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第51話 第八部隊

 訓練が始まった。


 二人の目には、もう迷いがなかった。

 覚悟が決まった、というより――決めてしまった目だった。


 どうせ、戦果をまた持ち帰らなければいい。

 それだけのことだ。


 セレナはそう考えていたし、

 レオンも、同じ結論にたどり着いていた。


 無理をしない。

 突出しない。

 結果を出しすぎない。


 そうすれば、また待機を命じられる。

 待機兵になる。

 それでいい。


 そうすれば、

 また、あの日常に戻れる。


 それだけで、十分だった。



 訓練期間は、半月。

 異様なほど短かった。


 即席で編成された部隊に、

 細かな理想や完成度を求める余裕はない。


 必要なのは、

 息をそろえること。

 判断の癖を合わせること。

 そして何より――死なないこと。


「間合いを詰めすぎないでください」

「前に出るのは三歩まで」

「退く判断は、私が出します」


 セレナの声は、落ち着いていた。

 張り上げることもなく、

 感情を乗せることもない。


 だが、全員が聞き逃さなかった。


 それが、

 団長の声だったからだ。


 集まった兵たちの目は、明るかった。

 期待があった。


 二人の英雄のもとで戦える。

 それだけで、生き残れる気がする。


 そんな、無言の信頼。


 セレナはそれを、正面から受け取らなかった。

 期待を背負わない距離を、意識的に保っていた。


 レオンも同じだった。


「左、動きが遅れています」

「後列、魔力配分を落としてください」

「そこは、無理をしないで」


 冷静な声。

 静かな指示。


 勝つための動きではない。

 目立つための采配でもない。


 死なないための配置。

 崩れないための選択。


 それだけを、淡々と積み重ねていく。


 兵たちは、気づいていない。

 この訓練が、どれほど抑えられているかを。




 訓練の最中、

 次に派遣される戦線が通達された。


 地名を聞いた瞬間、

 セレナの思考が、わずかに止まった。


 北西ノルデン地域戦線。

 ――孤児院があった、あのあたり。


 レオンも、同時に気づいた。


 視線が一瞬、合う。

 戦況が悪化していたのか?

 どちらも、何も言わなかった。


 戦況の説明が続く。


 落ち着いている。

 むしろ、優勢。

 大きな動きはない。


 訓練目的の派遣である、という注意書き。


 それを聞いて、

 胸の奥で、ひとつ息を吐いた。


 悪化している戦線ではない。

 無理をする必要はない。


 それなら――大丈夫だ。


 そう、納得できた。


 正直に言えば、

 悪化している戦線で活躍がなければ、

 「本当に使えない兵士」としての待機命令になる可能性もあった。


 だが、今回は違う。


 今回は訓練だ。

 でも戦果を出す必要もない。


 それでいい。


 それが、一番安全だった。



 夕方、訓練が一区切りついた。


 兵たちは疲れていながらも、

 どこか満足そうだった。


 大きな事故もなく、

 致命的な失敗もない。


 それだけで、

 十分に「うまくいっている」と言える。


 セレナは全体を見渡し、

 小さくうなずいた。


 レオンも同じように、

 記録用の紙を折りたたむ。


 今日も、問題はなかった。


 それが、

 今は何より大切だった。


 夜になれば、

 きっと、また普通の時間が来る。


 食事をして、

 少し話して、

 眠る。


 待機兵に戻った時のことを、セレナは少し考えていた。

 なんだか、気分がほどけていた。

 

 どうせまた、待機に戻る。


 そうすれば――


 また、あの生活が戻ってくる。


 なによりもあのレオンの弱体化魔法が強力すぎた。

 団員の一人にかけたのをみたけど、団員は身動きすら取れずに、驚いていた。


 なるべくいつもの日常に戻しながら、訓練をこなしていこう。

 ふたりはそういう空気に戻っていった。

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