第58話 北西ノルデン戦線到着
第八部隊が北西ノルデン戦線に到着したのは、日が高くなりきる前だった。
遠くからでも分かる。
空気が違う。
土の匂いが濃く、風に混じる音が多い。
馬車が止まると同時に、部隊は静かに展開する。
周囲の警戒、装備の確認、配置。
誰も指示を待たない。
セレナとレオンは、そのまま前線司令部へ向かった。
戦略を立てるための参謀用天蓋。
外より一段、空気が張っている。
「到着、ご苦労」
迎えた参謀が地図を広げる。
敵の布陣。
味方の配置。
補給線の状況。
セレナは腕を組み、黙って聞く。
レオンは一歩後ろで、魔法通信の記録と照らし合わせている。
「――以上が、現在の戦況です」
一通りの説明が終わる。
セレナは、地図を見下ろしたまま言った。
「……思ったより、いいわね」
「はい」
レオンも頷く。
「敵の主力はすでに削れています」
「中央の押し合いが続いていますが、崩れかけています」
「持久戦になると思ってたけど」
「短期で終わる可能性もあります」
参謀が言葉を挟む。
「そこで、第八部隊には――」
地図の中央を指す。
「中央突破をお願いしたい」
「最も重要な地点です」
セレナは即座に答えた。
「分かった」
迷いはない。
天蓋を出ると、すでに第八部隊は整列していた。
空気が、ひとつにまとまっている。
セレナが前に立つ。
「集合」
一言で、さらに引き締まる。
「戦況は、悪くない」
視線が集まる。
「敵は消耗している」
「こちらは整っている」
一拍。
「だが、油断はするな」
声は低く、強い。
「有利なときほど、判断を誤る」
「一瞬の気の緩みで、人は死ぬ」
間を置く。
「だからこそ――」
はっきりと言う。
「今日の仕事は、派手に勝つことじゃない」
「確実に、崩さず、全員で戻ることだ」
剣を持つ手に、力が入る音がする。
「第八部隊は、中央を任される」
一番重要な地点。
一番崩れれば終わる場所。
「ここを押し切れば、戦線は制圧できる」
セレナは、全員を見渡す。
「やれるな、第八部隊!!」
一瞬の静寂。
次の瞬間。
「――おおっ!!」
声が上がる。
一人ではない。
部隊全体の声だった。
セレナは短く頷く。
「行くぞっ!」
その背後で、レオンが一歩前に出る。
「治癒と増強は、常時回します」
「無理をする前に、合図を」
それだけ言って、下がる。
第八部隊は動き出す。
中央へ向かって。
戦地の空気が、さらに張り詰める。
ここが正念場だ。




