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語り部と白の衝撃

春来たれり!おお!汝は未来に咲き誇る。

 女装写真集を作るために写真部員を紹介してもらいにきたノワールは、下着姿のホイッスラーとビアンカを見て、大いに衝撃を受けていたが、ふたりの雰囲気を捉えて、すぐに邪推を晴らした。


 ビアンカを帰らせてから、シャワーを浴びるホイッスラーを待つノワール。

 セークエンス学園写真部の部長ロドリックは“大羊の徒”の一員であり、自身もモデル活動をする傍らで写真コンクールに応募を続ける、美の要ともいえる存在のひとりであった。尤も、ホイッスラーが入学するまでの話だが。ロドリックの両親もカメラマンと写真家であり、まさに英才教育を受けている。昨年の学園祭では対物部門と生き物部門での写真コンクールを開いて、黄昏るホイッスラーを盗撮した写真で話題を集めたという。


 そんなロドリックは美への傾倒によってホイッスラーに付きまとい、忌避されるに至っていたものの、ホイッスラーも学ぶところはあると一定の敬意はあるようだ。


 女装がバレたからには使えるものは使おうというノワールのしたたかな点にホイッスラーは美しさを感じていた。シャワーの音に包まれていると頭が冴えてくる。ラジオの尺もなにも知らないが、ジョアンナにアピールするチャンスだ。彼の頭は構想でいっぱいであった。


「これ、ロドリックの連絡先、話し通しておくよ」

 あっけなく得られた報酬にノワールが踊り出す。喫茶店ではあんなにクールなのに、ギャップで笑ってしまうホイッスラー。


「今年は去年できなかった分、いろんな人と関わってみようと思うんだ」

 急な言葉にノワールは動きを止める。

「やっぱり学生寮の事件?」

「いや、そのレベルの話はじゃれ合いみたいなものだよ」

「僕らが力不足ばかりに学生寮の秩序が保てずに……やはり、消灯時間の延長は良くなかったと思う」

「一応、学生寮の連中って、優秀な学生が優遇されて住むことができているのにね」

「知性と性欲を抑える力は別なのかもね」


 翌日、昼になるまで緊張もなく過ごせたホイッスラーだが、直前になって、未知への不安が両手を伸ばして立ちはだかる。放送室は学生の教室が集まる棟ではなく、教師や総務などの権能が集まる教塔と呼ばれる建物にある。時間通りに放送室に向かう。


 部屋は控室になっており、ゲオルグは奥の放送室にいるらしい。扉をあける。放送室で台本を見つめるゲオルグ。サングラスを付けている。音声配信で恰好付けすぎやしないか?目線に気が付いた彼が遠くから会釈をする。


「よお、ブラザー。今日は良い放送にしよう。たまにはグラウンドじゃなくて電波上を駆け抜けるってのもいいよな」


「先週のこの枠を覚えていないんだけど、わたしは話すことあるの?」


「最初の10分はおれの部活やクラブを語る。あとで最近仲がいい枠としてホイスにパスする。なんでもいいよ。エピソードとかやっていることとか、趣味とか…………おまえ声良いんだから羨ましいわぁ。水だけ切らすなよ」

 ゲオルグはペットボトルを弄びながら台本に線を走らせている。こちらの席にも同じ水が置かれていた。


「そんなにしゃべる気ものなのかい?緊張してきたよ」


「バッカ、芸人のトークを繰り広げるのとは違うからな。延々とくだらない話題を行き来すればいいんだよ。ラフにいこうぜ……ほら、もう10分前だ。とりあえず、控えの方で食って来いよ」

 こちらのビニール袋を指さすゲオルグ。たしかに時間がなかった。


「じゃあ、場だけ温めておいて」

 任せろ!と言わんばかりのガッツポーズで返される。


「今回のゲストは新しくサッカー部部長になる魔王ことゲオルグ・フェリペさんです。去年の学園祭で魔王役としての演劇が絶賛でしたね!それでは、挨拶お願いします」

 司会役が話す。おさげが可愛い女子生徒だ。

「こんにちは~ゲオルグです。うまい飯食ってるかおまえら?今回は今一番イケている男が来てやったぞ~」ゲオルグが大袈裟にポーズを決める。この素材を活かすべく、放送室はライブ配信をすべきだ。

