魔王と源泉
あるがままに生きたいか?
自慰行為に特化した陰茎をもつが故に沈沈皓皓とした性生活を繰り返すゲオルグは、生物の最終目的を理解しながらも、やはり自慰行為に囚われたままでいた。
「マジでクソだなこの生活」
仕込み竿を拭き上げる。彼の灼熱は1日に3度燃え上がる。
初夏というにはまだ冷えた早朝の薄闇を走る。チキンレッグだから厚底で走れなどという弟をぶちのめしたい気持ちになったが、素直に受け入れる。マジでプロを目指していた意志は下火になりつつあったものの、依然として彼は輝けるストライカーであり、可能性を捨てきれない夢を消せずにいた。そんな気持ちを研ぎ澄ますようにペースは速くなる。時速24km/hの推進は熱を置き去りにした。犬をやたら見るので、自分が老人なのか犬なのか錯覚する。ただ、今の時間に走るやつは少ない。交通量もまばらで足に負担がかかる道路を除けば環境は最高だった。
「ふっふっはー、ふっふっ」
5kmを走ったころ、コンビニエンスストアで水を買う。電解質を溶かして負担を無視して一気飲みする。眼圧も上がるし良いことは少ないが、胃腸が嘆くことがないのならばよかった。
ここから帰りまではインターバルを行う。全力疾走しやすい大通り沿いのルートを走っては強歩で進み、また疾走する。このころになると夜の存在感は消え去っている。ランニングをあまりにすると脳が孤独指向になるらしい。思えば、部活仲間やメンズクラブのメンツと関わりは多いが、どこか一線引いた関係になっていて、それに淋しさはあるものの、そんなものだろうというスタンスになりつつある己がいた。しかし、それは本当に人間としての成熟、さらにいえば男磨きたるものだろうか?
「やべ、プロテイン用意するの忘れていた」
フォワードらしい高い背丈を揺らしながら気が付く。弟の筋トレマニアにメッセージを送るも返答がない。さっき買っておけばよかった。朝の蛋白質摂取はマジで大事だから。
駅前を過ぎる。流石に人が多い。ビジネスエリアのビル群を抜けると高級住宅街が広がる。ゲオルグは己の競争心を刺激するために時折、ここを通っていたが、今日は大通りルートで駆け抜けることにした。セークエンス学園は富裕層のくそガキが多い。同い年をクソガキといっても仕方ないが、なれ合いのモテ合戦に騒ぐ本質はどいつも馬鹿だ。しかし、そんなバカに自分も属していることは百も承知だ。目立つのは大好きで、もっとモテたいとしか思えない。いままでのサッカーの栄光とモデル経験から有利に受験を運んだものの、学者肌ではないことから努力だけで学問を進め、実態は学力底辺層だ。それでも勢いとインパクトでモテることはできた。しかし、狂気的学園には本物が集っている。ホイッスラーという同学年の男はローなバイブスの癖にクソモテる。株があるなら、連日買い増しでストップ高みたいなやつで10年後でも2、3倍になっているようなやつだ。おれみたいな雑魚はコツコツやるしかない。それでも絶対にいえることはおれが一番いい男であることだ。だが、それも自惚れと慰めであり、モテの底知れぬ本質を理解できない我武者羅バカ野郎な気がしてならない。通りすがりの美女をみるが、ナンパから逃げてしまった。負け癖はカスだ。おれは白星を求めている。学業は置いて、サッカーや課外活動でもハイなのに、やはりモテていないことが気に食わない。ホイッスラーもアーロンもマルスもどいつもこいつも引きずり落してやりたい。毎日の学食もマジで怠い。
しかし、疾走するとそんな落ち込みも振り払えた。ゴールは近い。ボールをぶち込む気持ちで駆け込む。朝練の時間は近い。卵は飲むだけでバナナとプロテインを持っていこう。
「うわ、汗びっしょりじゃん、きたねえ」
愚弟が睨んでくる。こいつなんで兄のおれよりイケメンなんだ。クソ両親よ、それはありえないぜ。
「うっせえな。ちょプロテイン。分けてよ」
「いいけど、つーか部屋イカ臭いから窓開けていけよ」
頭一つ小さい背中から愚痴が聞こえた。
「マジ殺す」
地味に彼女持ちなんだよな。おれの彼女より可愛いのがありえねえ。
「時間ないじゃん。いってくる!」
地面に浮かぶクソイケメンどもの顔を踏みつける気持ちで走る。中距離での初速を上げたい。ゲオルグのマインドにエースストライカーが宿る。
「へいパス!女もよこせ!」
「あのばか兄貴、リュックサック忘れてんじゃん」
代償を払う覚悟はできているのか?




