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第39話 世界は明るいものよ!

 夜は、静かに降りてきた。


 灯りを落とした部屋で、セレナは横になっている。

 すぐ隣には、レオンの気配がある。


 いつも通り。

 何も変わらない配置。


 それなのに。


 ——ばかみたい。


 天井を見つめながら、セレナは思う。


 この関係が、ずっと続くと思っていた。

 疑いもしなかった。


 同じ家に帰って、

 同じ場所で眠って、

 同じ明日を迎える。


 それが、当たり前になる未来を。


 ——何の根拠もなく。


「……」


 寝返りを打つ。

 シーツがわずかに擦れる音。


 それだけで、胸の奥が温かくなる。


 ——やめて。


 そう思うのに、

 この夜が、幸せだと感じてしまう。


 それが、情けない。


 独りだと決めたはずなのに。

 期待しないと、決めたはずなのに。


 それでも、

 こうして二人で眠るこの時間を、

 手放したくないと思ってしまう。


 ——最低。


 自分に向けて、そう吐き捨てる。


 相棒として。

 親友として。


 それだけで十分だと、

 胸を張って言える人間でいたかった。


 なのに。


 この温度に、

 この距離に、

 救われてしまう自分がいる。


 それが、怖い。


 目を閉じても、

 意識は冴えたままだった。


————————————————


 レオンは、眠っていなかった。


 呼吸を整え、

 身動き一つせずに横になりながら、

 頭の中では、ずっと考えている。


 ——おかしい。


 昨日から、ずっと。


 セレナの様子が、微妙に違う。


 声の調子。

 返答の間。

 視線の置き方。


 どれも決定的ではない。

 けれど、確実に「いつも」とは違う。


 戦場での緊張とも違う。

 疲労とも、負傷とも合致しない。


 圧力。


 そう呼べるものがあるなら、

 外からかかっているはずだ。


 管理局か。

 命令か。

 責任か。


 それとも、

 自分の知らないところで、

 何かを言われたのか。


 レオンは、記憶を辿る。


 訓練場。

 衛生兵たち。

 会話。


 ——何か、見落としている。


 セレナは、弱音を吐かない。

 抱え込むタイプだ。


 だからこそ、

 表に出ない変化ほど、危険だと知っている。


 ——圧をかけているものがあるなら。


 それを、取り除かなければならない。


 原因が制度なら、制度を。

 人なら、人を。

 状況なら、状況を。


 それが、

 自分の役割だと、レオンは思っている。


 隣から、微かな寝返りの気配。


 セレナは、まだ眠っていない。


 その事実に、

 胸の奥が、少しだけ重くなる。


 ——早く、理由を見つけないと。


 このままでは、

 セレナは、静かに削れていく。


 レオンは、目を閉じたまま、

 意識だけを研ぎ澄ませていた。


 この夜が、

 彼女にとって、

 少しでも休息になることを願いながら。





 次の日は、休暇だった。


 予定はない。

 命令も、訪問者もない。

 本来なら、二人でだらだら過ごすだけの一日だ。


 朝の光が部屋に入るころ、セレナはすでに起きていた。

 着替えを済ませ、剣も持たず、外套だけを羽織っている。


「……ちょっと、外を歩いてくるわ」


 声は平静だった。

 いつも通りに聞こえるよう、意識して整えた声。


()()()?」


 レオンが聞く。


「ええ。すぐ戻ると思う」


 理由は言わない。

 言えない。


 家の中にいると、だめだった。

 何もしていなくても、胸の奥がざわつく。

 考えないようにしても、考えてしまう。


 ——このままだと、泣く。


 それが分かっていた。


 だから、外に出る。

 歩いて、音に紛れて、気を散らす。


 セレナはそれだけを考えて、扉を開けた。


「行ってくる」


 そう言って、振り返らずに外へ出る。


 ***


 扉が閉まったあと、

 レオンはしばらく、その場から動かなかった。


 ——おかしい。


 はっきりと、そう思った。


 休暇の日に、

 何も言わずに一人で出かける。


 それ自体が異常というわけではない。

 だが、セレナは違う。


 いつもなら、


「一緒に行く?」

「暇でしょ?」

「どうせなら二人で」


 そう言う人間だ。

 