「簡単な自己紹介をお願いします」

「サッカー部とメンズクラブやってます。セークエンスで男らしくイケている集団を目指しているから、興味あるやつ、チェックしてな」

 しゃべり慣れているゲオルグはなんなくラジオをスタートさせた。

「いやあ、はじめて来たんだけど。すげえ、放送室ってこんな機材あるんすね」

「意外と狭いんですよここ~」

「普段外にいると狭いところが新鮮だわ」

「そういえば、サッカーでは全国出場経験もあるとか……」

「そうそう!おれが決定打を決めたやつな!去年の全国は交代要員で一応出れたんだけど、早々に負けちまったから、マジで寒かった~!ぜってえ今年は優勝な、監督聞いている?おまえら聞いているよな!?」

「熱いですねえ、ウチはスポーツも強いですが、優勝はなかなかないので期待しています!」

「ありがとう!今年も全国いくから、ぜひ応援に来てほしい」

「はい!……ところで、ゲオルグさんは趣味とかってありますかあ?」

「うーん、ゲームとか全然するし、漫画や映画もオフの日は見まくっている。あとはトレーニングかな?」

 携帯端末の画面をみせるゲオルグ。色んなアプリが入っていた。

「運動全然しないから走るだけでもすごいと思っちゃいますう」

「あはは、こんなかわいい子がいたら、おれたち集中できないかな……やべ、こんなこといってたら彼女に怒られる」髪を撫であげるゲオルグ。

 部屋が笑いで包まれる。ホイッスラーは弁当を始末するべく、隣の控室でメシを掻きこんでいた。


「前回に引き続いて、友情出演があると聞いているのですが~最近仲がいい人を呼んだとのことで!」


「そう。そして、この学園のトップ2が集まるわけだ……いでよ!盟友ホイッスラー」


「なんと!昨年モテ王のホイッスラーさんが来ています!超特大ゲスト、緊張やばい。どうしよう」

「!」

 呼ばれたため、あわてて水を飲みこんで入室する。事前にトイレ行っておくべきだったと後悔する。


 黒い機材が敷き詰められた独特の空気に白のテーブルと簡易な椅子が四つ。奥にゲオルグ、手前に女子生徒が座っていた。手招きされてゲオルグの横に座る。台本も置かれているが、ゲオルグは全部を壊す男なので鼻をかむ程度の役割になるだろう。


「や、やあ。ホイッスラーです。最近ゲオルグと仲良くさせて貰っています」

「かたいぞホイス。いつものノリで来いよ!」

 ゲオルグが前髪をかき乱そうとじゃれてくる。むしろ、そちらが溶け込みすぎである。

「いつも遠巻きにしかみれないので感激ですう。近くだと本当にかっこいい……」

 両手で顔を覆った女子生徒がゲオルグの方に向き直る。

「直視できないからって、おれに逃げるの止めない?傷つくんだけど」

 ゲオルグがいう。

「ゲオルグが癒しか。逃げられると悲しいなあ」

 悪戯心が発動し、接近するホイッスラー。

「きゃあ!好きになっちゃう」

「すでになっているよ」

「なんなの?おれゲストだよね」

「わたしを呼ぶから……」

「うお!控室にめっちゃ女子が来ている。おおい、おれのファンは手を振って~……いねえな!」

窓越しに犇めく大勢。もっとしっぽりラジオできるのかと思っていたが甘かったようだ。


「では、いつもの質問コーナー入りまあす!あらかじめゲオルグさんへの質問を募っていましたが、緊急でホイッスラーさん宛ての質問が殺到しています!どうしましょう」


「ホイス優先でいいよ。いいのがあればおれも答えたいわ」

「せっかくのゲオルグ回に?いいのかな」


「好きな人とかいるの?」

 キラーパスを意識の足先でひっかける。やつの眉毛が片方吊り上がっている。やったれみたいな顔が憎らしい。

「いるよ。ゲオルグは?」

「いるに決まってんだろ!」

 携帯端末の女性を見せてくるゲオルグ。それは彼女なんだよな?


 控室の方がざわめく。


「その子は学園(ここ)にいるの?それとも外?」

 ゲオルグが掘り下げてくる。外で聞かれまくるよりはいいだろう。

「同学年のひとだけど、振られちゃってさ」

 ここで敢えてネガティブなエピソードを交えることで周囲に存在する壁を壊しにいったのだろう。あるいは自棄になっていたのかもしれない。もしくはサービス精神が出たのだろう。

