引き潮
すべてがそこで済む部屋をだれか施工してください。
ゲームの世界に限らず、世の中にはステータスというものが存在する。
ステータスは消費者の選択を左右し、あらゆる市場に関係する。恋愛市場も同様だ。
なんらかに帰属する以上は、誰にでも無意識の強制がはたらき、力学関係を比較で捉える。
アーロンがみたところ、ホイッスラーは最も高いステータスをもっている。
そんな彼がめずらしく恋をしたという。下手をすれば初恋だと。
自信をもて、その誠実さが伝われば成功は約束されたようなものだ、と告白を後押しした。
事実、彼と付き合いたいやつは星の数ほどいるはずで、そのジョアンナという女もセークエンス学園に籍を置いている以上、例のように惹かれずにはいられないはずだ。
さっそく放課後デートに誘ったらしい。決まったら紹介してくれと伝えた。そして、クラブ活動が終わり、携帯端末を眺めているとひとつのメッセージが送られた。
ホイッスラー:いますぐ部屋にきてくれ
デートはどうなったのか、別でなにか起こったのか聞いても返答はなかった。いったいなにがあったのか。
アーロンは自転車を走らせながら、ホイッスラーのいる高層マンションへと向かう。巨大な駅が近いため、人混みに苦労する。ボンボン野郎め。金髪をかきあげるアーロン。
到着だ。パスを持たないのでインターホンを鳴らす。警備員に確認を受けると鉄格子の外門が開き、木々のある小道を抜ける。エントランスを顔パスで通る。受付のガードマンとはすっかり顔なじみだ。
エレベーターを待つ。23を押す。だだっ広いエレベーターが相変わらず早い。降りるとすぐにある部屋があいつの根城だ。最上階の景色はいまでも感動する美しさだ。もう少し見ていたかったが、緊急の要件があるため諦めて、インターホンを鳴らす。来ない。応答もない。
まさかと思い、通路に駆け出す。見渡している横で扉が開いた。
「ああ、ありがとう。早かったね」
それはたしかに聞きなれた声であったが、わずかな陰りが見えた。
急遽、十年越しの友人、アーロンを呼んだホイッスラー。来客にはお茶を出すのがポリシーだが、珍しく、座ってほしいと促すだけだった。アーロンは椅子に座る。
「それでデートは?できたの?」
水を飲みながら尋ねる。
「できたよ、それはね。いや、ね。ううん、つまりだ」
どこか調子がおかしい。こんな会話に詰まることあるか?
「好感触だった?」
「うおおおお、ああぁ、くっそおおおお」
突如ベッドに項垂れたホイッスラーを見たアーロンは驚いた。こんな荒れ狂う姿は見たことがない。
「おまえ、え?まさか。ウッソだろ!ホイス?」
「!!!!!!!」枕に顔を当てて叫びをミュートするホイッスラー
「え?ダメだったの?なんで?緊張しすぎておしっこ漏らしちゃった?」
アーロンが煽る。刹那、枕が顔を吹き飛ばした。
「漏らしてない!」赤い跡が付いた顔で主張する。今更ながら、カメラの準備をするべきだったと後悔する。これで一生いじれる。
「というか最初で告白までいったってこと?案外、アクティブなんだな。それとも童貞だから距離感間違えたとか?」
ホイッスラーは拳を握りながら、口を開いては閉じた。反論できないのを見たアーロンは愉快になっていたが、遅れて憐憫がこみ上げてくる。
「……まあ、諦めんなよ。こっからだろ?なぜ失敗したか向き合って、つぎに繋げればいい」
乱したままの服装で荒れたベッドに座るホイッスラー。息を整えて言い訳を始める。
「そもそも、もっと準備する予定だったんだ。彼女の出身地であろう地場もののジュースも用意していたが、邪魔に会ってそのままいった。しかも、待たせてしまった」
「遅れるのはまずいだろ。何時だったの?」
アーロンはグミを摘まんだ。
「そもそも決めて居なかった。放課後に現地集合だった。いま思えばそれもよくない。17時半とかにするべきだったが、頭の中が計画でいっぱいになってしまい、内容に欠けてしまった」
「そもそも、いくとき邪魔にあったってトラブルにあったのかよ」
「ゲオルグの連中だ。あいつ、誰からか食堂の一部始終を聞きつけて、探りを入れてきたんだ」
「ああ、サッカー部の。なにかと対抗心もっているけど、そんな面倒なやつだったんだ」
「しかし、遅れたのはいい。それ以外は最後までうまくいったと思っている。問題は断られたという……ああああ」頭を抱えて悩む彼を見て、肩を叩くアーロン。
「なんて返されたの?最低!とか、無理ですとかあるじゃん」
「……ええ、マジ無理……って感じ」
アーロンから終わったなという目で見られる。
「そ、そうか!とりあえず焼肉にでも行こうホイス!奢るよ今日は!」
「魚がいいな………白身の刺身が……」
背中を強く叩かれながら連行されるホイッスラーであった。
トイレに籠るとどのように脳は変化するか?