 必ず()()()()()()()()()()()()()()でしょって、

 そういう風にいってくるのがセレナだ。


 今日は、違った。


 視線を合わせない。

 理由を作らない。

 そして——急いでいた。


 勘づかれないように動いている。


 その感じが、はっきりとあった。






 レオンの中で、

 いくつかの可能性が即座に並ぶ。


 疲労?

 違う。


 体調不良?

 違う。


 ——外部からの圧力。


 それしか考えられなかった。

 

 絶対に許さない。

 

 管理局。

 報告書。

 戦果処理の裏。


 あるいは、

 誰かが直接、何かを言ったか。


 セレナは、

 自分が原因の不安を、決して表に出さない。


 だからこそ、

 外から押された時だけ、こうなる。


 レオンは立ち上がり、

 上着を手に取った。


「……調べるか」


 小さく呟く。


 個人的な感情で動いているわけではない。

 少なくとも、本人はそう思っている。


 これは、

 英雄最高医として。

 相棒として。


 セレナに圧をかけている「()()」を

 排除するための行動だ。


 圧力をかけているなにかに怒りを向けながら。


 向かう先は決まっている。


 管理局。


 記録室。

 人事。

 通達履歴。


 そこに痕跡がなければ、

 次の手を考える。


 レオンは扉を開け、

 朝の街へと足を踏み出した。


 それぞれが、

 それぞれの理由で、

 同じ時間を離れて過ごし始めていた。





 通りを歩いているとき、名前を呼ばれた。


「……セレナ団長」


 一瞬、自分の名前だと認識するのが遅れた。

 足が止まり、ゆっくりと振り返る。


 第六部隊の――いや、一昨日レオンに告白していた衛生兵だ。


 制服は整っていて、姿勢もいい。

 戦場で見慣れた顔なのに、今日はやけに眩しく見えた。


「お、お疲れさまです。休暇中ですよね」


「あ、ええ……」


 声が、うまく出ない。

 喉の奥で何かが引っかかって、言葉が滑らない。


 沈黙を気まずく思ったのか、彼女のほうが先に話し出す。


「セレナ団長とお会いできてよかったです。

 あの……」


 一瞬、言いよどんでから、少し笑う。


「……仲、いいんですね。レオン様と」


 胸の奥が、ひくりと跳ねた。


「……まあ」


 絞り出すように答える。


 仲はいい。

 それは事実だ。


 でも、その次の言葉が続かない。


 ——仲がいい、だけ。


 将来を考えられるのは、

 あなたたちのほうでしょう。


 頭の中で、勝手にそんな言葉が浮かぶ。

 言った覚えも、言われた覚えもないのに。


 衛生兵は、少し困ったように、でもどこか納得した表情で続けた。


「ですよね。

 すごく……伝わってきます」


「……?」


「いえ、あの……変な意味じゃなくて」


 慌てて手を振り、続ける。


「私、一昨日……レオン様に告白したんですよ」


 心臓が、また一つ強く鳴った。


「その時も、はっきり断られました。

 でも……毎回なんです」


「……毎回?」


 思わず聞き返す。


「はい。

 他の部隊の衛生兵も、何人か……」


 少し言いにくそうにしながら、でも正直に言う。


「皆、同じ理由で断られてるって聞いてて」


「理由……?」


「ええ。

 必ず、こう言われるんです」





 衛生兵は、レオンの口調を思い出すように、少し視線を上に向けた。


 “セレナ団長との約束があるので”

 “セレナ団長と叶えたい夢があるので”

 “その将来を、途中で変えるつもりはありません”

