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白髪の写真家と大羊の徒たち

人生とは永遠の失望との格闘である。常識はつねに先駆者の足取りを掬おうとする。負けるな、流れを変えろ。

 夕闇が学園を包む。烏が闇から千切れるように飛び立つ。

 ロドリックは左手で胸元まで伸ばした白髪をいじっていた。トリートメントをサボっているものだから、毛先はばっさばさである。自分を被写体として考えたことがないため、美意識の高い“大羊の徒”でも浮くくらい見た目に無頓着である。ただ、写真集を年に数冊だすという圧倒的な実績と評価に依って、“大羊の徒”入りを許されていた。

 

 ロドリックは会議室の一室に入る。今回は放課後を使って、学園祭の大枠を決める必要があるのだ。


 少し経つと、大羊の徒たちがやってきた。

「ロドリック座長、こんにちは」

 赤髪をたなびかせた男がはじめに入ってきた。

「やあハンス」

「久々に来ましたよ……二次会の店はすでに予約していますから、あとでみんなで行きましょう」

 彼はつねに調味料を持ち歩き、調理部を私物化している美食家である。たまに塩を舐めてはブツブツ呟く変人だ。


 つぎに灰色のマッシュヘアの男が入ってきた。いつも水を持ってきている。

「だから、この水はマジで料理にもいいんです。此の産地の水はそれこそ化粧水の原料にも選ばれているのですよ…………あ、ロドリック先輩、どうぞ水です」

 彼は“水の美”という席札のある場に座った。彼の名はジャンといい、いつも理想の水を求めて各地を飛び回っている。彼の持ってくる水はとにかく特徴的だ。いつも水を用意してくれるのでなにかと重宝する。


「おい、ここ殺風景すぎるだろ。家からオブジェでももってこようか?ああん??」

 ゴールドのアクセサリで全身を固めた黒髪の大男が入ってくる。グスタフは金持ちの御曹司で金に投資をしている。

「グスタフの趣味が入るとおかしくなるから駄目だな」

 ハンスが笑った。


 最後に“化粧の美”という座席に女性が座った。制服ではなく、白のドレスにつばの大きな白い帽子をかけている。

「ロドリック?以前お渡ししたトリートメントを使わなかったようですね?」

「ううん、あれは髪がとぅるとぅるになるけど、時間がかかるからねええ」

「いいじゃねえか、リリアンヌ。これがロドリックらしさってもんさ」

「グスタフ」


 コの字型のテーブルに5名の太陽の徒が座った。“大羊の徒”はもともとあった学年議員と役員会を統合した組織であった。しかし、10年ほど前に学園長が変わったことで学園の代表役としての“美しさ”や学園の将来を牽引する“行動力”を要求されるようになってからは、狭き門となっている。大羊の徒からの推薦で選定されるため、3年目でようやく入れたというものも少なくない。ロドリックは数少ない1年次からの入会者であった。そのため、“大羊の徒”の実質まとめ役を任されていた。


 現在の“大羊の徒”は僅か9名で運営されている。うち2名が休学しているため、実質7人体制である。各々、芸術活動や啓蒙活動に勤しむため、会合の集まりは悪い。それでも、学園祭は年に一度の大きなイベントなため、彼らの多くがこの時期に時間を設けて集うのだ。今日の議題のひとつに、ホイッスラーの参加に対するSIC内容の調整がある。