「「ええええ!!」」

 息の合った驚愕の声にホイッスラーから笑みが漏れる。

「いつの話!?」

「わりと最近」

「誰ですか?」

「さすがに迷惑をかけたくない」

「耳打ちで教えてください」

「いいけど、きみあとで大変だよ」


「そういえば、学園祭の開催が最近発表されましたが、おふたりは何をしたいとか決まっていますか?」


「いやあ、今年は売店だよね?去年のハンバーガー屋はすごかったね。ゲオルグのところはなにをややる予定なの?」


「スタジアム借りてフットサルとか大会開くのは知っているから、そこでジュースとかアイス売ろうと思う」


「魔王はもうやらない?」

「やらない」


「モテ王連覇は?」

「狙うものじゃない。そもそも意味がない」

「おまえ、割と盛り上がるアンケートになんということを……ということで前年度100位以下のおれに投票を頼むぞ、みんな」


「ホイッスラーさんは去年のセークエンスイケメンコンテスト、SICに不出場でしたが、今年はなにか出ようとかありますか?」


「そうだね。SIC出ようと思うよ」


「うおうぇ、っ!?失礼しました。」

「そりゃ出ますよ奥さん、こいつというやつは。なんせ“城”行きを狙っていますからね!」

 急に敬語になるゲオルグ。

「そういうことですか!では本日の答え合わせはその日にできるわけですね」

「そんな、勝ったと決まったわけではないのに」

「ほとんど勝ち確定だろ……しかし、“大羊の徒”はひねくれていそうだから勝ちレースにならないようにしてくるかもな」

 ゲオルグがサングラスをスッと構える。


「よし、おれもSIC出る。ここで出れば、一気に有名で人気者だ」


「サッカーはいいのかよ」


「時期が予選とかだから、余裕。サボる気はないぞ!?なによりもスポーツってのは強ければモテるが、モテても強くなるのよ。おれが2倍モテれば2倍強くなるわけ。日々の練習は当然としてな」


「SICと売店で今年は忙しくなりそうだね!」


「SIC絶対テコ入れくるからそれが怖いね」


「おふたりともありがとうございます。セークエンスイケメンコンテストへの参加も聞けたということで、最後に一言ずつもらってもいいですか?」


「ありがとう。ゲオルグのおかげでなんとかできたかな。あとSIC投票もよろしくお願いします」


「みじかっ、それでいいのか!ガハハ、あらためてサッカー部への応援とメンズクラブ活動、あとゲオルグをよろしくな!!ばーい」



 放送部員たちが必死に女子生徒を隔離しているなか、駆け足で廊下に出ると見知った顔がいた。

 肩甲骨まで伸びた灰色の髪。縁のない眼鏡をかけたロドリックが一眼を構えていた。

「パシャリっ……うほほ、良い!イイ!!イイねえ、その顔ッ、眉目秀麗な爽やかイケメンとワイルドな肉食獣の驚いた顔ッ、ふへへ、感情を切り抜いたぞ!吾輩のコレクションにしておこう」


「なんなん、この人?」

 ノリの良いゲオルグも思わずたじろいでしまう。

「写真部のロドリック前部長。“大羊の徒”にもいる」

「ええ、あそこ申請して拒否されてんだけどっ、こんなのが入れるのかよ!」

 先輩になんていいようだ。しかし、この変人をみては当然なのだろう。


「くう、ホイッスラーよ、あの女の子、ブラックちゃんか?たまらんのに男とは騙しおったな?」

「被写体として優れていればなんでもいいといっていたくせに?」

「いや、口説いた子がじつは付いていたというのはおかしいねええ?」

「そりゃ、ロドリックと一緒に撮影で女子をいかせるわけないでしょ」

「キミぃ、吾輩をなんだと思っているのかねえ」

「変態」

隙間のない返答にロドリックは開口した。

「よお、変態」

 ゲオルグが畳みかける。そんなのだから、先輩らと喧嘩になるんだぞ。


「ぐふう、変態といわれようと構いませぬ。吾輩には吾輩のレンズとピントがありますゆえに」


「SICに出るらしいですね。嬉しいことです、本物が競い合わなければ本質は遠ざかるのですから……イケメンなどという蒙昧なレトリックで取り繕っていますが、これは“人がどれだけ美しく在れるか”を競う手段なのです。吾輩は美しいものをみるだけで小便大便も忘れてカメラを構えます。そうベットのなかでも……常に求めているのですよ」


「ロドリック、ゲオルグは長話が苦手なんだ」

「というよりはこういうマイペースな長話に傾聴できないんだな」


「ふふん、我々“大羊の徒”は今年のコンテストを歴代最高にすると誓おう。そして、写真部のコンテストも最高にするぞ!するぞ、するぞお!」

 興奮して腕をブンブン振り回すロドリック。突如、カメラを構えて外の風景を取り出したので、無視して戻るふたりであった。


 放課後。ゲオルグが後輩から魔王出演を依頼されたころ、ホイッスラーは詮索の嵐に苦労することになる。ロドリックはカメラを持ったまま、夕日撮影スポットを求めて彷徨っていた。


楽あれば苦あり

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