最終話 ふたりの英雄に捧ぐ唄
レオンの所有していた財産は、戦死した場合、すべてセレナに渡るはずだった。
セレナの財産もまた、同じ条件でレオンに渡ることになっていた。
生きているうちに、二人は話していた。
もし、二人とも死んだらどうするか。
そんな話をするには、あまりにも穏やかな夜だった。
冗談めかしていたわけでもない。
深刻だったわけでもない。
ただ、静かだった。
そして、結論は最初から同じだった。
――全部、孤児院に。
出身の孤児院。
名前も変わっていない、あの場所。
誰かに感謝されるためでも、
名を残すためでもなかった。
生き残れなかった自分たちの代わりに、
生き延びる誰かがいればいい。
それだけだった。
結果として、
孤児院には、桁違いの金が流れ込んだ。
屋根は直され、
壁は補強され、
子どもたちの靴は揃い、
食卓に、余白が生まれた。
冬を越えられなかった子はいなくなった。
孤児院は、救われた。
だからこそ、
二人の墓は、孤児院の庭に作られた。
大きな墓石が、二つ並んでいる。
英雄の称号も、戦果も、階級も刻まれていない。
名前だけが、並んでいる。
それを見て育つ子どもたちは、やがて聞く。
「この人たち、だれ?」
大人は答える。
「この孤児院を守ってくれた人たちだよ」
やがて、歌が生まれた。
二人を讃える歌。
戦場で勝利を重ね、
多くを救った英雄の唄。
旋律は、やさしかった。
歌詞は、前向きだった。
「怖くても、進めばいい」
「誰かのために立てば、意味がある」
孤児院では、その歌が日常になった。
朝に。
夕方に。
眠る前に。
子どもたちは、その歌を口ずさむ。
安心した顔で。
――それが、残酷だった。
もし、二人がこの光景を見ることができたなら。
孤児院で歌が響き、
子どもたちが笑っているのを見たなら。
きっと、
後悔はしなかっただろう。
世界は、確かに救われた。
人々は、前を向けた。
孤児院は、続いていく。
その中心に、
二人の不在だけが、静かに残っている。
二人のための歌は、今日も唄われる。
それが――
二人のもとへ届くだろうか。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
本当に二人が診療所を始めた世界線の話も書いていきます。よろしくおねがいします。