 ……って」


 世界が、一瞬止まった。


 音が消え、風が止まり、

 目の前の光景だけが、切り取られたみたいに残る。


「……え」


 それしか、言えなかった。


 頭が、追いつかない。


「だから、皆言ってますよ。

 ああ、これはもう無理だって」


 衛生兵は、少し笑う。


「セレナ団長との絆、すごいですねって。

 正直……羨ましいです」


 ——私との、()()


 ——私との、()


 言葉が、胸の中で反響する。


 同時に、記憶が一気に繋がり始めた。


 告白された時の、あの口調。

 肯定も否定もせず、未来を断定しない話し方。

 誰にも期待を持たせない、あの距離感。





 ——ああ。


 そういうことだったのか。


 レオンは、

 最初から一度も揺れていなかった。


 将来を決めていなかったのではない。

 すでに決めていたから、断定しなかった。


 なのに。


 私は。


 何も聞かずに。

 勝手に想像して。

 勝手に絶望して。


 逃げた。


 自分の中だけで、

 全部を終わらせていた。


 胸の奥で、

 ばらばらだったものが、

 カチ、カチ、と音を立ててはまっていく。


 ——私との将来。

 ——私との夢。


 田舎の診療所。

 二人で生きる、あの話。





「……」


 言葉が出ないまま固まっていると、

 衛生兵が不安そうに声をかける。


「セレナ団長……?」


 その瞬間。


 セレナは、顔を上げた。


「ああ!」


 自分でも驚くほど、大きな声が出た。


「そうだ……そういうことだ!」


 衛生兵が目を丸くする。


「え、あの……?」


「絆!

 ええ、絆!」


 一気に息を吸って、吐く。


「教えてくれてありがとう。

 本当に、大事なことだった」


 深く頭を下げる。


「え、いえ……」


「じゃあ、また!」


 それだけ言って、

 セレナは踵を返した。


 歩く、ではない。

 走る。


 家の方向へ。


 胸の中で、

 希望が、夢が、未来が、

 一斉に息を吹き返していく。


 ——全部。


 私一人の勘違いだった。


 そう思った瞬間、

 世界が、色を取り戻した。


 セレナは走りながら、

 知らず、笑っていた。




 セレナが帰宅する。

 

 扉が閉まる音が、部屋の中にやわらかく残った。


「レオーン!」


 セレナの声は、いつもより少し高い。

 返事はない。


「あれ? いないのかしら」


 首を傾げて、部屋を見回す。

 靴はない。外套もない。


「……ふうん。どこか出かけたのね」


 その事実すら、今日はまったく不満にならなかった。

 むしろ、軽い。


「まあ、いいわ」


 セレナは迷いなく、ソファへ向かう。

 いつもの位置。

 いつもの角度。


 身体を投げ出すように横になり、

 片足をソファの外に放り出す。


 ぶらり。


 揺れる。


 ぶら、ぶら。


 ——今日は、揺れが大きい。


「あぁぁぁあああーーーーんんんんっ!」

 意味もなく、声が漏れる。


「私を置いて何してるのかしら?早く帰ってきなさいよ!」


 天井が、いつもより明るく見えた。

 窓の外から聞こえる笑い声が、やけに澄んでいる。


 世界が、色づいている。


「……ふふ」


 小さく笑う。


 胸の奥で、じんわりと広がる感覚がある。


 レオンは、

 私との将来を考えてくれていた。


 夢の話を、

 本気で考えてくれていた。


 田舎の診療所。

 二人でやる、あの夢。


「……そりゃ、そうよね」


 天井に向かって、独り言。


「当たり前じゃない」


 片足を、もう一度大きく揺らす。


「相棒だもの」


 ぶらぶら。


「親友だもの」


 ぶらぶら、ぶら。


「……なんで最初に聞かなかったのかしら、私」


 そう言いながらも、声は軽い。

 責める調子ではない。


 むしろ、照れに近い。


「ほんと、ばか」


 でも、その言葉すら、どこか楽しそうだった。


 気分は、完全に上機嫌だ。


 胸の奥にあった重さは、

 きれいさっぱり消えている。


「レオン、なにしてるのかしら」


 仕事?

