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第31話 ヴァルド西戦線からの帰還

 帰還準備が整い、馬車が並び始めた頃だった。


 セレナは一歩前に出る。


 団長としての立ち位置に戻り、短く息を吸った。


「第五部隊」


 声ははっきりしている。


「聞け」


 全員が姿勢を正す。


「我々は、本来なら撤退を考えられていた戦線を取り戻した」


 一拍。


「そして、完全制圧に至るまでの働きを見せた」


 事実だけを、淡々と述べる。


「だが」


 声が少しだけ低くなる。


「今回の戦果は、すべて団員諸君――

 君たち全員のものだ」


 ざわりと、空気が揺れる。


 セレナは続ける。


「私、セレナ・ヴァレンティスと」

「英雄最高医レオンの戦果は、存在しない」


 言い切った。


「もし、この件について」


 視線が鋭くなる。


「私やレオンの名」

「特に、レオンの独自魔法に関する情報が外部に漏れた場合」


 間を置く。


「責任は、私が追及する」


 誰も口を挟まない。


「公式な報告は、これだけだ」


 簡潔に告げる。


「私とレオンは、戦闘開始直後に軽傷を負い、後方に下がった」

「以降の戦果は、すべて第五部隊が挙げた」


「それ以外を話すことを、禁止する」


 重い言葉だったが、威圧ではなかった。

 守るための線引きだった。


 しばらく、沈黙。


 やがて、誰かが鼻をすする音を立てる。


「……団長」


「俺たちのために、そこまで考えてくれて……」


 声が震える。


 何人かが、黙って目を伏せた。

 涙を拭う者もいる。


 セレナは、それを見渡してから言う。


「確認は終わりだ」


 声を切り替える。


「各員、馬車に乗れ」


 それが、この戦線での最後の命令だった。


 第五部隊は、それぞれ静かに動き出す。


 誇らしさと困惑と、

 それでも確かな納得を胸に。


 ヴァルド西戦線は、背後に置かれた。


 誰一人欠けることなく、

 第五部隊は帰還の途についた。



 先頭の馬車に乗る。


 それは、いつもどおりだった。

 レオンとセレナ、二人きり。


 馬車が動き出してしばらくしてから、

 セレナの肩から、ふっと力が抜けるのが分かった。


「あー……つかれたー」


 座席に深くもたれかかりながら、素直な声が漏れる。


「そうですね」


 レオンが、少し笑う。


「あの魔法のおかげで、

 ほとんど何も苦労せずに終わったわね」


 セレナは天井を見上げる。


「ほんと、人生で一番楽だった戦いよ」

「完全制圧って……笑えるわね」


「まさか、あそこまで効くとは思いませんでした」


 レオンは正直に言った。


「いい?」


 セレナが身を乗り出す。


「その魔法、絶対に他言しちゃだめよ」


 両手を大きく広げて、わざとらしく言う。


「利用しようとする管理局の顔が、目に浮かぶわ」


「はい。

 それはもう、間違いなく」


 二人で、くすっと笑う。


「結局、あまり寝れなかったわね、私たち」


「不思議ですよね」


 レオンは窓の外を見ながら言う。


「戦った後って、

 どうして昔話に花が咲くんでしょう」


「緊張が抜けるからかしら」


 馬車は進む。


 やがて、王都の輪郭が見えてきた。


 門の前で馬車が止まり、二人が降りると、

 すぐに管理局の重鎮たちが姿を見せた。


「今回のヴァルド西戦線での活躍、

 本当に見事であった」


 丁寧に、頭を下げる。


「礼を言う」


 そして、確認するように続けた。


「今回の戦果は、

 第五部隊の団員のみで挙げたもの――

 それで間違いないか?」


「はい」


 セレナは短く答える。


「団長や英雄最高医がいなくとも、

 立派な第五部隊へと成長させた」


 評価の言葉が続く。


「ただし、今回の戦果は

 個人に与えられるものではない」


「理解しているな?」


「もちろんだ」


 セレナは即答した。


 式典が予定されることも伝えられる。

 想像をはるかに超える活躍だった、と。


 管理局の人間が去ったあと、

 セレナは第五部隊の前に立った。


「皆、ご苦労だった」


 声は、穏やかだった。


「それぞれ、家へ帰れ」

「家族のもとへ戻っていい」


 一拍。


「ただし――」


 全員を見る。


「今回の私とレオンの戦果については、

 家族にすら話すな」


「すべて、諸君らの戦果として、

 堂々と自慢するといい」


 そこで、はっきりと言う。


「実際、諸君らの活躍は見事だった」


「解散」


 空気がほどける。


 誰かが笑い、

 誰かが肩を叩き合い、

 明日の夜に祝勝会を開く話が自然に広がった。


 もちろん、レオンが出ないので、

 セレナも断った。


「今回の主役は君たちだ」


 それだけを理由に。


 やがて、人影が散っていく。


 セレナとレオンも、家路についた。


 同じ家だ。


 扉を開けた瞬間、

 ようやく戻ってきた、という実感が胸に広がる。


 そのとき、セレナが唐突に、

 ぽん、とレオンの肩に頭を預けた。


「……よかった」


 一言だけ。


 いつものセレナだった。


「よかったです」


 レオンは静かに答える。


「こんなに早く帰ってこれるとは、

 思っていませんでしたから」


 二人で、しばらくそのまま立っていた。


 外はもう、完全な朝だった。


 戦場は遠い。


 名誉も、期待も、今はここにない。


 そして――

 また、休暇が始まる。


※あとがき

ここまで読んでくださってありがとうございます。

もし何か残るものがあれば、★★★★★で執筆の励みになります。

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