「双子はこないらしいな」

 ハンスがつぶやく。

「あのチビふたりは登山のために休みだって」

 ジャンが足を組みなおす。


「今年のSIC参加者数はホイッスラーの参加表明を受けて増えている。予選を設ける必要がある」

 ロドリックが前年度比で参加希望者数を表示する。

「投票権利者に推し枠投票と通常枠投票の権利を与え、本選から多角的なイケメン指数を競わせるのは如何だろうか」

 3年のグスタフが今までのSIC事例を参照して提案する。

「去年のどれだけイケメンを作れるかコンテストも良かったと思う」

 同じく最高学年のリリアンヌが提案する。


「3日間の学園祭で本選用の枠を設けよう。映画部や一学年がやる演劇との兼ね合いが必要だ」

「ホイッスラーが出るのなら、去年以上に人の導線を整える必要がある。学園祭までに決勝まで進めるという手もある」

 ロドリックがコップの水を飲み干す。

「水どうぞ」

 ジャンが新たなペットボトルを渡す。

「ありがとぅ!吾輩はかわいい後輩をもって恵まれているなあ!」


「わたくしが思うにホイッスラー対その他にして、どちらが学園生徒を幸せにできたかを競わせるのはいかがでしょう」

 リリアンヌは帽子のつばを上げた。

「どちらがセークエンスを湿らせることができたか、ということですね?」

 ジャンが手元の水を飲み干した。

「ああん?わかんねえよ新入りボウズ」

「グスタフ先輩、そのゴールド眩しいんでキャストオフしてくださいよ」

「ああ?校則なんて殆どなくなっちまったからなあ?漆黒派には感謝だな」

 グスタフはポマードで前髪をなであげた。その手首にはゴールドが巻き付けられている。

「塩味が欲しいな。イケメンは美食と同じ。いかに見る者を幸せにしたかが問われるのさ」

 ハンスはチーズのアソートをフォークで刺して次々に頬張る。

「今晩は和食の店を選択しています。密談にも最適な完全個室です。7名予約だったのを双子さんがない分5人になってしまいましたが、仕方がありません」

「情報部に投票システムを依頼しよう。前回よりも手厚い体制にしてもらうよう、予算を割くんだ」

「では、あと3つほど議題を出しますので方針を決定し、お開きにしましょうか」


 ホイッスラーとアーロンは奇しくも完全個室の和食屋にいた。隣の個室に“大羊の徒”のメンツが入っていったのを聞いたホイッスラーはロドリックに連絡を入れて喫茶で合流することになった。

「デカい金髪ロングの男…………ふうむ、あなたがアーロンさんですか?」

「ああ、はい。ロドリック先輩ですね。はじめまして」

 金髪をゴム紐でまとめながら返事をするアーロン。


「学園近くにこんなお洒落な喫茶店があるとは知りませんでした。リリアンヌやハンス君も好みそうです。教えてくれてありがとう。ホイッスラーくん」

 ロドリックは丁寧にお礼を伝えた。


「それで学園祭の内容は決まったのですか?」

 アーロンが問う。

「今回、参加を表明したことで学園側は大いに盛り上げる方針になっている。大羊の徒でもホイッスラーが参加するからには面白いものにして成功させようと奮起している。当然、吾輩もね」

 SICの覇者のカップルは特権としてわずかな時間だが、学園にある城の最上階へ出入りが許される。ここで過ごしたものたちは必ず結ばれているらしい。ホイッスラーはなんとしても“城”入りをしたかった。

「吾輩は学園祭の運営として競争上の公平を守る必要がありますぞ……ふくっ、ひひっひ。たまらん、吾輩のレンズが未来を切り取りましたが、いいものになりますよお」

「いったいどんな勝負形式にするつもりだ?ホイッスラーに不利になる真似は止してほしい」

 アーロンが問いかける。

「ふむう、どうせすぐに発表するからいいでしょう…………」

 ロドリックは鷹揚に答えた。

「今回の学園祭は影響力をテーマに設計しました。SICの内容は以下の通りです…………」

 内容を聞いたホイッスラーたちは呆気にとられた。

「嘘だろ、イケメン関係ないじゃないか」

 アーロンが文句をいう。

「イケメンとはそのように在るべきと大羊の徒内で決まったものですから。内容を聞いて自信を無くしましたか?」

 ロドリックはホイッスラーに問いかけた。


「いや、絶対に私が勝つさ」

 ホイッスラーは珈琲に砂糖を溶かして、飲み干した。


 翌日、昼の放送にて学園祭の内容が説明された。

誰もが孤独、されど幸福。孤独とは引き算の美なのです。

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