 それとも、資料?

 管理局?


「……早く帰ってこないかしらね」


 待つ、という感覚さえ、今日は心地いい。


 セレナはソファの上でごろごろと身体を動かす。

 背中を預け直し、腕を伸ばし、

 また片足を投げ出す。


 ぶらぶら。


 ぶらぶら。


 まるで、心まで揺れているみたいだった。


 窓から入る光が、床に落ちる。

 埃が、ゆっくりと舞っている。


 それさえ、きれいだと思えた。


「あー……」


 大きく息を吐いて、


「幸せ」


 ぽつりと、そう言った。


 誰に聞かせるでもなく。

 ただ、確かめるように。


 部屋の中は、

 静かで、

 あたたかくて、

 完璧に、幸せだった。






 数刻前、セレナが外に出ていた時だ。

 

 管理局の記録室は、静かだった。


 紙の擦れる音と、遠くで鳴る時計の針の音だけがある。

 レオンは、机の上に広げた資料に目を落とし続けていた。


 通達履歴。

 人事記録。

 非公式メモ。

 戦果処理の内部注釈。


 ——何もない。


 セレナに対する圧力。

 命令。

 牽制。

 忠告。

 暗黙の示唆。


 どこにも記録が残っていない。


 それが、かえって異様だった。


「……ない、か」


 小さく呟く。


 だが、確信だけは消えない。


 確かに、何かがあった。


 セレナは、抱え込む人間だ。

 弱音を吐かない。

 圧を圧として認識しても、表に出さない。


 それでも。


 今回は違った。


 よく見なくても分かるほど、

 消耗していた。


 削れていた。


 言葉の端。

 返答の間。

 視線の揺れ。


 戦場で何百人もの負傷者を見てきた。

 人が壊れ始める兆候を、見誤るほど鈍くはない。


 ——許さない。


 胸の奥で、はっきりと言葉になる。


 どんな組織が相手でも。

 どんな立場の人間でも。


 セレナの心を削る圧力を、

 許すつもりはなかった。


 たとえ、それが管理局そのものでも。

 国の意思でも。

 英雄という役割でも。


 今回、記録が残っていない。


 それはつまり、

 相当うまく隠されているということだ。


 偶然ではない。

 末端の嫌がらせでもない。


 意図があり、

 手慣れていて、

 痕跡を残さない。


「……厄介だな」


 それでも、引く理由にはならない。


 分からないなら、調べる。

 見えないなら、別の角度から探す。


 だが——。


 今日、今この瞬間にできることは、

 もう一つしかなかった。


 レオンは資料を閉じ、立ち上がる。


 家に帰って寄り添うことだ。





 帰り道、足取りは重かった。


 いつもなら、

 セレナと歩く街だ。


 今日は、一人だ。


 ——なんて声をかければいい。


 頭の中で、何度も考える。


「大丈夫ですか」

 違う。


「何かありましたか」

 それも違う。


 あれでは、

 絶対に話さない。


 セレナは、

 自分が原因だと思われることを、何より嫌う。


 外からの圧力を口にすることは、

 彼女にとって「弱さの告白」になる。


 ——聞き出すのは、無理だ。


 その結論には、もう辿り着いていた。


 だから、

 半分は諦めている。


 問題は、その先だ。


 聞けないなら、

 どう寄り添えばいい。


 何を言えばいい。


 沈黙か。

 いつも通りの会話か。


 ——下手な一言で、

 さらに削ってしまうかもしれない。


 それが、怖かった。


 家の前に立つ。


 扉を見つめて、

 一度、深く息を吸う。


 英雄最高医としての判断力も、

 戦場での冷静さも、

 今は役に立たない。


 必要なのは、

 最初の一言だ。


 その一言を間違えれば、

 セレナは、また一人で抱え込む。


 正解が分からないまま、

 レオンは扉に手をかけた。


 重い足取りで。


 それでも、

 引き返す選択肢だけは、なかった。

 

