子桃が如く青い衝動。


 彼は西口の正門ではなく敢えて北門を目指した。なるべく人に捕まりたくなかったためだ。何事も準備が大事である。幸福の成就には計算も必要だ。


 石が敷き詰められた道をステップでとばしていると花壇に植えられた一際綺麗な花を見つけた。彼らも産み落とされた場所で頑張っているのだ。そんな花の茎に集るアブラムシを見つめていると一人の美女が現れた。ジョアンナだ。連絡先を交換する最大のチャンスが訪れた。告白するまえに聞かなかったのを夢にまで見ていた彼は過去を断ち切る使命感に駆られた。彼女を見つけた彼は昼間の鉄砲玉よろしく、火に誘われた虫のように寄せられる。もうタックルとかないよね?


「やあ、こんばんはには少し早いかな?昼ぶりだね」

 学生寮の一階で自習だろうか。あるいは待ち合わせにもみえる。

「こんばんは、ホイッスラーくん、最近よく会うよね。環境委員で植物園の手入れを手伝うんだけど、倉庫の鍵がなかったから、ミューズ先生を探しているの」

 姫が元気だ!曇りのち晴れ!わたしがあなたの傘になりたい。そうしたい。

「そうだ。ミューズ先生をみつけたら報告するよ!これ、わたしの連絡先だから」

 紙切れを渡す。さすがに捨てはしないはず。

「ありがとう」

 好感触に血沸き肉躍る。夕方は副交感神経が優位になるから提案を受け入れてくれやすい。ここでリベンジしようか、いけるんじゃないか?

「ふふ、花を愛でるとは素敵な感性だね、あなたのような美しい女性にはなおさら似合うものだ」

「よくそんな言葉をつらつらと言えるね」

「!?」

 内臓が足元にずり落ちてしまったような気がした。

「面白いかも」

「!!」

 心臓が鎖骨を突き破った心地がする。

「あ、ミューズ先生きた。じゃあ、またね」

 また。また。また。次がある!いつでも誘える!誘われたならば、宇宙でもいく!海も走れる!

「うん♪また会おう!」

 ハイタッチする。瑞々しい玉のような皮膚。制服の袖から石鹸のいい匂いがした。フレグランス。

 帰路につく。車に乗る。この5分のために、何十分と待機させるのが申し訳ない。下校中に襲われてから、こうなったのだが、大の男として思うところはある。

 何気なく目に入った性風俗店の看板。エロい。流石に年齢で入れないだろうな。しかし、あちらの謎のカフェは入れそうだ。今度調べてみよう。オナニーは無料でコスパ良いという。パフォーマンスを極めればそうなるのだろうか。


 ひとり暮らしの部屋につく。学園の城が見える。あちらではどんな喧噪が繰り出されているのだろう。静かな上層の孤独な情緒を味わう。案外、こちらの方が気楽で向いている気がした。なによりオナニーをしても誰にもバレない。月一の掃除屋さんも顔を合わせたことがないし、気にすることはないだろう。


オナニー 初心者 オカズ …………っと


うわあ。違法薬物。有料コンテンツへの誘導。まったく風情がない。

そして、匿名のエロ動画。たしかに強烈なムラムラがあるが、いささか上級者向けな気がした。


 やはりリアルを延長するしかないな。オカズとは総菜である。自分で作るか、誰かが作ったものを消費するかに分けられる。やはり、自分で作ろう。


 ジョアンナを穢すのが憚られる。自己矛盾に気が付く。大事だから手を出せない?それは愛といえるのか?この手で身を支配することが本能ではないのか?幻想と現実の乖離が怖いのか?あの素晴らしい曲線美をもつ脚。血の通った掌。制服越しでもわかるスタイルの良さ。そしてスカートからわかる丸みのある臀部。このままでは今後、彼女に変質者扱いされかねない。無意識に分泌されていた唾液を飲みこむ。


 別か。それは個人を性消費する目線として単純化することを示す。それは対象者に失礼ではないかと思うも、思考の中を責める者はいない。しかし、自慰のクオリティ、すなわちシコリティを上げるには感情と執着が肝心と見抜く。ストーリーテリングが必要だ。そう、必然であること。わたしが必然的にオカズとするのは誰だろう。


 色々検索している。実母!?ありえない。すかさずスキップする。次に女教師もののビデオが出てきた。正直、このアクターは好みではない。しかし、女教師という立場差のある設定に心が動いた。


 なるほど、女教師…………まさに自身の境遇に重なる。しかし、化粧が濃すぎてリアリティが薄いのが不満だった。ミューズ先生などはこうでは……


 今日の出来事を思い出す。なかなか素晴らしい記憶だ。風情がある。これで決まりだ!

 題材を決めてからは早かった。しかし、本人にとっては長く感じられた。

 交響曲が佳境を迎え、山場を過ぎる。白のフォルティシモがシンフォニーをミュートする。

 脱分極によってうなだれた青年はしばらくの間、音を忘れた。

 それは遥か昔、公園の草むらで寝ころんだときの微睡に似ていた。


 男、ホイッスラー。かくして4年ぶりの能動的射精を迎える。


 その夜、彼はカーテンを開けっぱなしのままで床に就いた。

 かなりの早寝だが、なにもする気が起きなかった。

 ジョアンナからのメッセージも返せぬほどに。


 雲ひとつない清々しい満月の夜、海は静かに都市の明かりを映していた。

 静かな水の表面のなかで海流が渦巻いていた。

嵐が去ったころ、徹夜明けの空は魚を貪っていた。

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