 セレナにすこしでも寄り添えるように。





 玄関の扉が閉まる音がした。


 その直後だった。


 リビングに足を踏み入れたレオンは、思わず動きを止める。

 室内の空気が――明らかに違う。


 ソファのそばにいるセレナが、こちらを見た。


 ……明るい。


 いや、明るすぎる。


 さっきまで頭の中で組み立てていた言葉が、一瞬で散った。


「レオン!」


 次の瞬間、セレナは駆け出してきた。

 迷いもなく、一直線。


「ちょっと、どうしたのよっ! そんな暗い顔して!」


 両手を腰に当てて、真正面から覗き込んでくる。


「世界は思ったより明るいものよ! ほら、こんなに!」


 なにが、とは言わない。

 でも、確信に満ちた声だった。


「何があったの? 話してちょうだい?」


 さらに一歩近づいて、


「私が全部、解決してあげるわっ!」


 ……それは。


 レオンは一瞬、言葉を失った。


(それ、僕が言おうとしていた台詞なんですが)


 完全に出鼻をくじかれる。


「えっ……い、いや……あの……」


 視線が泳ぐ。


「……ご機嫌、ですね?」


 探るように言うと、


「え? なにー?」


 セレナは本当に不思議そうに首を傾げた。


「いつもどおりよっ?」


 そして、ぐいっと背中を押してくる。


「ほらほら、部屋着に着替えておいでっ!」


「え、ちょ、ちょっと――」


「そのあとでね!」


 びしっと指を立てる。


「私がちゃんと、全部聞いてあげるからっ!」


 一拍置いて、


「大丈夫?」


 ……完全に、立場が逆だ。


(いや、だから……それは僕の役割で……)


 口に出す前に、諦める。


「……わかりました」





 結局そのまま部屋に向かい、着替えて戻る。


 リビングには、

 すこぶる機嫌の良さそうなセレナがいた。


 ソファに腰掛け、片足をぶらぶら。

 揺れは、相変わらず大きい。


 顔を見るなり、にこっと笑う。


「おかえりっ」


「……ただいまです」


 一拍、間を置いてからレオンが切り出す。


「……最近、何かありました?」


「え?」


「いえ、様子が……その……」


 言葉を選ぶ。


「何か、変わったこととか」


 セレナは一瞬考えるふりをして、


「んー……」


 そして、軽く手を振った。


「なにもないわよ?」


 声は明るい。


「ほんと?」


「ほんとほんと!」


 即答だった。


「……最近、思い詰めてませんでした?」


「えー?」


 セレナは少しだけ視線を逸らし、


「あー……まあー……」


 指で髪をくるりと巻く。


「ちょっと考え事? みたいなことはしてたかも?」


 でも、すぐに顔を上げて、


「全部解決したけど!」


 胸を張る。





「……何が原因だったんですか?」


 レオンが慎重に聞くと、


「そうねー」


 セレナは楽しそうに笑って、


「あえて言うとしたら、んー、レオンかも?」


「……僕ですか?」


 思わず聞き返す。


「何か、言いました?」


「ううん」


 首を振る。


「なにも言ってない」


 それから、指を突きつける。


「そこよ!」


「……そこ?」


「なにも言わないのが問題なの!」


 くすくす笑いながら、


「もう、ほんとに」


 ソファにごろんと横になり、片足を大きく揺らす。


「困った人なんだから」


 でも、その声に責める色は一切ない。


 むしろ、嬉しそうだった。


 レオンは少し戸惑いながらも、その様子を見つめる。


(……よかった)


 理由はまだ分からない。

 でも、確かに――今は、軽い。


「……じゃあ」


 レオンは小さく息を吐き、


「今日は、何から聞いてほしいですか?」


 セレナはにっと笑った。


「全部!」


 即答。


「遠慮なく、最初から最後まで!」


 リビングには、

 久しぶりに、何の影もない空気が流れていた。

※あとがき

ここまで読んでくださってありがとうございます。

もし何か残るものがあれば、★★★★★で執筆の励みになります。

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